ペットとの生活においてのエシカル(倫理的・良識的)な行動という話をしています。一見難しそうなテーマですが「食材ロスとゴミの削減」といえばぐっと判りやすくなります。今回は手作りフードの調理時に発生する食材ロスについて考えます。
目次
【食品(食材)ロスの発生】
本来食べることができるのに廃棄されてしまう食品(食材)ロスは、大きく企業から出る事業系ロスと私たちのキッチン・食卓から出る家庭系ロスに分けられます。
家庭系ロスの発生量
農林水産省の調べによると令和4年度に発生した食品(食材)ロスの量は年間472万トン、その半分の236万トンが家庭から発生しています。この家庭系食品(食材)ロスの排出量とロス全体に占める割合を見てみると、平成24年度:312万トン(49%)、平成28年度:291万トン(45%)、令和2年度247万トン(47%)と報告されています。
このようにここ10年間、少しずつですが家庭から出される食品(食材)ロスは減少傾向を見せています。家庭系ロスは直接廃棄、過剰除去、食べ残しの3つから成りますが、ペットの食事作りにおいては調理時の過剰除去に注意する必要があるでしょう。
調理時の食材ロス
調理時にはどうしても食材に由来する生ゴミが発生します。この食材廃棄は魚の頭・骨やリンゴの芯など本当に食べられない不可食部と、皮やヘタの周りを多めにカットする部分のように本来は食べることができる可食部から成ります。食材ロスは後者にあたりますが、農林水産省の統計によると調理時に食材1kgから発生する食材ロスは平均20gとのことです。
自宅での調理時にどれくらいの食材廃棄が出るのかを調査した報告がありあります(野々村真希 安田女子大学 2018年)。被験者9人が野菜、果物、芋、肉、魚、豆腐などを使って調理をした試験では、食材1kgあたり38.1gの廃棄が出たという結果でした。
この廃棄量38.1gの内訳は、食べられない部位付近の可食部(40%:ジャガイモの表層やピーマンのヘタ付近など)、人や場合によって除去される可食部(38%:キャベツの外葉、ニンジンの外層など)、劣化や熟れすぎ部分(21%)他となっていました。食材ロスの大部分は多めにカットされてしまう可食部であり、それは調理をする人の感覚が関係しているようです。
【野菜の過剰除去行動】
スーパーの鮮魚・精肉コーナーでは魚は切り身、肉はスライスされて販売されています。対して野菜や果物はそのまま売られており、葉・皮・根といった食べられない部位をカットする必要があります。このため調理をする人により、気持ち多めに皮や茎を捨ててしまう場合があり、この過剰除去が食材ロスとなります。
過剰除去が多い野菜は?
さまざまな野菜について食べられる部位もカットしてしまう人の割合を調べた報告があります(野々村真希 東京農業大学 2021年)。回答者は家庭で調理を行っている20~80代の消費者(女性94%)です。調査対象とした野菜はタマネギ、ジャガイモ、キャベツなど10種類です。
回答数176の内、可食部を除去していると答えた人の割合が5割を超えていたものはキャベツの外葉(約69%)、ジャガイモの表層付近(約66%)、ニンジンの表層(約63%)、ニンジンの葉柄基部付近(約56%)、ダイコンの表層(約55%)でした。
これに対し除去する人の割合が少なかったものは、キャベツの断面とブロッコリーの細い茎で共におよそ10%という結果でした。皆さんの場合はどうでしょうか?
年齢と過剰除去
この調査の面白いところは野菜を必要以上にカットする人の年齢層を確認している点です。回答者を40代以上と20~30代にグループ分けすると、両群間で可食部を除去していると答えた割合の差が大きく開いたものがありました。
最も差が大きかったものがタマネギの底盤部付近で36ポイント、次いでニンジンの葉柄基部付近が33ポイントもありました。これらの他にもダイコンの表層、ブロッコリーの太い茎部分なども24ポイントの差がありました。調査対象とした野菜全体で見ても、20~30代の若者層では食べることができる部位も多めにカットしてしまう傾向が強いことが確認されました。
【食材ロス発生の理由】
食材ロスの発生原因はもったいない精神が足りないからだ、と言ってしまうのは簡単なことです。問題はなぜ「もったいない」と思わないのか?という点です。
無意識の食材カット
前出の調理時に発生する食材ロスの内訳として、人や場合によって除去される可食部が38%ありました。これは調理をする人の感覚やその場の状況によりロスが発生するということです。この食材の可食部をカットしてしまう理由をもう少し深く見てみましょう。
被験者9人のインタビュー結果では、特別な理由はなく無意識的に除去した(37.2%)、食感が悪い(34.9%)、手間なく除去したい/洗う手間を省きたい(20.9%)という回答がトップ3でした。他にも野菜に土がついているから、たくさん手に入ったからという回答が共に11.6%でした。
このように過剰除去の背景には、食べられる部位を除去する明確な理由はなく、特に意識せずカットして捨てるという感覚があるのです。
食育の必要性
どうやら私たちは食材の可食部を無意識に除去しているようです。すなわち習慣的に食べられる部位も少し多めに捨てているということですが、この理由をさらに詳しく調べた報告があります(北村暁子ら 戸板女子短期大学 2021年)。
大学の授業で行われる大量調理実習において、調理の下処理時に発生する食品廃棄の理由を調査しました。対象はタマネギ、ニンジン、ジャガイモなど6種類の野菜で、学生の皆さんへの質問はなぜその部位で食材をカットしたのですか?というものです。
結果をまとめたところ理由のトップは食べられない部であるため(84.9%)でした。これは厳密には食材ロスではありません。次に多かった回答に家では捨てている部位であるため(59.1%)、授業で習ったため(42.5%)とありました。ここに無意識に食材を多めに捨てしまっている答えがあるようです。
先ほど20~30代の若者層は食べることができる部位も多めにカットしているというデータを紹介しましたが、これは学校や家庭においての食べ物教育=食育が十分行われていない結果と考えられます。
食材ロスの対応策
食育とはさまざまな経験を通して「食」に関する知識や考え方を身に付けることをいいます。学校ではSDGs教育(食品ロスの削減、ゴミ削減)や調理実習での食材の下処理技術の学習、家庭では実際の食事作りや家族との食に関する会話を行うことが食育にあたります。
小学校や中学校の段階から食べ物の大切さについて学び、男子女子関係なくムダなゴミが出ない調理技術を身に付けることが食材ロス削減のポイントであると考えます。
さらに現在拡がりつつある食品(食材)ロス対策に「エコ・クッキング」という活動があります。これは買い物から調理、食事、後片付けまで一貫して環境に配慮した食生活を送ろうというものです。
今回は私たちの食事やペットのフード作り時に発生する食材ロスで大きな割合を占める過剰除去について考えました。食材の過剰除去を少しでも減らすことはエシカル(倫理的・良識的)な食行動の1つです。次回は最後に紹介した「エコ・クッキング」とその効果についてお知らせします。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。