ペットを病院に連れて行こうとすると、不思議と感付かれ嫌がるという話をよく聞きます。また病院で診察の順番を待っている間も何か緊張しているしぐさを見せることもあります。このような皆さんのペットが利用する動物病院ですが、その待合室や診察室にBGMは流れていますか?
目次
【BGMが流れる施設】
BGMはテレビや映画の背景に流れる音楽のことで、楽しい/怖いといった雰囲気を盛り上げる効果があります。また、作業効率をアップさせる目的で工場やオフィスなどでも使用されています。
BGMが聞こえるところ
BGM(背景音楽)は基本小さな音量で流されるため、気付かないことが多いものです。BGMが流れている施設といえばカフェ、レストランといった飲食店、スーパーやショッピングモールなどの商業施設があります。さらには老人ホームや介護施設でも利用されているところがあります。
これらの他にBGMがかかっている施設として病院があります。待合室では診察の順番、会計カウンターでは支払いを待っている時に音楽がかかっていることに気付きます(私が通うクリニックではハワイアンが流れています)。そして近頃は診察室や検査室に加え、手術室にBGMを流している病院があるようです。
病院検査室のBGM
病院/動物病院は病気やケガをした人や動物が訪れる場所ですので、どうしても不安や緊張でいっぱいです。この気持ちを和らげる目的で医療施設においてのBGM利用が一般化してきました。
平均年齢69歳の男女15人を対象に、病院検査室への入室前後の不安感・緊張感と音楽との関係を調べたアンケート報告があります(野瀬明子ら 奈良県立医科大学附属病院 2008年)。ここで使用したBGMはクラシック/ヒーリング系音楽です。
聞き取り対象者への「音楽を聴いて落ち着けたか?」という質問に対して、すごく落ち着いた5人(33%)、落ち着いた9人(60%)、そうでもない1人(7%)という回答が得られました。全体の90%以上の患者に対して、音楽は不安・緊張を緩和させる作用がありました
【病院のさまざまな音】
病院の検査室や治療室にはいろいろな医療機器があるため、他とは違った音が聞こえます。ある調査によると集中治療室(ICU)で聞こえる音の中で患者が最も不快と感じるのは検査機械のアラーム音ということです(藤岡香織ら 山口大学 2014年)。病院にいるというだけで緊張感たっぷりなのはヒトもペットも同じですが、この病院で聞こえる音には意外な作用があります。
病院内の不快な音
病院内で検査・看護時に発生するさまざまな音に関する印象を調べた報告があります(黒田裕子ら 川崎医療短期大学 2002年)。健康な女子学生12人(平均年齢20.3歳)を被験者として看護者の足音、ブラインドの開閉音、患者の背中をタッピングする音、吸引音、そしてα波を誘発する音楽を聴いてもらいました。
それぞれの音を聴いた時の不快感を数値化したところ、α波音楽が0.6で最も低く、他は2.4(タッピング音)~4.3(吸引音)とほぼ同等という結果でした。検査や看護を受けている時、普通に聞こえている音に対して私たちは気になるなぁ/うるさいなぁと感じているわけです。
病院の不快な音の働き
この報告の興味深いところは次の点です。先ほどの5種類の音が痛みの感覚にどのような影響を及ぼすかという実験を行いました。刺激は腕の肘内側部分に安全レベルの電気刺激を加え、その時の痛みの程度を数値化してもらいました。
音がない時の痛みレベルを100として、各種の音を2分間聴いた後の痛みと比較したところ、α波音楽(77)を始めとして吸引音(73)~ブラインド開閉音(82)となりました。リラックス感を招くα波音楽も不快と感じるブラインド開閉音も電気刺激の痛みに対しては同じようにその感度を下げる働きがあるということです。
【音楽を取り入れた治療法】
ヒトもペットも加齢に伴い発生率が高くなる疾病の1つに変形性関節症があります。関節軟骨のすり減りにより慢性的な痛みが発生し歩行困難になります。変形性膝関節症の高齢者の治療に音楽を活用した時の効果データを見てみましょう(福満舞子ら 大阪府立大学 2012年)。
痛みへの影響
膝関節症のような慢性的な痛みを和らげる治療法として、患部を温める温罨法(おんあんぽう)/ホットパックがあります。実験ではこれに音楽を併用した次のような設定が組まれました。
●被験者 変形性膝関節症患者31人(男性10人、女性21人)
●グループ
:ホットパック群(15人、平均年齢71.3歳)
:音楽併用群(16人、平均年齢74.7歳)
●測定項目 疼痛、心地よさ、脳波
両群患者共に膝患部を38~41℃×20分間温め、この時音楽併用群では被験者の好きな音楽(歌謡曲、クラシック)を聴いてもらいました。加温前後の痛みの程度をスコア化し比較したところ、ホットパック群(13.1→4.0)、音楽併用群(10.0→2.8)と共に大きく軽減されました。
気分への影響
次は加温治療中の気分についての比較です。心地良さをスコア化してもらい、数値が大きいほど心地良さが悪いと評価しました。治療前後のスコアはホットパック群(35.8→24.5)、音楽併用群(43.6→17.9)と大きく減少していました。この場合も気分の程度は両群共に、加温治療後に心地良さを感じるという結果になりました。
リラックス感を招く音楽
ここまでの結果では、痛みの軽減も心地良さについても音楽は特に貢献していないようです。最後に脳波の1つであるα波の検出割合を確認しましょう。脳波にはアルファ、ベータなどいくつかの種類があり、この中で起きている時のリラックス状態で出るのがアルファ(α)波です。
脳波全体の中でα波が占める割合を加温治療前後で比較すると、ホットパック群は33.1%→33.6%と変化がありませんでしたが、音楽併用群では27.9%→35.9%と大幅な増加が確認されました。
先ほど被験者の気分では両群とも治療後に心地良さを感じていましたが、加温処置中に好きな音楽を聴くという条件下では、脳自体がとてもリラックスしているということです。関節症のように慢性の鈍痛を伴う疾患の治療には、音楽を活用すると心身共に効果的であるといえます。
ケガや病気の治療に心地良い音楽・BGMを取り入れると、患者の不安感や緊張感が緩和され痛みも軽減するということが判っています。これが音楽療法です。ペットは私たちヒトよりも聴覚が優れているため、病院内では私たちの何倍もの快音/不快音を聞いていると思われます。
これを逆に考えると、リラックスを招くBGMを活用すれば動物病院での検査・治療・手術、さらには自宅での療養においても不安感を軽減できる可能性があります。皆さんもペットの穏やかな生活、QOL(生活の質)向上のためにBGMを上手に利用してみるのはいかがでしょうか。
(以上)
いくつになっても”健康に歩く!愛犬愛猫のアクティブな毎日をサポートする軟骨成分!
犬用サプリメント ふしぶし元気 関節の健康維持に 犬猫共用の購入はこちらから
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。