
ペットとの暮らしが私たちの健康に貢献するということは広く知られています。これには散歩に連れて行くことによる骨・筋肉の維持強化(身体面の健康)、加えて家族同士や他のペットオーナーとの会話・交流よるコミュニケーションの増加(精神面の健康)などが背景にあります。今回は特別な状況として、妊娠中の女性の精神健康とペットとの関係を探ります。
目次
【イヌとネコの飼育状況】
近年ペットの飼育頭数が減少傾向を見せている中、現在もなお空前のネコ人気は続いています。ではペットの主役の座がイヌからネコに入れ替わったのはいつからだったのでしょうか?
飼育頭数の逆転
ペットの飼育頭数の統計として最も一般的に用いられているのが日本ペットフード協会の発表数値です。同協会よると2016年のイヌ飼育頭数は987万頭、ネコ飼育頭数は984万頭とほぼ同数でしたが、翌年2017年にはイヌ892万頭、ネコ952万頭となりました。これよりイヌとネコの飼育頭数≒人気の逆転は2017年といわれています。
これは公的なものではなく、あくまでも一団体の発表値です。もちろん出典や計算方法の違いにより数値に差が見られることはありますが、現在の日本ではイヌよりもネコの方が飼育頭数が多いことは確実でしょう。

女性のネコ人気
ここでネコ人気を支えているのはどのような人達なのか気になります。よくいわれているのがリタイア後の年配者と単身の女性です。イヌと違いネコ飼育においては毎日の散歩の必要がなく、また日中室内に1頭だけにしていても大きな問題がないなど、比較的手間がかからないことが理由と思われます。
全国のシニア女性(50~83歳)581人を対象にしたペットに関する最新の調査報告があります(ハルメク 生きかた上手研究所調べ 2025年)。これによるとペットとしてイヌまたはネコを飼っている女性の比率は全体の16.4%、このうちイヌ飼育者は8.4%、ネコ飼育者は8.6%です。同じアンケートを行った2022年ではイヌ飼育者9.3%、ネコ飼育者8.9%でした。このようにシニア女性を対象にした統計結果でも、イヌ人気とネコ人気には逆転現象が起きています。

【妊婦さんとペット飼育】
ネコブームが盛り上がる中、気になる研究報告があります。幅広く女性に人気のネコですが、ライフステージのある期間に限定した場合、ネコとの生活が精神面にマイナスの影響を与える可能性があるというものです。その特別な期間とは妊娠中から産後の期間です。
妊娠中のストレス
次の様な設定のもと、妊娠中~産後の女性の精神健康状態とペット飼育との関係を調査した報告があります(松村健太ら 富山大学 2022年)。
●対象者 母親80,814人
●グループ 妊娠中のペット飼育状況をもとに群分けを実施
:ペット飼育なし(66,468人)
:イヌを飼育(8.958人)
:ネコを飼育(4,093人)
:イヌ・ネコ両方を飼育(1,295人)
●測定項目 妊娠期間中の心理的苦痛、産後の抑うつ状態
妊娠中の心理的苦痛度をスコア化し、ペット飼育なし群を基準として各群との関連性を計算しました。数値が1を上回れば有意に関連性あり、下回れば関連性なしを意味します。結果ではイヌ飼育群(1.03)に対してネコ飼育群(1.07)、イヌ・ネコ両方飼育群(1.12)となり、イヌよりもネコの飼育は妊娠中の心理的苦痛(=ストレス)が大きいとなりました。

産後の抑うつ状態
次は産後の抑うつ状態について測定しました。抑うつ状態とは気分が落ち込んだ憂鬱な状態をいい、厳密にはうつ病とは別ものです。先ほどと同様にペット飼育なし群を基準として各群との関連性を算出したところ、イヌ飼育群(0.98)、ネコ飼育群(1.04)、イヌ・ネコ両方飼育群(1.01)という結果になりました。
以上より妊娠期間中のペットとの生活では、イヌと比べてネコは妊婦さんの精神健康に良くない影響(ストレス、抑うつ状態)を与えるということが示されました。ネコ派の皆さんにはショッキングな報告かもしれません。

【妊婦さんの精神健康】
妊娠中~産後の妊婦さんの精神状態が不安定であった場合、子供たちの発育にどのような影響を及ぼすかという大規模な調査報告がありますので参考に確認しておきましょう(森美由紀ら 福島県立医科大学 2023年)。
メンタル不調と幼児の発育
妊娠期間を前半と後半に分け、それぞれ妊婦さんの心理的苦痛(=ストレス)が高かった組合せによりA~Dの4グループに分けました。次に各グループの2歳時点の子供たち(男児1,859人、女児1,817人)の神経発達を測定しスコア化しました。
結果では4グループ中Dグループ(妊娠前半および後半に強いストレスあり)のみにおいて、男児は運動発達と言語認知発達、女児では言語認知発達が有意に低値でした。妊婦さんの精神状態が生まれてきた子供の脳の発達に影響するということです。

もう1つ調査報告を紹介しましょう。先ほどと同様に妊娠期間中の妊婦さんの心理的苦痛が高かった組合せによりA(46,463人)、B(7,697人)、C(10,629人)、D(13,956人)に分け、今度は各グループの3歳時点の子供たちの発達障害との関連性を調べました。するとこれも同様にDグループのみにおいて、自閉スペクトラム症との関連性が高いという結果になりました(西郡俊絵ら 福島県立医科大学 2023年)。
以上の調査データから、妊婦さんの強いメンタル不調(心理的苦痛、抑うつ状態)が妊娠前半~後半を通して継続した場合、幼児たちの発育が低下するリスクがあると考えられます。そしてその妊婦さんのメンタルに影響を与える要因の1つにペットの飼育がありました。

妊婦さんとペットの生活
マタニティブルーや産後うつといった言葉があるように、妊娠期間中の妊婦さんは心身ともに大きな負担の中にいます。この時期の精神状態を少しでも健全に保つ意味でペットとの生活がありますが、今回の紹介報告から注意すべきことが判りました。それは飼育するペットの種類です。
イヌの飼育は妊婦さんのストレスと産後の抑うつ状態を軽減する効果(保護因子)が確認されました。これに対し妊娠期間中のネコとの生活は、妊婦さんの精神健康レベルを低下させる作用(危険因子)があるようです。そして妊婦さんの不健康なメンタル状態は生まれくる子供たちの発育・発達にも影響します。
妊婦さんと子供におけるさまざまなリスクを低減するという観点から考えると、少なくとも妊娠期間中のネコとの生活は控える方が安心といえます。またこれはネコから妊婦さん、さらに胎児へのトキソプラズマ症の感染を避けるという意味でも重要です。

今回は妊娠期間中という特別な状態で、妊婦さんのメンタルとペット飼育の関係について考えました。7~8年前からペットの飼育頭数ではイヌよりもネコの方が多くなっています。どちらが良い悪いということではなく、オーナーの皆さんのライフステージに適した種類のペットと共に生活することが大切です。
次回はペットと一緒の生活が子供たちの意外な健康状態に貢献しているという調査結果を紹介します。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。




























