獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「ジャムペクチン」

ジャムは好みの果物に砂糖を加えて煮詰めることでゲル化が起こり、独特のとろみが生まれます。ゲル化によって水分が編み目構造の内部に閉じ込められると雑菌は繁殖しにくくなり、結果ジャムは日持ちのよい食品になります。今回はジャムのゲル化に必要なペクチンについて詳しく紹介します。

【ジャムをゲル化する】

ジャムの他にも私たちの身の周りには、とろみやゲル/ジェル状の食べ物がたくさんあります。食材との相性や口の中に入れた時の触感を考慮し、それぞれの食品に適したゲル化剤が使われています。

いろいろなゲル化剤

食品の製造に使われているゲル化剤の代表的である寒天、ゼラチン、そしてペクチンの3種類について見てみましょう。まず食品上の分類では寒天とゼラチンは食品、ペクチンは食品添加物になります。寒天の原料は紅藻類であるテングサという植物、ゼラチンは牛骨や豚皮といった動物由来です。これに対し商品としてのペクチンは果物の皮やジュースの搾りかす(搾汁残渣)から作られています。

これらゲル化剤の内、寒天とゼラチンは食品の温度を下げると固まります。すなわちこの2つのゲル化因子は冷却です。一方ペクチンは糖度が60以上、かつpH3.5以下の条件でゲル化が起こります。ジャム作りには砂糖と酸、そしてペクチンの3つが必要とされるのはこのためです。

3種類のゲル化剤が使用されている代表的な食品には寒天はゼリー、ゼラチンではプリンやグミ、薬のカプセルがあります。そしてペクチンはジャムやマーマレード、また近頃はパンにも添加されているものがあります。

ジャムのゲル化条件

ジャムを手作りする時、果物によるのか上手くとろみが出ない場合があります。これはジャムのゲル化はペクチンが砂糖と酸の協力を受けて編み目を形成することで起こるためであり、これら3つの条件が合わないとゲル化してくれないというわけです。

ジャム作りでは糖分60~65%、酸pH2.8~3.2、ペクチン0.7~1.5%の条件下でゲル化するとされており、このうちどれか1つでも合わないととろみがでません。毎回同じように作っていても、材料の果物に含まれる糖分や酸の量は異なるためゲル化が上手くいかない場合があります。この時は適宜、砂糖・酸・ペクチンを追加する必要があります。

【ペクチンを含む果物】

先ほども述べましたが果物の種類/コンディションにより、含まれる糖分やペクチンの量は異なります。ここではペクチンをたくさん含む果物とペクチンの働きについて確認しましょう。

ペクチンの多い果物は?

ペクチンは植物がもっている水溶性の食物繊維です。従ってダイコンといった野菜にも含まれますが、今回はジャムの材料になる果物のペクチン含有量を紹介します(川端晶子ら 東京農業大学 1974年)。

この報告によるとペクチン含有量が多いのは温州みかんの皮4%以上、ゆずの搾りかす3~4%、ゆずの皮2~3%となっており、柑橘類の果皮にたくさん含まれていることが判ります。そして果肉部分ではイチジク1~2%、リンゴ・バナナ・イチゴ・キウイフルーツが0.5~1%、モモ・ブドウ・パイナップルが0.5%以下となっています。

夏みかんやオレンジの果皮で作られるのがマーマレードです。柑橘類の果皮は香りが良いのは判りますが、わざわざ果物の皮を材料とするのはペクチンが多く、砂糖と煮詰めることでゲル化しやすいという意味があるのでしょう。

ペクチンの働き

ペクチンは植物の細胞壁を構成する成分で、細胞と細胞をしっかりと結びつけるセメントのような役割をしています。その正体は水溶性の食物繊維であり、煮詰めることで溶け出し細胞はバラバラになるためジャムは軟らかくとろみが出ます。ここで水溶性食物繊維と聞くと、私たちやペットの健康に何か良い働きがあるような気がしますがどうでしょうか?

ペクチンがもつ健康機能は大きく3つあるとされています(北口公司 岐阜大学 2020年)。1つめは「物理的効果」です。これは食物繊維であるペクチンは腸管内で消化されないため、食事内容物と絡み合い消化を遅らせます。これにより満腹感が得られたり、糖質の吸収を抑え食後血糖値の上昇を抑えます。

2つ目は「プレバイオティクス効果」です。食物繊維は腸内細菌、中でも善玉菌のエサになり腸内環境を整える働きがあります。そして3つ目は「直接効果」というもので、ペクチンが腸管の細胞に直接作用し、潰瘍性大腸炎の治療に役立つとして研究が進められています。

【アップルペクチン】

ペクチンはお菓子作りコーナーなどで食品添加物として販売されています。先ほども述べたように原料は果皮やジュースの搾りかすですが、現在注目されているのがリンゴ由来のアップルペクチンというものです。

アップルペクチンとは

市販のペクチンはほとんどが輸入品で柑橘類を原料としています。これに対し青森県産リンゴのジュースを搾った残渣から抽出したものがアップルペクチンで、現在さまざまな健康機能について研究されています。

血圧を下げる

リンゴ搾汁残渣からペクチンを抽出し、さらに酵素処理することでオリゴ糖が得られます。このアップルペクチンオリゴ糖の血圧降下作用を確認した報告があります(市田淳治 青森県工業総合研究センター 2005年)。

●供試動物 高血圧発症ラット
●グループ
  対照群(5匹)
  ペクチン群(5匹)
…エサにアップルペクチンを4%添加
  ペクチンオリゴ糖群(5匹)
…エサにアップルペクチンオリゴ糖を4%添加

 上記3群のラットに実験的に血圧を上げるため1%の食塩を添加したエサを2週間給与し、血圧の変動を測定しました。当然ながら対照群ラットは給与期間中どんどん血圧上昇が確認されましたが、アップルペクチン群とアップルペクチンオリゴ糖群では試験開始時と同程度の血圧に抑えられていました。

高血圧は毛細血管への負荷を大きくします。無数の毛細血管から構成される臓器が腎臓であり、今後腎機能低下ケアの1つとしてアップルペクチンが活用されるかもしれません。
 

腸内環境を整える

前出のペクチンの3つの機能のところで「プレバイオティクス効果」がありました。アップルペクチンから作られたオリゴ糖による整腸作用の実験データを紹介します(高橋義宣ら(㈱ニチロ中央研究所 2008年)。

便秘気味の20~60歳の被験者男女7人にアップルペクチンオリゴ糖を5%含む飲料100mlを1日1回×2週間試飲してもらいました。試験開始前と終了時の排便についてまとめたところ、1週間あたりの平均回数は3.0回→5.0回、平均日数は2.8日→4.0日と便通アップが確認されました。

また便の状態(排便量、性状、色、におい、残便感)をスコア評価したところ5.8→7.8と良好な結果となり、中でもにおいスコアの改善は1.2→1.8と有意な差が確認されました。同時にアップルペクチンオリゴ糖が腸内細菌に与える影響を調べると、悪玉菌のクロストリジウム属の増殖を抑え、善玉菌のビフィドバクテリウム属(=ビフィズス菌)の増殖を応援することも判りました。

今回はジャムのゲル化の主体となっているペクチンについて考えました。ペクチンは食物繊維であり野菜や果物に含まれているため、私たちは通常の食生活である程度の量は摂取できています。しかし肉食ベースのペットではペクチン摂取量は少なく、ジャムを通して補給するというのも一案です。

市販のジャムは糖度が高いため、ペットに与えるのはちょっと…、と心配のオーナーの皆さんは砂糖を控えめにしてペクチンを加えた手作りジャムにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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