ブレインフードとは脳機能の維持向上を応援する食材や栄養素をいいます。よく耳にするものとしてオメガ3脂肪酸(DHA)、抗酸化物質(ポリフェノール)、そして前回は馴染み深い卵の卵黄(コリン)を紹介しました。今回はたくさんの種類があるチーズの1つ、カマンベールチーズです。
目次
【チーズを食べる習慣】
福岡県の久山町という所に住む高齢者1,000人を対象に、数年以上にわたり健康状態と食生活との関係を調査した報告があります。それによると牛乳や乳製品の摂取量が多いほど、認知機能の低下リスクが低いとのことです。乳製品は脳の健康を応援するブレインフードとしての働きがあるようです。
うつ病リスクとの関係
65歳以上の高齢女性1,035人を対象にチーズを食べる習慣と脳機能の関係を調査した最新報告があります(Suzukiら 国立長寿医療研究センター 2024年)。週に1回以上チーズを食べる人を食習慣ありとして集計したところ、全体の85.3%(883人)が何かしらのチーズを食べていました。
そして対象者全員に老年期うつ病評価試験を実施したところ、平均スコアはチーズの食習慣なし3.1に対し食習慣あり2.1とチーズを食べている人の方が低い結果でした。さらにチーズの中でもカマンベールチーズを習慣的に食べている高齢者119人のスコアは1.9と最も低い値でした。(この試験では5点以上ではうつ状態が疑われるとされています)
認知機能との関係
もう1つ認知機能障害の検査も実施されています。平均スコアはチーズの食習慣なし27.6に対し食習慣あり28.4、そして習慣としてカマンベールチーズを食べる高齢者は他のチーズよりも高く28.7でした。(この試験ではスコアが高いほど認知機能良好とされます)
このようにチーズ、中でもカマンベールチーズの食習慣をもつ高齢者は脳の健康状態が良好であり、さらに認知機能も高く維持されていることが確認されています。
【カマンベールチーズ】
ブレインフードの候補と考えられるカマンベールチーズについて調べてみましょう。カマンベールチーズは表面が白く、中身は軟らかく弾力性のあるナチュラルチーズの1つですが、いったいどのような成分が脳機能に良いのでしょうか?
人気と特性
チーズはピザやお酒のおつまみ、また一口サイズのものはペットのおやつにも利用されているでしょう。塩分がやや多いため食べ過ぎ/与え過ぎには注意が必要ですが、高タンパク質・高カルシウムであり栄養価も高い食材です。
大学生55人を対象にした調査では、カマンベールチーズを食べたことがあるとする回答は全体の85%、好きと答えた割合は62%とのことです。ブルーチーズのように強いクセがないため、広く人気を集めていると思われます(羽生敦子 白鷗大学 2016年)。
チーズは製法により加熱処理されるプロセスチーズと非加熱のナチュラルチーズに分けられます。ナチュラルチーズはメインの乳酸菌が生きているため発酵・熟成が進み続けるタイプであり、その1つがカマンベールチーズです。カマンベールチーズは乳酸菌と白カビが牛乳のタンパク質を分解して美味しさを作っており、この結果生まれた物質に「β(ベータ)ラクトリン」というペプチドがあります。
βラクトリンの作用
βラクトリンとは聞き慣れない名前ですが、その正体は乳タンパク質がアミノ酸レベルにまで分解される途中のペプチドというものです。牛乳やチーズなどの乳製品が脳に良い作用があるという調査報告から近年研究が進み、カマンベールチーズに多く含まれるこのβラクトリンという物質が脳機能の維持改善に関係していることが判ってきました。
βラクトリンの働きとして、前回紹介した神経伝達物質の仲間であるドーパミンというものを増やす作用があります。また別の研究ではβラクトリンを加えたエサを食べた試験群マウスは対照群マウスに比べ、脳の海馬という部位の神経細胞数が多いという結果が報告されています(金留理奈ら キリンホールディングス㈱ 2019年)。
このようにβラクトリンは脳神経間の情報伝達を応援したり、記憶を司る海馬の脳神経細胞の新生を促進することで、加齢による認知機能の低下を抑える作用があると考えられます。したがってβラクトリンを含むカマンベールチーズはブレインフードの1つといえるでしょう。
【脳機能応援作用】
期待が膨らむβラクトリンはカマンベールチーズやヨーグルトの上澄み部分(乳清:ホエイ)に含まれていますが、現在では直接加工製造し商品化されています。では具体的な脳機能向上の実験データを確認しましょう。
注意集中力
健康な中高年にβラクトリンを含む乳清ペプチドを12週間摂取してもらいました。このβラクトリン群(51人:平均年齢60.7歳)とプラセボ群(53人:平均年齢61.2歳)の被験者に視覚性抹消課題というテストを行いました。これは多様な文字列の中から特定の文字をチェック/抹消するというもので、脳の注意集中力を測定する試験です(Kitaら キリンホールディングス㈱ 2019年)。
開始前、6週後、12週後における文字チェック完了までに要した時間を比較した結果、βラクトリン群の方が短縮された割合が高いことが判りました。すなわち物事に集中する力がアップしたということです。
記憶想起
上記の群設定でもう1つ視覚性対連合記憶試験というテストを実施しました。これは何かの手がかりを利用して少し前に記憶したものを引き出す記憶想起という能力を調べるものです。
開始前と12週後の試験正解の増加数を比較した結果、プラセボ群が平均0.7であったのに対し、βラクトリン群は平均1.9のアップとなりました。このことは短期の記憶を引き出す力=思い出す能力が向上したということになります。
言語流暢性
年を取ると会話の中で次の言葉がスムーズに出てこないことがあります(実は私も経験しています…)。この現象を応用した脳機能検査に言語流暢性テストというものがあり、例えば1分間に「赤い色をしたもの」とか「動物の名前」をいくつ答えられるかといった内容です。
45~64歳の中高年30人をβラクトリン摂取群(15人:平均年齢53.3歳)とプラセボ群(15人:平均年齢53.0歳)の2グループに分け、言語流暢性テストを実施した報告があります(Kanatomeら キリンホールディングス㈱ 2021年)。
1分間に「あ」から始まる単語をいくつ思い付くかを実験開始前と摂取6週間後で比べた結果、プラセボ群は13.3個→13.3個で変化なしでした。対してβラクトリン群は13.3個→15.2個に増加しました。βラクトリンは頭の中で単語を次々と想い起こさせ、スムーズな会話を応援する働きがあるということです。
今回は脳を活性化するブレインフードとしてカマンベールチーズを紹介しました。牛乳・乳製品はタンパク質、乳脂肪、カルシウムなどの栄養成分が豊富であることに加え、誘眠作用などの健康機能も報告されています。
カマンベールチーズやヨーグルトの乳清(ホエイ)には微生物による発酵・熟成産物であるβラクトリンという機能性ペプチドが含まれています。加齢に伴う認知機能・記憶力の低下を少しでも抑えるために、オーナーご自身とペットの食生活にカマンベールチーズを取り入れてみてはどうでしょうか。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。