獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「腫瘍とがん」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
犬種によって若干の違いはありますが、私たちの愛犬の死因トップ3は腫瘍、循環器疾患、泌尿器疾患です。今回のテーマはイヌの死因ナンバーワンである「腫瘍とがん」です。

腫瘍とは

ペットオーナーの方と腫瘍について話をしていますと、「腫瘍ってがんのことですよね」とか「がんと肉腫は別物ですか」といった質問を受けます。まずはこれらの名前について整理しましょう。

腫瘍

腫瘍の「腫」とは「はれもの、おでき」を意味します。また「瘍」の字も同じく「できもの」という意味です。漢字の意味からいうと、腫瘍とはからだの一部分が病的に腫れてくることとなります。

医学や獣医学において、腫瘍とは「細胞が自律的に増殖したもの」と定義されます。少し噛み砕いていいますと「細胞が勝手にどんどん増えたもの」ということになります。

良性腫瘍と悪性腫瘍

細胞が自分勝手に増殖するのは困ったことですが、そのスピードが緩やかで、さほど問題にならないものを「良性腫瘍」といいます。

病院のがん検診において「検査結果は良性でしたので、今すぐ手術をする必要はありません。」などとよく聞きます。

これに対して細胞の増殖スピードが速く、周囲の健康な組織を破壊したり、血流に乗って他の臓器に転移するような厄介者を「悪性腫瘍」と呼んでいます。

がんと肉腫

次にこの悪性腫瘍ですが、発生する部位によって2つに呼び名が分かれます。それが「がん」と「肉腫」です。

「がん」とは皮膚や消化管などの粘膜にできる悪性腫瘍を指すことばです。皮膚がん、胃がん、肺がんといったメジャーなものがあります。すなわち、がんとは『からだや臓器の表面にできる悪性腫瘍』となります。

最後に「肉腫」があります。これはからだや臓器の表面ではなく、筋肉や骨の内部にできる悪性腫瘍をいいます。「骨肉腫」がその代表でしょう。

腫瘍の発生理由

良性にせよ悪性にせよ、腫瘍とは元々は普通の細胞が暴走して増殖するものです。ではなぜ増殖のブレーキが利かなくなるのでしょうか?

細胞増殖の計画書

私たちのからだを作っている細胞はそれぞれ、「これくらい増殖したらストップしなさい」という計画書をもっています。これがいわゆる遺伝子(DNA)です。

細胞は2つに分裂するたびにこの計画書をそっくりコピーして、新しい細胞に渡します。このようにして細胞は計画書どおりの増殖を行い、一定の数を維持しています。

計画書の誤コピー

遠い昔30年ほど前の学生時代ですが、試験前になると友達のノートを借りてコピーさせてもらいました。コピーはさらにコピーされて、そのうち文字がつぶれて何が書いてあるのか判らなくなりました…。

というように、細胞の計画書である遺伝子もコピーのし過ぎとか、コピー機の不具合などの理由で、オリジナル(=原本)とは内容が異なるものが出回る場合があります。

細胞の増殖回数が書いてある部分の文字がつぶれてしまった場合、その誤コピーをもらった細胞はブレーキが利かず増殖を続ける腫瘍になるわけです。

また細胞のかたちや働きを規定している箇所の文字がつぶれた誤コピーをもらってしまうと、役に立たない細胞(組織、臓器)ができてしまうことになります。

誤コピーの背景

計画書(遺伝子)の原本とは異なる変なコピーができてしまう背景には何があるのでしょうか?よく知られていることとして次のようなものがあります。

○からだの中に由来するもの
 ・活性酸素 …体内でできた活性酸素が遺伝子を傷つける
 ・老化 …遺伝子のコピー回数が多くて文字がつぶれる

○からだの外に由来するもの
 ・たばこ …煙の中の有害成分が呼吸器の細胞の遺伝子を傷つける
 ・紫外線 …皮膚の細胞の遺伝子が障害を受ける

以上のように腫瘍が発生する直接の理由は、遺伝子(DNA)の損傷ということになります。

腫瘍の発生状況

岐阜県で飼育されるイヌ83,204頭を対象とした腫瘍の発生調査報告がありますので見てみましょう(岐阜大学 駒澤 敏ら 2016年)。

平均発生年齢

腫瘍全体としての平均発生年齢は10.5歳でした。これよりも発生年齢が高い犬種としてビーグル(12.5歳)、低いものではフレンチ・ブルドッグ(7.1歳)がありました。

先ほど、腫瘍の発生要因として老化を紹介しました。平均の発生年齢がおよそ10歳であることから、いわゆる高齢犬になると正常な遺伝子コピーに支障が出てくることが判ります。

腫瘍の内訳

調査対象犬全体における腫瘍発生率は1.5%でした。その内訳は良性腫瘍が47.7%、悪性腫瘍が52.3%であり、ほぼ同等の結果でした。

犬種別の発生率

平均よりも高い腫瘍発生率の犬種には、バーニーズ・マウンテンドッグ(8.2%)、次いでパグ(3.8%)、ウエルシュ・コーギー(3.3%)がありました。

逆に発生率が低いものではチワワ(0.5%)、柴犬(0.7%)、ポメラニアン(0.9%)の順でした。

この中でバーニーズMDの腫瘍発生率が高いのが目立ちます。これには大型犬は早く大きくなるため細胞の分裂サイクルが速く、その分遺伝子の損傷リスクが高くなるという考えがあります。

また、大型犬は小型犬よりも寿命が短い傾向がありますが、これと何か共通する背景があるのかもしれません(共に科学的な説明はされていません)。

身近な腫瘍対策

ペットとの生活において腫瘍やがんの予防策は何かないのでしょうか?前述の「遺伝子の誤コピーの背景」から身近な対応策を考えてみましょう。

抗酸化物質

活性酸素は常にからだの中でつくられて細胞にダメージを与えることにより、老化や免疫力の低下にも関係する物質です。

この活性酸素のはたらきを打ち消すものとして抗酸化物質があります。私たち動物は食物からいろいろな抗酸化物質を取り込んでいます。

以前紹介しましたビタミンCやE、さらにミネラルではセレンが有効な抗酸化物質です。

実際に最近、ビタミンCの摂取が胃がん予防に有効であるというメカニズムが、マウスを使った実験によって明らかにされました(慶応義塾大学 永野修ら 2015年)。

抗腫瘍物質

がん患者への栄養学的なアプローチ策というテーマで、オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)の抗腫瘍効果に関する文献があります(日本小動物がんセンター 小林哲也 2011年)。

この中で小林はオメガ3脂肪酸が、次のような抗腫瘍作用をもっていると述べています。

①がん細胞の成長、転移を抑制する作用
②がんに栄養を送る血管の成長を抑制する作用
③免疫を増強する作用

このコラムで、たびたび登場するオメガ3脂肪酸(DHA、EPA)ですが、改めて私たちヒトやペットの健康維持に有用な栄養物質といえます。

タバコの煙

喫煙と肺がんとの関係は昔から指摘されていますが、近年は健康増進法という法律により「受動喫煙(副流煙)」による健康の影響もクローズアップされてきています。

国立がん研究センターの祖父江友孝は、喫煙者による副流煙は同居者の肺がんリスクを20~30%増加させると報告しています(2008年)。さらに受動喫煙はペット犬に対しても発がんの可能性があると述べています。

環境省も「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」の中で、ペットに対する受動喫煙の害についての注意喚起を行っています。

ペットオーナーのみなさんの中で、タバコを吸われる方はいらっしゃいませんか?ご自身の健康はもちろんですが、大切な家族やペットのためにも禁煙をおすすめします。

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冒頭で愛犬の死因トップ3は腫瘍、循環器疾患、泌尿器疾患であると述べました。実はヒトの死因トップ3は悪性新生物(=がん)、心臓疾患、肺炎であり何となく似ています。

みなさんもご存知のように、肥満、糖尿病、関節痛、認知機能低下、高齢化などヒトとペットは大変似通った問題点を抱えています。

腫瘍やがんだけでなくヒトにおいてこれらの対策として有用なものは、私たちの愛犬や愛猫の健康維持にもどんどん取り入れていきたいものです。

執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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