皆さんのお宅の朝食は和食(ごはん系)ですか、それとも洋食(パン系)ですか?前回までのバナナの話で、朝食時に人気の果物がバナナであることをお伝えしました。今回は朝ごはんや学校給食のパンの相棒であるジャムについてその栄養内容を探ります。
目次
【ジャムを手作りする】
スーパーに行くといろいろな種類の果物から作られたジャムが並んでいます。また甘さも控えめ~砂糖不使用など多種多様です。ところで皆さんはジャムを手作りしたことはありますか?
人気のジャムは?
ジャムメーカーから成る日本ジャム工業組合という組織があります。ここの報告(2017年)によると、日本のジャム生産量は年間約5万トン、その内訳は家庭用が66%、業務用が34%ということです。ジャムはお菓子や菓子パンなどに使われるものより、家庭で直接消費されるものの方が多いということです。
では材料種類別で見た場合、最も多く作られているものは何でしょう?答えはイチゴジャムが第1位で全体の33.5%、次いでブルーベリージャムが22.2%、第3位がマーマレードで13.0%となっています。時々見かけるリンゴジャムは5.3%とわずかです。そういえば、ジャム=イチゴジャムというイメージがあり、一番人気というのも納得です。
ジャム作りに必要な3要素
一般的に甘く水分をたっぷり含んだ食べ物は腐りやすいものです。しかしジャムがそうそう短期間で傷むということはありません。これはなぜでしょう?食品が腐るというのは細菌やカビといった微生物が増殖する結果であり、そのためには「栄養分、水分、温度」が必要です。この内ジャムの水分は特別な状態で存在しています。
ジャムの特徴は甘味ととろみですが、材料となる果物に砂糖を加え煮込むことで、とろみ=ゲル化が起こります。このゲル化とは、元々果物に含まれている糖分、酸、ペクチンの3つが加熱によって編み目構造を作り、内部に水分を含む状態をいいます。水分が編み目に閉じ込められていると雑菌は増殖に利用しづらいため、ゲル化したジャムは保存性が高い食品となります。
ここでペクチンという物質が登場してきました。ペクチンとは果物や野菜に含まれている水溶性の食物繊維の一種です。基本的にはどのような果物でも煮込めばジャムになるわけですが、「糖分、酸、ペクチン」を追加することで甘くとろみ感のあるジャムが出来上がります。そこでこの3つをジャム作りの3要素と呼んでいます。
【手作りバナナジャム】
日本人が好きな果物第1位はバナナ、第2位はリンゴです。どちらもジャムとしての人気はまだまだといったところですが、探せば商品として売られています。ここでバナナジャムの美味しさについて見てみようと思います。
ジャムの原材料
完熟バナナを材料にして自家製ジャムを作製し、市販のバナナジャムと美味しさや栄養内容を比較した報告があります(浅野未来ら 山形大学 2021年、2022年)。まず自家製ジャムの原材料はシンプルにバナナと上白糖、酸としてクエン酸、そしてペクチンとしました。
市販品のジャムはA、B、Cの3種類を入手し原材料を調べたところ、酸として酸味料やレモン、ゲル化剤ではペクチンの他に増粘多糖類が使われていました。また香料や色素、さらに酸化防止剤としてビタミンCを添加している商品もありました。
美味しさの評価
ではパネリスト13人による官能評価の結果です。供試品のジャムを試食してもらい、外観、香り、甘味、舌触りなど9項目について-3~+3の7段階評価し、総合的な好ましさを判定しました。
結果は市販品ジャムではA(0.93ポイント)、B(-0.93ポイント)、C(0.64ポイント)となりました。対して自家製ジャムは+1.50ポイントと高い値でした。具体的に自家製ジャムでは色、甘味、香り、舌触り(ねっとり感)、果肉感という項目で好ましいと評価されました。手作りバナナジャムもけっこう美味しいようです。
【バナナジャムの機能性】
パンにジャムという組み合わせは、小さな子どもたちに大人気です。しかし、大人の皆さんの中には甘味と高カロリーという点でやや敬遠気味という方もいらっしゃるでしょう。ここではジャムの糖度/エネルギー量とビタミンC量を確認します。
糖度とエネルギー量
前出の浅野は材料の生バナナと各種ジャムの栄養成分を比較測定しています。まず気になる糖度について見てみると、生バナナは21.1%です。これがジャムになると自家製ジャム(48.2%)、市販品ジャム(35.9~49.4%)と大きく増加します。
100gあたりの生バナナのエネルギー量は91.3kcalです。対してジャムでは自家製ジャム(153.7kcal)、市販品ジャム(112.5~145.8kcal)とこれも増加しています。砂糖はジャム作りの3要素の1つですから、生材料と比べて糖度やエネルギー量が増加しているのは当然です。
このように原材料の生バナナに対しジャムになると糖度は約2倍、カロリーはおよそ50%アップしていることが判ります。大人も子どもも食べ過ぎには注意が必要です。
ビタミンC含有量
前回、意外にもバナナにはビタミンCが含まれていて、その量はトマトと同量、リンゴの2倍以上という話をしました。ではバナナジャムのビタミンC量はどうなっているでしょう。
100g中のビタミンC量は生バナナで12.9㎎、自家製ジャムは35.2㎎です。これに対し市販品ジャムはA(72.6㎎)、B(63.7㎎)、C(10.4㎎)とバラツキがあります。これは市販品ジャムの中には酸化防止剤としてビタミンCを添加しているものがあるためです。
抗酸化活性
ビタミンCといえば抗酸化性です。最後にジャムの抗酸化活性の測定データを見ておきましょう。生バナナの抗酸化活性を測定し各種ジャムと比較したところ、自家製ジャムと市販品Bは約1/2、市販品Aは約1/3まで低下していました。
ビタミンCは抗酸化ビタミンですが、必ずしも抗酸化活性と相関するとは限らないということです。これはジャム作りの加熱やゲル化させる調理工程が影響していると考えられます。抗酸化活性という点においては、バナナジャムは少し残念な結果でした。
ジャム作りとは、果物を美味しく日持ちさせる調理方法のことです。具体的には砂糖を加えて煮ることでゲル化が起こり、傷みにくくなるわけですが、この結果市販品のジャムはどうしても甘いものが多くなります。
私たちが食べているジャムをそのままペットに与えるのは、糖分が多いため良くないと言われます。このような時はオーナーの皆さんがペット用に砂糖少なめ、または使用しないジャムを手作りしてみてはどうでしょうか。砂糖が少ないとゲル化しにくく、ジャムというよりは果物ペーストといったものになりますが、安心感と材料本来の甘み/美味しさが楽しめます。
次回はジャム作りの3要素の中心となる水溶性食物繊維ペクチンの機能について紹介します。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。