有機食品・オーガニック食品は、私たちやペットの健康を重視する人達にとって心強い食材です。また一般のものと比べて有機農産物は味が濃く、栄養価も高いといったイメージがあります。今回は美味しさと栄養価に焦点を当てながら有機/オーガニック野菜を考えます。
目次
【有機農産物の意味】
有機農産物は有機JASの認定を受けた野菜・果物・米などであり、有機JASマークを目印としてお店に並んでいます。まずは有機農産物の認定条件について詳しく見てみましょう。
購入したい有機食品
農林水産省の調べ(令和元年)によると、自宅での食事のために購入したい有機/オーガニック食品の第1位は生鮮野菜(59.5%)です。そして生鮮果実(25.8%)、パン(25.3%)、米(22.6%)、サラダ(22.3%)と続きます。
この結果から私たち消費者は有機食品、中でも有機農産物に対して新鮮さやビタミン・ミネラルといった健康栄養成分を期待していることが判ります。
有機農産物の意味
ここで有機農業・有機農産物とは何か?についてしっかり理解する必要があります。農林水産省は有機農産物を「収穫時に2年以上化学的に合成された農薬、肥料、土壌改良資材等を使用せず栽培された農産物であり、農水省の登録認定機関の検査・承認を受けたもの」としています。
この決まりによると有機農産物とは環境への負荷が小さい農法により栽培された野菜等であり、味や品質・栄養価については特に規定されていないということになります。少し誤解していた点があるかもしれませんが、これが有機JAS規格です。
使用できる肥料、農薬
有機農産物はいわゆる無農薬野菜とは別物であり、「化学的に合成されたもの」でなければ肥料も農薬も使用できます。参考までに有機農産物の栽培に使用されているものを紹介しましょう。
まず肥料では堆肥(たいひ)があります。堆肥とは牛、豚、鶏の糞やわらなどを微生物により分解させて作った肥料のことです。また食品残渣である豆腐かすやしょうゆかす、他に魚粉や油かすなども使用できます。
農薬としては植物を感染から防ぐ硫黄(殺菌剤)、害虫を殺す除虫菊成分(殺虫剤)、害虫を寄せ付けない食酢(忌避剤)といったものがあります。さらに意外なところでは害虫であるアブラムシを捕食するテントウムシといった天敵昆虫を活用する生物農薬もあります。このように自然由来であれば、有機農産物の栽培に肥料や農薬は使用可能です。
【有機野菜の美味しさ】
環境負荷が小さい=環境に優しいというルールに則って栽培される有機野菜には色が鮮やか、みずみずしい、味が濃いといったイメージがあります。この美味しさについて有機野菜と一般野菜を比較した試験データがありますので確認してみましょう。
有機レタスの水分
女子栄養大学の日笠志津らは、通常の方法で栽培されたレタスと有機栽培されたレタスの水分量と美味しさについて比較試験を行っています(2008年、2013年)。供試レタスは両グループともに三重県、埼玉県、千葉県、和歌山県で栽培された同品種のものです。
測定結果ではレタス100gに含まれる平均水分量は通常栽培レタス(94.7g)、有機栽培レタス(94.7g)と同じ値でした。両グループとも同等に水分をたっぷりと含んでいました。
有機レタスの美味しさ
次は大学生と大学職員合計30人(20~30代:女性)を対象とした官能試験です。生レタスの外観、香り、食感、味、そしてこれらの総合評価について-2(悪い)~0(普通)~+2(良い)と判定結果をスコア化し平均を求めました。
結果では色(通常-0.1、有機0)、香り(0:同値)、食感(0:同値)、味(通常+0.3、有機+0.2)、総合評価(+0.3:同値)となりました。全体の美味しさ評価をまとめると、通常栽培レタスと有機栽培レタスの間に差はほとんどないということが判りました。
このような通常野菜と有機野菜の美味しさを比較した報告は他にもあります。調査成績は対象とした野菜、産地、品種によりばらつきはありますが、必ずしも有機野菜の方がフレッシュで見た目も良く、美味しいという結論ではありません。
【有機野菜の品質】
有機野菜の栽培では化学合成された肥料・農薬は使用されないため、何かしらの安心感はあります。では自然由来の肥料(堆肥、搾りかす)や農薬(硫黄、食酢)を使うことで、逆に生産物の衛生状態や栄養価に何かマイナスの影響はないのでしょうか?
細菌の汚染レベル
有機栽培には牛糞や鶏糞などから作られる堆肥を使用することから、生産物への有害菌汚染が心配されます。これを受けて有機野菜に付着する細菌数を調査した報告があります(島村裕子ら お茶の水女子大学 2009年)。
百貨店、スーパー、コンビニで販売されている野菜11品目(一般野菜63品、有機野菜60品)を供試品として1gあたりの一般細菌数および大腸菌類数を測定しました。結果では一般細菌数:一般野菜(1,300万個)、有機野菜(1,400万個)、大腸菌類数:一般野菜(2万9,000個)、有機野菜(2万5,000個)となり、両者の間に有意な差は認められませんでした。
一般野菜と有機野菜において微生物の汚染度に有意差がないという結果は、海外の研究でも報告されています。栽培時に堆肥を使用する有機野菜ですが、大腸菌などの有害菌汚染レベルが特に高いわけではないと結論してよいでしょう。
ミネラルの含有量
もう1つの心配事は生産物のビタミンやミネラル成分の不足です。この点について前出の島村は野菜の主要ミネラルであるK(カリウム)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)の含有量を測定しました。試験では各測定値を日本食品標準成分表値(五訂)に対する比率として算出しています。
各ミネラルの含有比はK:一般野菜(1.0)、有機野菜(1.1)、Fe:一般野菜(1.3)、有機野菜(1.6)、Zn:一般野菜(0.9)、有機野菜(1.0)となりました。含有比率1.0とは標準値と同値という意味ですので、この場合も両者に有意差はありませんでした。また有機野菜については標準値を下回るものもありませんでした。
スーパーなどで販売されている「有機○○、オーガニック△△」という商品は、環境に優しい農法で栽培された有機農産物・有機加工食品です。イメージが先行して味や品質・栄養価が特別良いような感がありますが、この点に関する規定はありません。
では有機農産物を私たちが食事で摂る、ペットの手作りフードに利用する、ということに意味はないのかというと実はそうでもありません。野菜や果物の大きな魅力であるビタミンC含有量、抗酸化能力については有機農産物の方が勝っているとされています。次回はこの点に詳しく紹介しましょう。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。