私たちは有機農産物に対して何となく美味しい、みずみずしい、栄養価が高いといったイメージをもっています。ところが、実際は一般野菜と有機野菜の間に必ずしも大きな差はないことを前回紹介しました。では有機野菜の魅力とは一体何なのでしょうか?
目次
【有機野菜のビタミンC】
ある消費者アンケートによると、有機/オーガニック食品を食べ始めたきっかけのトップ回答は「病気の予防」です。私たちやペットの疾病予防/健康維持に大きく貢献する栄養素にビタミンがありますが、中でも食事・フードとして積極的に摂りたいのがビタミンCです。
有機トマトのビタミンC
有機トマトと有機ピーマンに含まれるビタミンC量を経時的に測定した試験データがあります(小林和広ら 島根大学 1996年)。小林はそれぞれの苗を化学肥料・農薬を使用する通常栽培とこれらを用いない有機栽培との2グループに分けて育てました。
栽培開始2~3か月後に収穫したトマト100gに含まれるビタミンC量を測定すると、通常栽培のものより有機栽培の方が常に約1.5倍多い結果でした。ピーマンでは両グループの間に目立った差は見られませんでした。このようにトマトに関しては有機栽培の方がビタミンC量は多いようです。
ビタミンCは多いのか?
通常栽培と比べ有機栽培トマトはビタミンC量が多いことが確認できました。すると他の野菜はどうなのかと気になってきます。有機認定農場で栽培された野菜40種類のビタミンC量を測定し食料成分表値(=標準値)と比較した報告があります(有田俊幸ら 東京都立食品技術センター 2004年)。
試験に供した有機野菜100g中のビタミンC量が標準値の何倍であるかを算出したところ、大きく増加していたものとしてコマツナ(3.0倍:118㎎)、ホウレンソウ(2.1倍:75㎎)、レタス(4.6倍:23㎎)がありました。次いでキャベツ(1.6倍:65㎎)、ニンジン(1.5倍:6㎎)、ブロッコリー(1.3倍:150㎎)などとなっています。
一方、キュウリ(1.0倍:14㎎)、サトイモ(1.0倍:6㎎)、ジャガイモ(0.5倍:17㎎)のように同値または減少しているものもありましたが、測定した野菜全体を見てみると大部分において有機栽培の方が多くのビタミンCを含んでいるという結果になりました。
【有機野菜のβカロテン】
ビタミンCと並んで緑黄色野菜がもつ大切な健康成分にβカロテンがあります。βカロテンは体内でビタミンAに変換される物質であり、皮膚や呼吸器/消化器の粘膜を正常に保つ働きがあります。ではビタミンCと同様このβカロテンも有機野菜において豊富に含まれているのでしょうか?
有機ニンジン
まずβカロテンが多い野菜といえばニンジンです。3年間にわたり化学合成肥料を使用する通常栽培とこれを用いず有機栽培されたニンジンのβカロテン量を比較した試験があります(中川祥治ら 財団法人 微生物応用技術研究所 2003年)。
この報告によると供試ニンジン100gに含まれるβカロテン含有量は1998年において有機栽培(4.4㎎)の方が多かったものの、1997年および1999年では通常栽培ニンジン(6.6㎎、7.8㎎)の方が上回る結果でした。
有機ホウレンソウ
次はホウレンソウです。2003年および2004年に福島県と栃木県で栽培されたホウレンソウについてのβカロテン量が報告されています(村山徹 農研機構 東北農業研究センター 2004年)。このデータを元にホウレンソウ100g中の平均含有量を算出すると通常栽培(9.6㎎、9.4㎎)、対して有機栽培(8.2㎎、8.6㎎)となりました。
ビタミンCと異なりβカロテンでは、ニンジンと同様ホウレンソウでもわずかですが通常栽培の方が含有量は多いという結果になりました。このデータをご覧の皆さんは少しがっかりされているかもしれませんが、これには土の保水性が関係しているということです。
βカロテンと土の保水性
有機栽培では肥料として家畜の糞から作られた堆肥や油かすといったものが使用されます。このため化学肥料を用いる通常栽培の土壌よりも水を貯える作用(保水性)が大きいとされます。
3か月間に渡り通常栽培用と有機栽培用の2種類の土壌から流出する水量を測定したデータがあります(佐藤晴美 千里金蘭大学 2011年)。これによると通常栽培土壌の流水量が約11Lであったのに対し、有機栽培土壌では約5Lと半分でした。すなわち有機栽培の土はおよそ2倍の保水力をもつということです。
一般に野菜のカロテン量は水分ストレス(=水分不足)下で増加するとされます。これより土壌に多くの水を貯えることができる有機栽培では、逆にβカロテン量は少なくなると考えられています。
【有機野菜の抗酸化能】
ビタミンCとβカロテンに共通する健康機能は抗酸化能です。私たちヒトやペットは呼吸により常に酸素を取り入れています。体内では酸素と食物の栄養素が反応してエネルギーが作り出されますが、その一部は細胞を傷付ける活性酸素というものに変わってしまいます。この活性酸素を叩くはたらきが抗酸化能です。
有機コマツナの抗酸化力
前出の有機野菜のビタミンC量のところで、コマツナを紹介しました。コマツナのビタミンC標準値は39㎎/100g、これが有機栽培されると約3倍の118㎎まで増えました。この多くのビタミンCを含むコマツナがもつ抗酸化力の測定データを見てみましょう(中井さち子ら 九州看護福祉大学 2011年)。
試験ではコマツナを通常栽培、有機栽培、そして肥料を与えない対照栽培の3群に分けて育てました。それぞれの抗酸化力(μmol/ml)を測定すると、通常栽培(468)、有機栽培(638)、対照栽培(254)となりました。有機コマツナはビタミンCの増加に伴い抗酸化力も大きくアップするということです。
有機野菜の抗変異原性
少し難しいのですが「変異原性」という言葉があります。これは細胞の遺伝子DNAを傷付けて変異させる性質のことで、その結果細胞は死滅やがん化することがあります。よくタバコが肺がんを引き起こすといわれるのは、ニコチンやタールにこの変異原性があるためです。
有機野菜に変異原性を抑える作用(=抗変異原性)がどれくらいあるのかを調査したデータがあります(任 恵峰ら 東京水産大学 2000年)。試験では一般野菜13種類、有機野菜14種類を用いて細菌を使った変異原性抑制率を算出しています。
この中で手作りフードの食材としても馴染みがあるダイコン、ニンジン、ホウレンソウの値を確認しましょう。対照の変異原性率を100%として抑制率を算出するとダイコン(一般:30%、有機:57%)、ニンジン(一般:11%、有機:69%)、ホウレンソウ(一般:49%、有機:78%)となりました。
このように野菜には一般のものでもがん発生の一因となる変異原性を抑える作用がありますが、有機野菜はさらに強い抗変異原性をもっていることが判ります。
スーパーで見かける機会が増えた有機○○、オーガニック△△といった食品は有機栽培によって収穫されたものです。この本来の意味は「環境負荷が小さい農法で栽培された食材」です。従って美味しさや栄養価に優れていると認定されているわけではありません。
しかし、多くの研究者が有機野菜の特性を調査したところ、抗酸化能に関しては優位性が確認されています。抗酸化能や抗変異原性はがんを始めとするさまざまな疾病の予防に関係しています。手作りフード派の皆さんは栄養内容・健康機能をよく理解して、ペットの食事作りに有機野菜を利用されるのが良いと考えます。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。