獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「皮膚病ペットとオーナーのメンタル」

長かった冬の季節も終わり、ようやく春がやってきました。この季節の変わり目は気温の変化により体調に影響が出やすいのですが、もう1つアトピー等皮膚病の症状悪化にも要注意です。今回はペットの皮膚病ケアを行うオーナーと子どものケアを行っている母親のメンタル負担の共通点について考えます。

【皮膚病ペットをもつオーナー】

皮膚病といってもその原因はさまざまです。細菌や外部寄生虫の感染によるもの、クッシング症候群のように内分泌異常によるもの、そしてアレルギーが関与しているものなどがあります。これらに共通する症状は皮膚の痒みです。

ケアと心の負担

皮膚病をもつ愛犬オーナー(アトピー性皮膚炎103人、これ以外の皮膚炎412人)を対象に、ケア生活の悩みについてのアンケート調査が行われました(ゾエティス・ジャパン㈱ 2021年)。
 
ケアをする毎日において負担に感じることや心配に思うことについて質問したところ、「愛犬が痒そうにしている様子をみるのが辛い」が86.6%でトップでした。これに次いで「愛犬の皮膚の状態や治療が心配」83.7%、「治療費の負担」76.9%と大変大きな数値でした。

この中で気になる回答を見つけました。それは「他のオーナーもしくは周りの人の視線が気になる」というもので半数近くの47.0%もありました。散歩中や動物病院に連れて行く時に、周囲の人達から愛犬やオーナーへそれとなく注がれる視線が精神的に大きな負担になっているというのです。

視線が気になるオーナー

アンケートではこの周囲の人の視線についてもう少し具体的に質問しています。すると「愛犬がかわいそうと思われている気がする」57.0%、「ケアしていない悪いオーナーと思われている気がする」48.8%、「他の犬に感染すると思われている気がする」43.0%という回答でした。

皮膚病は多くの場合脱毛を伴うため、確認しやすいという特徴があります。皮膚病に罹っているペットのオーナーはそのケアに通院・治療といった身体的/経済的負担に加え、他人の視線という心理的な負担も負っているという現状があります。

【皮膚病の子どもをもつ母親】

皮膚病、中でもアトピー性皮膚炎は長期間に渡り自宅での治療を必要とする病気であり、これはペットにもヒトにもいえることです。ここからは皮膚病の子どものケアをしている母親のメンタル面に関する調査報告を通して、ペットオーナーの気持ちとの共通点を探ります。

治療の満足度

中等症以上のアトピー性皮膚炎の子どもをもつ母親443人を対象とした調査報告です(日本イーライリリー㈱ 2024年)。まず、治療に対する満足度ですが、満足36.1%(非常に満足+やや満足)、どちらともいえない36.3%、不満足27.6%(まったく満足していない+あまり満足していない)という結果でした。

皮膚病の中でもアトピーのケアは長期戦です。さらに一般的に完治困難とされているため、およそ1/3の回答者は治療に対する満足度は低いと評価しています。

いろいろなケア負担

アトピー性皮膚炎のケアでは、アレルゲンと考えられるものを取り除く作業と、痒みの緩和を目的とする対症療法の2つをセットとして行われます。

母親の負担となっている毎日のケア内容では、まずスキンケアとして入浴やステロイド剤など治療薬の塗布があります。次にアレルゲンの除去ではノミ・ダニ・ほこりを減らすためのこまめな部屋のそうじ、そして食べ物がアレルギーを引き起こしている可能性から特別に除去食を作る必要があります。

アトピーの症状は就寝中にも発生します。子どもたちは夜中でも痒みを訴えるため家族、特にケアを担当している母親は十分な睡眠がとれないといいます。

生活困難度

アトピー性皮膚炎の子どもをもつ母親の生活困難度を調査した報告があります(都築知香枝ら 名古屋大学 2006年)。子どものアトピーケアをしている母親121人とこれに該当しない母親121人を対象に、毎日の生活の困難度をスコア化してもらいました。なお両群とも母親の平均年齢は約33歳、子どもの平均年齢も3.9歳と同じ設定となっています。

調査対象となる生活作業をスキンケア(7項目)、睡眠(7項目)、食事(4項目)、環境整備(3項目)にジャンル分けし、困難レベルを1~5で評価・集計しました。それぞれ1項目あたりの平均スコアを比較したところ、スキンケアと睡眠で1ポイント、食事と環境整備では0.5ポイントほどケア実施群の方が高い結果となりました。

【ケアをする人のメンタル】

小さい子どものアトピーケアをされている(主に)母親たちは、除去食の用意やこまめな部屋のそうじといった身体的な負担に加え、メンタル面にもストレスがかかっています。

育児困難感

アトピーの幼児(平均月齢23.8か月)をもつ母親26人に面接を行い、育児の困難感の聞き取りを行った報告があります(浅野みどり ら 名古屋大学 1999年)。全部で137事例回収された困難感覚は「気がかり」「異和感(=違和感と同義)」「不全感(=無力感)」「行き詰まり感」の4つに分類できました。

これら4つ型の内、気がかりと異和感は「楽観的傾向」、不全感と行き詰まり感は「悲観的傾向」とされ、その割合は楽観的なものが75%、悲観的なものは25%となりました。そして137の育児困難感事例の中で「行き詰まり感」と評価されたものの割合は全体の14%も占めていました。

負担に感じること

最後に子どものアトピーケアをしている母親の皆さんが負担に感じていることを見ておきましょう(日本イーライリリー㈱ 2024年)。最も多い回答は「アトピーであることによる子どもの将来への不安」24.6%というものです。次いで「自分自身の疲労/体力の消耗」が22.6%となっていますが、ここで注意すべきは「子どもが発症したことに対する罪悪感で自分を責める」18.3%という回答です。

アトピーはケガやカゼのように保護者の不注意が直接関与する病気ではありません。しかし、一番身近にいる人(この場合は母親)は「私がしっかり育てていなかったから…」と子どもが発症したことを自身の責任と結びつけてしまっているようです。これはまさに「周囲の人から悪い飼い主と思われている気がする」というアトピー犬オーナーの心の負担と共通するところがあります。

皮膚病、中でもアトピー性皮膚炎はなかなかゴールが見えない病気です。このため自宅でケアをする親やペットオーナーは、身体的にも精神的にも大きなストレスを抱えながら毎日生活しています。この負担を少しでも軽くするためには患者/罹患ペットの症状を緩和させることが第一です。

次回は皮膚炎の症状や痒みのしくみと精神状態の関係についての研究データを紹介します。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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