獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「セレンSeというミネラル」

シリーズでミネラルを取り上げています。フードのラベルには「灰分」と表示されるミネラルは、蛋白質や炭水化物と比べるとさほど注目されない感があります。今回はこのミネラルの1つであるセレンSeを紹介します。

【あまり知られていないセレン】

「丈夫な骨を作るにはカルシウムCaが必要です」とか「腎臓の負担軽減にリンPの摂取を抑えましょう」という話をよく聞きます。しかしセレンというミネラルが私たちやペットの健康にどのようなに関与しているのかよく知りません。

2タイプあるセレン

微量ミネラルであるセレンは土壌や海水などの自然界に広く存在しています。土の中のセレンは植物(草、野菜、果物)の根から取り込まれると、多くはアミノ酸と結合します。また魚は海中で食物連鎖を通して、牛などの動物は草や飼料(ダイズ、トウモロコシ)を経由して体内に摂取します。

このように植物や動物体内でアミノ酸という形で存在するものを「有機セレン」、これに対し広く自然界に存在しているものを「無機セレン」と区別しています。有機/無機ともにセレンの健康機能は一口でいうと免疫強化作用であり、具体的には抗酸化作用、抗老化作用、抗がん作用といったものが報告されています。

摂取から排出まで

セレンが体内に取り込まれ排出されるまでの流れを確認しましょう。まずフード材料中(肉、魚、穀物、野菜など)には微量ですがセレンが含まれています。この時点では無機セレン/有機セレンが混じった状態です。これが動物の体内に吸収されるとアミノ酸と結合して有機セレンとなり、肝臓や腎臓などの臓器にプールされます。そして不要になったものは尿や糞、呼気として体外に排出されます。

フードから吸収されたセレンの任務はグルタチオンペルオキシダーゼという酵素の材料になることで、この酵素は体内で発生した活性酸素を分解・消去(抗酸化作用)します。これにより体を作っている細胞は元気に活躍できるため、セレンには免疫強化・抗老化などの作用があるとされています。

水銀を排出するセレン

前回「大型海産魚を主原料とするフードには水銀が多い」という調査結果をお知らせしました。これがそのままペットの健康を害するというものではありませんが、オーナーの皆さんの中には少なからず不安感が残っている方もおられるでしょう。そこで次のような研究データを紹介します(阿南弥寿美ら 熊本県立大学 令和5年)。

実験動物のラットをグループ分けし、標準エサの5倍量の水銀を添加したエサ(高水銀群)、この高水銀エサに標準エサの約1/30量に調整したセレンを添加したエサ(高水銀低セレン群)をそれぞれ2週間給与しました。試験終了後に各臓器に含まれる水銀量を測定し、高水銀群の値を100として高水銀低セレン群の相対値を算出しました。

結果では肝臓(約40)、脾臓(約65)というように主な臓器の値は低減されていました。標準のエサに含まれる量の約1/30であってもセレンは摂取した水銀を排出促進し、体内に残留させない作用があることが判ります。前回紹介したように、ペットの食事は1つのタイプに偏らずドライ→ウエット→手作りのようにローテーションすることでセレン摂取のチャンスが巡ってきます。

【腎臓の健康とセレン】

セレンと腎臓の関係を探ってみましょう。腎機能が低下すると血液をろ過し尿をつくることができなくなり、やがて体外へ排出すべき老廃物/有害物が体内に溜まる尿毒症を招きます。そこで腎不全では血液のろ過を機械に代行させる人工透析が行われます。

透析患者のミネラル

健康な人と比べると透析患者は多くの微量ミネラルが減少しているといわれています。透析患者と健常人の血中ミネラル量を調査した次のような報告があります(山谷金光ら(公財)鷹揚郷腎研究所弘前病院 2017年)。

●対象者
透析患者340人(平均年齢64.1歳、平均透析期間7.0年)
健常人70人(平均年齢59.0歳)
●測定項目
  血中亜鉛およびセレン濃度

上記の設定で調査を行い、健常人の平均測定値を100として透析患者の相対値を見たところ、亜鉛は約75、セレンは約74と有意に低い値でした。腎臓のダメージによりこれら2つの血中ミネラル濃度は約25%低減していました。

余命とミネラル

長期間の人工透析により患者の血中ミネラル、中でも亜鉛とセレンが大きく減少していることが確認されました。ではこの2つのミネラルのどちらが透析患者の予後、すなわち生存率に関与しているのでしょうか?透析患者を生存群(222人)と死亡群(118人)に分け、亜鉛とセレンの血中濃度との関係が調べられました。

両群患者のミネラル濃度を健常者と比べ、亜鉛/セレン両方高値、亜鉛/セレンのどちらか片方が高値、亜鉛/セレン両方低値の3グループに分類しました。すると両方のミネラル値が低いという割合が生存患者群(27%)であったのに対し死亡患者群(61%)と大きな差が見られました。

腎不全患者の余命延長には亜鉛とセレンが深く関係していると考えられました。この報告は透析患者を対象としたものですが、腎機能が低下したペットの生活維持にも亜鉛/セレンが重要であると推察できます。

【セレンとアレルギー】

セレンの健康機能は大きくまとめると免疫力の維持・向上です。具体的には活性酸素に対抗する抗酸化/抗老化作用、がん細胞の増殖を抑える抗がん作用などですが、これらに加え最近はアレルギーとの関係についても研究されています。

幼児のアレルギーリスク

アレルギー性疾患には食物アレルギー、金属アレルギー、花粉症などがあります。中でも子どものアトピー性皮膚炎はそのケアに大きな負担が必要とされます。幼い子どものアレルギー性疾患の発症リスクと妊娠中の母体の血中ミネラルとの関係について調査した報告があります(宮嵜潤二ら 大阪大学 2023年)。

母子94,794組を対象として、3歳までの子どものアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎)の発症率を調べたところ28.5%ということでした。これに妊娠中の母親の血中ミネラル濃度(水銀Hg、セレンSe、マンガンMn)との関係を合わせて統計的に発症リスクを計算しました。

結果ではセレンのみが喘息を除いてアトピー性皮膚炎(0.73)、食物アレルギー(0.81)、アレルギー性鼻炎(0.82)、いずれかのアレルギー性疾患(0.85)というように子どものアレルギーと関係があることが判りました。(この統計では数値が1を下回ると事象が起こりにくいことを表します。)

母体のセレンレベル

次にセレンに注目して、母体の血中セレン濃度レベルとアレルギー性疾患の発症リスクを検討しました。セレン濃度を低値~高値の5群に分け、一番低値群の発症リスクを1とした場合の相対値を算出しました。すると喘息を除き、母体の血中セレン濃度が高いほど有意に発症リスクは低下していることが判りました。

以上のように幼い子どものアレルギー性疾患リスクに母親(母体)のセレン摂取量が関与していることが確認されました。アレルギー性疾患はペットにおいても関心が高く、中でもアトピー性皮膚炎のケアをされているオーナーは少なくありません。今後、ペットにおいてもアレルギーとセレンとの関係を探る研究の進展が期待されます。

健康情報誌などを見ると、セレンは抗酸化作用に関与するミネラルであると記載されています。近年はこれ以外にもがん発症リスクの低減など、さまざまな健康維持に貢献するミネラルであることが判ってきました。次回はペットフードの食材とセレンについてお知らせしましょう。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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