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【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「炎症を抑えるペクチン」

ジャムのとろみ/ゲル化の主役であるペクチンの話をしています。ペクチンは植物細胞に含まれる水溶性食物繊維ですので、善玉菌であるビフィズス菌を増やしお腹を整える作用があります。今回は単なる食物繊維とは思えないようなペクチンの健康作用を紹介します。

【胃潰瘍の発生抑制】

胃潰瘍という病気があります。皮膚や粘膜の損傷/欠損のうち比較的浅いものを「びらん」、深いものを「潰瘍」といいます。胃粘膜の炎症である胃潰瘍の発生をペクチンが抑えるという実験データがあります。

イヌの胃潰瘍

胃潰瘍は胃粘膜と胃液分泌量のバランスが崩れるため起こります。私たちヒトでは胃潰瘍というとストレスが原因といわれますが、イヌの場合ストレス性の胃潰瘍は多くありません。イヌの胃潰瘍の背景としては、他の病気・ケガで処方される鎮痛薬や抗炎症薬の副作用があります。これらの薬は胃粘膜の分泌を抑えるため胃潰瘍を招きます。

もう1つイヌの胃潰瘍の原因に挙げられるものに肥満細胞腫という悪性腫瘍があります。免疫を担当する肥満細胞が腫瘍化し、異物の侵入刺激によりヒスタミンという物質を放出するというものです。ヒスタミンは胃酸/胃液の分泌を亢進し、潰瘍を引き起こします。(肥満細胞腫については後ほどもう1度登場します)

胃潰瘍の抑制

アップルペクチンから精製したオリゴ糖を投与したラットにアルコールを飲ませ、どれくらい胃潰瘍の発生を抑えるかを調べた実験報告があります(市田淳司 青森県工業総合研究センター 2005年)。対照として胃潰瘍治療薬を投与した群を設定して発生抑制率を比較した結果、両群共に投与量が多くなると胃潰瘍の発生を抑えることが判りました。

またこれとは別にラットを長時間水の中に置きストレス性の胃潰瘍を起こさせる実験では、アップルペクチンオリゴ糖300㎎/kg投与群は46%、胃潰瘍治療薬300㎎/kg投与群では68%の抑制率が得られました。このように治療薬には劣るものの、アップルペクチンから作られたオリゴ糖には胃粘膜の炎症である胃潰瘍を抑制する作用があることが確認されました。

【皮膚炎の軽減】

刺激性の強い薬品に触れると皮膚炎を起こすことがあります。このアレルギー性皮膚炎の症状とアップルペクチン給与の関係を調べた報告があります(藤崎明日香ら 近畿大学 2023年)。

アレルギー性皮膚炎の軽減

マウスを対照群(水道水給与)、アップルペクチン給与群(0.4%および4%)の3群に分け35日間飼育し、その後背中の皮膚に刺激性薬品を塗り、皮膚炎発症時に産生されるタンパク質量を比較しました。このタンパク質の産生量多いほど患部の炎症度が強いということになります。

薬品処理をしていないマウス皮膚の数値を100として、3グループの平均値を算出したところ、対照群(約280)、0.4%アップルペクチン群(約80)、4%アップルペクチン群(約60)となりました。35日間毎日ペクチンを摂取することでアレルギー性皮膚炎の炎症レベルが軽減されることが確認されました。

血中ヒスタミン量の低減

アレルギー性皮膚炎のしくみを簡単に説明しましょう。体内に刺激性の異物(薬品、花粉、金属、食物など)が侵入すると肥満細胞からヒスタミンという物質が放出されます。このヒスタミンがアレルギー反応のスイッチを入れることで炎症=皮膚炎が起こります。これより血中のヒスタミン量を低く抑えることによっていろいろな炎症を軽減できると考えられます。

25~68歳の健康な男女14人を被験者として、アップルペクチンを1日平均8.4g摂取してもらい、血中ヒスタミン濃度の変化を調べたデータがあります。結果は摂取前0.70ng/ml→摂取3週間後0.53ng/ml→休止2週間後0.67ng/mlと推移しました(田中敬一ら 農研機構 2000~2001年度)。

このようにアップルペクチンを毎日摂取することでヒスタミン放出量は約24%低減されました。ここで先ほど紹介したイヌの肥満細胞腫を思い出しましょう。腫瘍化した肥満細胞から放出されたヒスタミンはアレルギー反応を引き起こし、同時に胃酸/胃液の分泌を促進します。これよりペクチンはイヌの皮膚炎や胃潰瘍の予防・症状軽減に期待できそうです。

【大腸炎の症状緩和】

前回、ペクチンには①物理的効果(消化速度の低下、食後血糖値の上昇抑制)②プロバイオティクス効果(善玉菌の増加、整腸作用)③直接効果の3つの健康機能があると述べました。最後に③直接効果について具体的に紹介しましょう。

大腸炎の臨床症状

ペクチンがもつ直接効果とは、ペクチンが大腸の免疫細胞に直接作用して炎症の悪化を抑えるというものです。マウスに薬品を投与して実験的に大腸炎を起こさせてペクチンの影響を確認した報告があります(石其慧太 岐阜大学 2019年)。

実験ではマウスにシトラスペクチン(レモン、ライムの果皮より作製)、またはオレンジペクチン(オレンジの果皮より作製)を5%含むエサを18日間給与しました。途中、給餌10日目に大腸炎を誘発する化学物質を投与し、糞便状態と大腸組織を観察しました。

供試マウスの糞便状態(体重、糞の形状、血便の有無)をスコア化して評価した結果、大腸炎誘発物質投与8日目の平均スコアは対照群(8.3)、シトラスペクチン群(8.0)、オレンジペクチン群(5.0)となりました。スコアが低かったオレンジペクチン給与マウスは大腸炎の臨床症状が緩和されていました。

大腸組織のダメージ

実験終了時にマウスを解剖し、大腸の細胞組織を顕微鏡観察してスコア評価しました。結果は対照群(3.8)、シトラスペクチン群(3.9)と同等であったのに対し、オレンジペクチン群(2.5)と病理組織学的にも軽度に抑えられていました。

このように同じ柑橘系の果物でもオレンジ果皮のペクチンは、大腸炎を臨床的/組織学的に軽減緩和させる働きがあることが判りました。これがペクチンの健康機能の③直接効果にあたります。なおこの作用の違いはレモン・ライムとオレンジとではペクチンの構造が異なることに因るものと考えられています。

炎症性サイトカインの低減

炎症には様々な免疫細胞が関連しており、これらはサイトカインという情報伝達物質で連携しています。このサイトカインの分泌量を減らすことで炎症は軽減化されます。ここで上記供試マウスの大腸組織中の炎症性サイトカイン量を確認してみましょう。

対照群マウスの値を100として比較するとシトラスペクチン群は約77、オレンジペクチン群は約54となっていました。オレンジペクチンは大腸の免疫細胞に直接作用して炎症性サイトカインの分泌を減らすことで大腸炎の症状を緩和したと考えられます。

今回、ジャムをゲル化するものと認識していたペクチンには抗炎症作用という思いもよらない健康機能があることが判りました。私たちヒトもペットも年齢が進むにつれて、筋肉・関節・皮膚・内臓などいろいろな個所に炎症が発生します。

炎症は慢性的な痛みを伴うためQOL(生活の質)の低下を招きます。ジャムに限らずゲル化剤としてのペクチンを使った食事やおやつが高齢ペットの炎症緩和に役立てば大変うれしいことです。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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