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【獣医師が解説】愛犬・愛猫の食事と健康

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私たちヒトをはじめ動物の健康維持のために毎日の食事は基本となるものです。今回は食事の栄養素が健康に与える影響について話をします。

【健康とは?】

健康の意味
 国連の機関であるWHO(世界保健機関)では「健康とは単に疾患がないとか虚弱でないという状態ではなく、身体的・心理的・社会的に完全に良い状態」と定義しています(1948年)。

 漠然としていますので少しかみ砕いていいますと、健康は次の3つのから成り立っているということです。

 ●身体的健康(からだの健康)
 …病気やケガなどの身体の症状
 ●精神的健康(こころの健康) 
…気分や感情、ストレスなど心の状態
 ●社会的健康 
…家族関係や地域社会あるいは職場での人間関係

 なおペットにおいて3つ目の社会的健康とは、オーナーや家族とのつながりになります。

健康づくりの3要素

 食事、運動、休養の3つを健康づくりの3要素といいます。食事は栄養成分の摂取としてからだの健康に大切です。運動は筋肉や骨の維持強化の意味がありますが、休養と共に気分転換やストレス解消などこころの健康にも大きく関与しています。

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 食事は健康づくりにおいて大切な役割を果たしていると述べました。ここからは3つの健康にとって最も大きな影響をもつ「がん」を例にとって、食事と健康の関係について話を進めましょう。

【食事とからだの健康】

がんと栄養素

 がん(悪性腫瘍)はペットの死亡原因のトップに位置する疾病です。10歳時の死因としてイヌでは19.8%、ネコでは泌尿器疾患と同率の23.4%を占めています(アニコム家庭どうぶつ白書2017)。

 これらがんに罹っている動物では食物中の栄養素の代謝は健康な動物と大きく異なっています。さてここで問題です。3大栄養素といえば炭水化物、タンパク質、脂質ですがこの中にがんが大好きな栄養素があります。みなさんはどれだと思いますか?

炭水化物とがん

 がん細胞が一番好むのは炭水化物です。炭水化物は体内で消化されてブドウ糖になり、細胞のエネルギー源の役目を果たします。がん細胞は正常細胞と比べて3~8倍ものブドウ糖を取り込むといわれています。これはがん細胞は成長スピードが速いため、その分多くのエネルギーを必要とするからです。

 このがん細胞の性質を利用したものが「PET(ペット)検査」です。PETといってもイヌ・ネコとは関係なくPositron Emission Tomographyの略でがんを早期に発見する検査方法のことです。

ブドウ糖に似た検査薬にある目印を付けて体内に注射すると、がん細胞が間違えてこれをどんどん取り込みます。そして目印を特別なカメラで撮影することにより体のどの部位にがん細胞があるかがバッチリ判るというものです。(すこし脱線しました。)

 がん細胞によってブドウ糖を大量に横取りされた正常細胞はエネルギー不足になり、日に日に痩せ細ってゆきます。ではブドウ糖の摂取をやめればいいのですが、炭水化物は3大栄養素であるためそういう訳にはいきません。残念ですががん細胞を兵糧攻めにすることは出来ないのです。

 がん治療中のペットへの栄養補給の意味で食事は大切です。しかし炭水化物を多く含むフードは逆効果になるため要注意です。

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タンパク質とがん

タンパク質は体内で消化されてアミノ酸になり、これも細胞のエネルギー源として働きます。先程、がん細胞はブドウ糖が大好物と述べました。ではアミノ酸はどうでしょう?

アミノ酸は筋肉の素ですが、この中でブドウ糖に変わることができるアミノ酸があります。これを「糖原性アミノ酸」といい、がん細胞はこの糖原性アミノ酸を取込みます。

アミノ酸は全部で20種類ありますが、糖原性アミノ酸はその内の18種類ほどありますのでほとんど大部分といえます。ガン細胞と正常細胞は食物中のアミノ酸を奪い合うという関係にあります。

生体にとって利用できるアミノ酸が減少することは、キズの治癒の遅れや免疫力の低下などの原因になります。がん細胞によって奪われる分を考慮して、消化の良い良質なタンパク質を摂取することはがん治療を受けているペットには有効です。

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免疫力と栄養素

 がん細胞は食物中の大切な栄養素を貪欲に奪ってゆきます。なにか免疫力を高めてがん細胞の成長を抑えるような栄養素は無いのでしょうか?

 ある種の栄養素には生体の免疫力を応援強化する働きをもつものがあります。アミノ酸ではアルギニン、グルタミン、脂肪酸ではオメガ3脂肪酸、ミネラルとしてはSe(セレン)などがその代表になります(久留米大学 田中芳明 氏 2005年)。

 アルギニンやグルタミンは免疫に関係する細胞の働きを促進します。DHAやEPAとしてお馴染みのオメガ3脂肪酸には抗炎症作用や抗腫瘍作用、免疫増強作用があります。

 ここで1つ注意点があります。同じ脂肪酸の仲間でもオメガ6脂肪酸(リノール酸、γ-リノレン酸)には、逆にがん細胞の成長や転移を促進する可能性があるといわれています(日本小動物がんセンター 小林哲也 氏 2011年)。これら2つはフードやサプリメントにおいてセットで配合されている場合があるため、がん治療中には十分な確認が必要です。

 Se(セレン)はその強力な抗酸化作用によって、がん対応や免疫強化に貢献します。栄養素と免疫にはとても興味深い関係がありますので機会があれば別のテーマとして紹介します。

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【食事とこころの健康】

ペットにおいても思いっきり運動ができないとか、ひとりでの留守番が多いなどいろいろとイライラがたまります。食物の栄養成分で何かゆったりとした気分が得られるものはないのでしょうか?

トリプトファン

 アミノ酸の仲間でトリプトファンというものがあります。海外の研究者の報告で攻撃的なイヌにおいては低タンパク質のフードにトリプトファンを添加して与えるとおとなしくなったというものがあります(DeNapoliら 2000年)。

 ●合計33頭のイヌを試験に使用した
 ●4種類のフードを給与してその後の攻撃行動を観察した
    1)低タンパク質フード
    2)  〃   フード+トリプトファン
    3)高タンパク質フード
    4)  〃   フード+トリプトファン
 ●低タンパク質フード給与群ではトリプトファンを添加することにより
有意に攻撃性が低下した
 ●高タンパク質フード給与群でも同様の傾向が認められた

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精神安定に関与する栄養素
 トリプトファンの他にも気持ちをゆったりとさせる栄養素として次のようなものがあります。

 ○GABA(ギャバ:γ-アミノ酪酸)
…米胚芽由来の成分で神経の興奮を抑えます
 ○α-S1トリプシン カゼイン
…牛乳中のGABA様物質でイヌやネコの不安軽減作用があります
 ○L-テアニン
…緑茶成分でリラックスさせる作用があります

 これらはフード内に添加されたり、サプリメントとして販売されています。ペットの問題行動は生来の性格の他に、日々のストレスや加齢による認知機能の低下などが背景にあります。ペットのこころの健康のためにこれらの栄養成分を活用するのも1つの方法です

 ペットの健康はからだ(身体)、こころ(精神)、ふれあい(ヒトとの関係)の3つから成り立っています。そして食事のケアはこれら3つに深く関係しています。オーナーのみなさんは正しい食事(フード)と適切な運動と十分な休養を与えて愛犬・愛猫の健康をしっかりサポートしてあげて下さい。

執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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