犬や猫の毛などのアレルギーが喘息(ぜんそく)の発作の原因のひとつだと知った川瀬隆庸(かわせ・たかつね)社長は帝塚山ハウンドカムの廃業まで意識しました。しかし玄米菜食を取り入れた食生活で病院通いから縁が切れる体質づくりに成功します。
そこで痛感したのが「食」の大切さです。愛犬のアレルギーや癌(がん)、心臓病、腎臓病などの病気で悩んでいる愛犬家たちの声は店で耳にしていました。
犬に元気で長生きをしてもらうために
川瀬社長は考えました。
「食生活の改善が体に良いのは人間もペットも一緒のはず」
そこで…。
「犬に向いている食べ物って何やろ?と考えたときに頭に浮かんだのが生肉中心の食事でした。そこで馬肉や鶏肉で、お客さんにも愛犬に試してもらったのです。病気が改善されたり、毛のつやが良くなったり…。良い結果が出てきたので『これやな!』と生肉の効果が確信できました。犬も猫も病気になってから動物病院での治療だけに頼るのではなく、自然治癒力を高めて元気に長生きしてほしい。自然な食事をはじめ、運動や精神的なことを含めたケアやサポートをすればみなさんに喜んでもらえると思いました」
そして1998年ごろに生まれたのが「あなたの愛犬が元気で生きる20歳まで生きるために」という帝塚山ハウンドカムのコンセプトです。
現在はオリジナル商品として馬、鹿、鴨、ニワトリ、ラム、イノシシ、ダチョウの生肉や近江牛の生骨などを販売しています。
こうして川瀬社長が喘息の脅威をプラスに変えて、現在のハウンドカムの原点となる姿勢の誕生につなげたわけです。
新天地へ
そんな成長への流れの中で1999年にオリジナルドッグファッションブランド「ASHU(アッシュ)」も設立され事業は拡大し来店者も増えました。10坪の店は手狭になり、川瀬社長も「広くて、きれいなショールームとしても使えるスペースが必要やな、と思い始めました」
そこで見つけたのが元はコンビニだった床面積約50坪(約165平方メートル)の空き店舗でした。レンタルレコード・CDの「回盤堂」を改装した“初代”の「ハウンドカム」から南へ約100メートル。阪堺電軌上町線のチンチン電車が走る道沿いです。このスペースに移転し2003年「帝塚山ハウンドカム」は「株式会社帝塚山ハウンドカム」として法人化されました。
当時のスタッフは6人。新店舗には「ASHU」の全商品をはじめとしたペット用品を並べ、トリミングを行うようになりました。「儲ける気はなかった」という商売が本格的なビジネスへと成長したのです。
遠方から愛犬家が来店する理由
ところで、トリミングで犬と接していた川瀬社長には、気になっていることもありました。犬の口臭です。
「歯石が原因になっていることが多く、歯石を取る器具をドイツから輸入して自分の家の犬にも試していましたが、ケアができていないワンちゃんが多くて、歯槽膿漏(しそうのうろう)が悪化して膿がたまり頬を突き破るような状態にまでなっているケースも年に1~2回は見るようになっていたんです。犬が長生きするようになったことも一因でしょうけど、膿(うみ)の毒素が血液を通じて肝臓に負担をかけているのか、全身が疲弊(ひへい)している犬もいました。人間と一緒で歯周病と糖尿病、心臓病とも関係していることも学術的に指摘されるようになってきていました」
川瀬社長は「『あなたの愛犬が元気で生きる20歳まで生きるために』というコンセプトからもウチの店としては、この事態は放っておかれへん。症状の初期段階でケアをして悪くならないようにアドバイスできたら…」と考えていました。
そんな折、ペットショップを対象にした犬の歯のケアの講習会にもスタッフと参加。そこで講師をつとめた獣医師が強調したのは、獣医師の資格がなければ治療行為はできず、ペットショップができるのはケアまで、ということ。
「その範囲でも、口臭がかなり改善されることは知っていましたし、問題は別のところにあることもわかっていました。動物病院で歯石除去をする場合は麻酔を使うケースが多くて無麻酔のところはほとんどなかったんです。ところが、愛犬への麻酔に抵抗のある飼い主は少なくありません。大きな手術ならともかく歯のケアで、リスクのある麻酔は避けたいと思われるわけです。ペットショップでの簡単なケアでは麻酔を使わないですが、十分じゃないことがほとんどでした。そこでハウンドカムではペットショップができる範囲で時間と手間をかけて本格的に歯のケアをすることにしました」
その結果、麻酔が嫌で歯のケアに二の足を踏んでいた愛犬家から喜ばれ、遠方から飛行機で来店する犬もいるそうです。
帝塚山ハウンドカムは食事から健康、ファッションまでペットのトータルケアができる存在となりました。