
前回は食事から摂ったミネラルは、尿中に排出されるという話をしました。ミネラルは骨や歯などの主成分(カルシウム、リン)、体液の浸透圧やpHの調整(ナトリウム、カリウム)、酵素やホルモンの構成成分(亜鉛)など様々の場面で活躍している栄養成分です。今回は食事/フード中のミネラルを被毛でチェックするという試みを紹介します。
目次
【毛髪中のミネラル】
ペットの健康診断では問診の後に採血が行われます。血液検査の項目からたくさんの健康情報が読み取られ、各値は疾病のサインとして活用されます。しかし私たちヒトはもちろん、ペットたちは採血が大嫌いです。そこで苦痛なく健康/栄養情報を入手するルートとして毛髪・被毛が利用されようとしています。
食事内容と毛髪ミネラル
栄養分の過不足といった食事内容が毛髪に反映するのか、という点を調査した報告があります(塚田 信ら 立正大学 1996年)。児童福祉施設に入所した12~16歳の少年30人を対象に、食事内容の改善前後の毛髪に含まれるミネラルが測定されました。
入所時を100として入所7か月後の毛髪中ミネラルの相対値をみると、増加したものではカルシウムCa(168)、鉄Fe(219)、亜鉛Zn(113)、他にマグネシウムMg、マンガンMn、銅Cu、セレンSe、クロムCrがありました。これらは今までの食生活で不足していたものが施設での食事により十分摂取されていることを意味しています。
また有意に減少したミネラルにはナトリウムNa(44)、カリウム(21)がありました。この結果は施設入所前に食べていた食事・おやつがインスタント食品やスナック菓子など塩分や味の濃いものが多く、これが改善されたことを表しています。
以上より毛髪中のミネラル量を測定することで、食事内容の偏りや栄養成分の過不足がモニターできると考えられます。ただし毛髪のミネラルチェックには1つ難点があり、それは血液検査のようなリアルタイムのデータではなく、過去~現時点まで(この調査では入所してから7か月間)の蓄積情報であるということです。

疾患と毛髪ミネラル
生活習慣病は今やペットにとっても大きな問題です。その代表ともいえる糖尿病の誘因にはエネルギー摂取過多、肥満、運動不足などがあります。糖尿病の背景にどのようなミネラルが関与しているかを調査した報告を紹介しましょう(堀田洋平 北海道医療大学 平成31年)。
健常者59人と糖尿病患者33人の毛髪中ミネラルが測定されました。健常者の測定値を100として糖尿病患者の相対値を算出したところ、有意に低値を示したものに亜鉛Zn(70)、銅Cu(52)、クロムCr(39)がありました。
現在、糖尿病の診断には血糖値(血液中のブドウ糖濃度)やHbA1c(過去1~2か月間の長期の血糖値の指標)のデータが利用されます。毛髪中の亜鉛などのミネラル値は糖尿病の確定診断には使われませんが、不足ミネラルを改善した食事が予防・治療の一助となることは期待できます。

【気になるミネラル】
市販のペットフードの袋/ラベルの表示部分をみると、成分項目に「灰分○○%以下」、原材料項目に「ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、…)」と含有ミネラルの記載があります。ここで気になるのが体に良くないミネラルの情報です。
キャットフードの水銀
私たちヒトやペットの健康を害するミネラルとして水銀や鉛といった重金属がよく知られています。この点についてペットフード安全法ではカドミウム、鉛、無機砒素の3つには含有上限値が設定されていますが、水銀に関する規定はありません。
ペットフードの中でもしばしばテーマにあがるのがキャットフードの水銀含有量です。これに関する詳細な調査および実験報告があります(寺次智弘 京都大学 2014年)。まず市販のネコ用フードのうち、ドライタイプ40検体、ウエットタイプ30検体の水銀量が測定されました。
ウエットタイプはドライタイプと同等になるように水分量を12%に換算した結果、1kgあたりドライタイプは0.011 mg、ウエットタイプは0.251㎎と大変大きな差があることが判りました。

フード原材料と水銀
この20倍以上もの差がある水銀量ですが、その理由は何でしょうか?次の調査では同じネコ用ウエットフードの主原料を畜肉(牛肉、鶏肉、豚肉)5検体と大型海産魚(かつお、まぐろ)25検体に分けて測定しました。すると現物1kgあたりの水銀量は、畜肉タイプ0.012㎎に対して海産魚タイプ0.067㎎となりました。
以上のデータからキャットフードで気になる水銀はドライタイプ/ウエットタイプとは関係なく、原材料である赤身の大型海産魚に由来していることが判ります。これには海水中の水銀→プランクトン→えび・小魚→大型魚という食物連鎖/生物濃縮という現象が背景にあります。(かつお・まぐろを使用したフードが危険であるという意味ではありませんので、この点はご注意下さい。)

【被毛を使った健康チェック】
大型海産魚をメインとするウエットフードを毎日食べているネコの体内水銀量はどうでしょうか?ここで被毛サンプル中の水銀量を測定した研究報告の続きを見てみましょう。
ネコ被毛中の水銀量
次の設定のもと28週間の給与試験を行い、ネコ被毛中の水銀量が測定されました。
●供試動物 1.5~2.6歳のネコ20頭
●グループ
ドライタイプ給与群(10頭)… 原材料:肉および魚のミール
ウエットタイプ給与群(10頭)… 原材料:大型海産魚
給与フードの成分から計算した1日水銀摂取量はドライタイプ3μg、ウエットタイプ143~180μgでした。そして被毛中の水銀量はドライタイプ2.6㎎/kgに対してウエットタイプ37.2㎎/kgと大きな開きがありました。
毛髪/被毛には体内に入ったミネラルを蓄積する作用があります。これより長期間に渡ってフードを通して摂取した有害ミネラルをチェックする試料としてペットの被毛は有用であるといえます。

被毛中水銀の半減期
体内に入った物質は時間をかけて体外へ排出されます。これは健康に有益な物質/有害な物質に関係なくすべてにいえる現象ですが、物質により排出される時間は異なります。元の量が半分にまで減少するのに必要な時間を「半減期」と呼び、この試験報告ではネコ被毛中の水銀の半減期が求められました。
28週間の給与試験終了後、ウエットタイプ給与群のエサを水銀量が少ないドライタイプに切替え、引き続き21か月間観察しました。経時的に被毛中の水銀量を測定するとその値は徐々に低下し、これをもとにネコ被毛中の水銀半減期を計算すると6.4カ月となりました。
この6.4カ月という数値はヒトの毛髪中水銀の半減期64日(柳沼 梢ら 東北大学 2012年)と比べて大変長い期間になります。ネコの被毛中の水銀はゆっくりと時間をかけて消失するため、測定時点から遡りどれくらい前から摂取が始まっていたかが推察できます。被毛は過剰な水銀摂取をモニターするのに有用な検査サンプルといえるわけです。

ローテーション給与
ここまで読み進めた皆さんの中には、ペットに何を与えれば良いのか心配になってきた方もおられるかもしれません。ドライフードは水分量が少ない、ウエットフードは海産魚由来の水銀量が多い、手作りフードでは栄養分の過不足が考えられます。しかしこれらは「毎日同じタイプのフードを与え続けると…」という話です。
逆にドライフードは総合的な栄養設計が安心、ウエットフードは嗜好性が良好という特徴があります。加えてこれら2つには保存性が良いという共通点があります。そして手作りフードは新鮮な食材が使える、また夏場の水分補給もしっかりできるという長所があります。
ここで心配性のオーナーの皆さんへの提案ですが、ペットの食事を1週間という単位でとらえ、ドライ・ウエット・手作りの3タイプをローテーション給与するという案はどうでしょうか。毎日同じタイプのフードを与え続けると栄養成分の偏り、気になるミネラルの蓄積といった心配が起こります。3タイプのフードを上手にローテーション給与することで、長所を活かし短所が抑えられるという考え方です。

動物病院で採血される血液には現時点の健康情報が、そして被毛中には過去~現在までの栄養情報がぎっしり詰まっています。現在のところペットの被毛ミネラルチェックは研究レベルでしか行われていませんが、今後は一般の動物病院でも実施されるようになるかもしれません。血液検査と被毛チェックを併用しペットの健康管理が行われる日が待ち遠しいです。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。






























