獣医師が解説

【獣医師が解説】愛犬の老犬介護の問題点と準備、心構え

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 「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
当院では高齢ペットの悩み事について相談を受けアドバイスを行っています。今回はその中で感じた老犬介護の問題点と準備、心構えについてお伝えします。

 今までの相談を通して私なりにまとめた問題点は次の3つです。
  (1)ペットオーナーの高齢化
  (2)過度の責任感
  (3)相談相手の不在

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【問題点(1):オーナーの高齢化】

オーナーの家族構成
 当院へ相談に来られる高齢ペットを飼育されている方々の家族構成として2パターンあるようです。

  

①子供たちの独立後、ご夫婦2人はペットと暮らしている

  

②定年退職後、ご夫婦2人になりペットを飼い始めた

 両パターンとも老齢期に入ったペットの世話をされるオーナーもシニア世代であるということです。

イヌの引取り
 2013年に動物愛護管理法という法律が改正され、オーナーはその動物が命を終えるまで適切に飼育する「終生飼養」が責務となりました。しかし、いろいろな理由により動物の飼育ができなくなる場合があります。

 環境省のまとめでは、各都道府県で引取られた1年間のイヌの合計頭数は41,175頭でした(平成28年度)。その内オーナーからの引取りは4,663頭(全体の11.3%)、オーナー不明のものは36,512頭でした。なお、オーナー不明とは迷子や捨てられたイヌたちのことです。

 NPO法人 人と動物の共生センターの奥田順之 獣医師らの報告によりますと、愛犬の飼育ができなくなり引取りを申請したオーナーのうち、50~70代以上のシニア世代の合計は全体の約75%とのことです(2013年)。

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飼育ができなくなった理由

 では、イヌの飼育ができなくなった理由は何でしょうか?オーナーの高齢化によるもの(病気、入院、死亡など)が最も多く26.3%を占めています。またイヌの老化に関するもの(病気、認知症の発症など)が14.4%でした(奥田獣医師らの同報告)。

 いくら法律で「動物の終生飼養」と謳われても、シニア世代のオーナーにとって老犬のケアには体力的にも精神的にも限界があるのは事実です。

 ※お知らせ:動物愛護センターのような施設への引取りではなく、安心してペットの世話をお願いできる「譲受飼養」というものがあります。

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【問題点(2):過度の責任感】

介護とADL

 以前の「老犬介護食」のコラムにおいてADLの低下について述べました。ADL(Activities of Daily Living)とは日常生活を送るために必要な動作のことでした。

 具体的には食事、歩行、トイレ、入浴などです。これら老犬のADLの補助を自分1人で行っている方、または行わなわなければならないと考えているオーナーの方がおられます。

責任感と自己犠牲

 相談を伺っているとこのようなオーナーは、とても誠実で過度の責任感・義務感をもつキャラクターの方が多い気がします。

 「介護うつ」という言葉があります。一般的にうつになりやすいキャラクターとしては次のようにいわれています(日本認知療法学会)。何もかもご自分1人で行うのはオーナー自身のQOL(生活の質)に支障きたす原因になります。

 ○几帳面で責任感や正義感が強い人
 ○他人から信頼されるまじめな人
 ○上手な手抜きができない人
 ○自分一人で責任を抱え込んでしまう人

 ※お知らせ:自宅まで来てもらい老犬の介護ケアをお願いできる「出張介護
サービス」というものがあります。

【問題点(3):相談相手の不在】

相談相手は?

 みなさんはペットに関する相談ごとはどなたにされていますか?健康相談ならかかりつけの動物病院、フードについてはフードショップかと思います。しかし、老犬の介護準備や介護中の困りごととなると誰に聞けばいいのか判らず、悩まれているオーナーは少なくありません。

老犬コンシェルジュ

 みなさんのご家族で介護サービスを利用されているお年寄りはいらっしゃいませんか?高齢者介護の現場ではケアマネージャー(正式名称は介護支援専門員といいます)という方がおられます。

ケアマネージャーは家族からの相談を受けて要介護者のケアプランの作成や施設との連絡調整、その他さまざまな介護情報の提供などを担当されています。
 
現在、ペット介護においてはケアマネージャーのような有資格者の制度はありません。少し柔らかくして「老犬コンシェルジュ」とでも呼んでおきましょう。正確で幅広い情報提供を行う相談相手(=コンシェルジュ)が身近にいることは、老犬の介護をされているオーナーのみなさんには心強いものです。

【介護の準備と心構え】

 先ほど「譲受飼養」と「出張介護サービス」をお知らせしました。この2つについてもう少し詳しく解説しましょう。

譲受飼養業とは?

 2013年の動物愛護管理法の改正により、飼養動物の終生飼養が原則になったことは述べました。これと同時に動物取扱業種として新しく設定されたのが譲受飼養業(ゆずりうけしようぎょう)です。

 法律ではペットショップは「販売業」、ペットホテルは「保管業」に区分されています。新設された「譲受飼養業」とは高齢ペットの介護施設、いわゆる老犬・老猫ホームをいいます。

 老犬・老猫ケアの需要増加により、譲受飼養業者は全国で71業者が登録されています。なお、関西地区の登録業者数は次のとおりです(2016年)。

 ○大阪府(2)、京都府(3)
 ○兵庫県(5)、奈良県(2)、和歌山県(2)、滋賀県(1)、三重県(1)

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保管業と譲受飼養業

 自宅での高齢ペットの介護ができなくなった場合、どこへお願いすればいいのでしょうか?老犬・老猫ホームは終生の介護ケアに対応する施設です。また業者によってはペットホテルでも長期預かりという形で受け入れOKなところがあります。この2業種の違いは何でしょうか?

 一番の違いは「ペットの所有権」です。ペットホテル(保管業)へ愛犬・愛猫を終生預け入れしてもペットの所有権はオーナーにあります。ホテルを変えたくなったらいつでも変えることができます。

 これに対し老犬・老猫ホームでは最初の契約時にペットの所有権を介護施設側に譲渡することが条件になります。これによりペットの終生飼養義務もオーナーから施設に移行します。譲受飼養業とは所有権を譲り受けて最期まで飼養する業者という意味です。

 では業者が保管業か譲受飼養業かは何で見分ければいいのでしょうか?この場合は業者ホームページの「動物取扱業」の欄を見て下さい。ここに「保管」とあるか「譲受飼養」と記載があるかで確認できます。なお、両方を登録されている業者もあります。

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出張介護サービス

 出張介護サービスとは自宅まで来てもらい、高齢ペットのいろいろな生活介助をお願いするものです。サービス項目としては散歩、食事、入浴、トイレなどが主です。その他にも爪切りや歯磨き、床ずれの処置などにも対応してもらえます。

 オーナーご自身が高齢者であるとか、飼われている大型犬に介護が必要になった場合など、ペットとの外出が難しい方々に好評の様です。またペット介護のプロからケアの技術が学べたり、動物病院やフードなどの幅広い情報交換ができるといったメリットもあります。

なお、動物病院の往診とは異なり、治療行為はできませんのでご注意下さい。

 これらの他にも高齢者のデイサービス(=通所介護)の様にペットを昼間預かってもらえる施設など、近頃はさまざまな介護サービス業者が誕生しています。いろいろな理由から自分だけではケアができない場合、ペット介護のサービス利用を躊躇する必要はありません。

老犬介護の心構え

 最期に介護の心構えについてお話します。5年ほど前、何かの参考になるかと思い高齢者介護のセミナーを聴講したことがあります。その中で次のような印象に残ることばがありました。

 「介護を受けている人が欲しいのは温かいマフラーです。手編みのマフラーのこだわる必要はありません。」

 講師が言っていたのは、「手編み(=愛情)も大切ですが何もかも自分でやろうと思わないで介護サービスを上手に利用しましょう」ということでした。

ヒトの場合「介護5年」とよくいいます。同様にペットの介護も長丁場の仕事になります。「上手に手を抜く」ことは「愛情の不足」ではありません。まずは獣医師や身近なフードショップなどへ相談してみましょう。オーナーのみなさんが精神的にも肉体的にも健康であることが老犬介護の第一条件です。

(以上)

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