獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「ペット飼育とアレルギーリスク」

ペット飼育と私たちの健康との関係について話をしています。ペットを飼いたいと思いながらもそれができない方々は少なくありません。理由は様々で費用や住宅条件(アパート・マンション)、別れがつらいといったものがありますが、その中で「アレルギーの家族がいるため」という回答があります(一般社団法人 日本ペットフード協会 2024年)。今回は本当にペット飼育はアレルギーの原因になっているのか?というテーマでいろいろな調査結果をお知らせします。

【ペット飼育とアレルギー】

一般にペットが原因と考えられているアレルギーには呼吸器や皮膚に関係するものがあります。これらはイヌやネコの被毛やノミ・ダニの死骸/糞に触れたり、吸い込んだりすることで体内のアレルギースイッチが入り発症します。

アレルギー性疾患との関係

中学生633人を対象にペット飼育経験と代表的なアレルギー性疾患との関係を調査した学会報告があります(榎本雅夫ら 日赤和歌山医療センター 2005年)。対象の中学生をペット飼育の経験あり(362人)と経験なし(271人)に分け有症率を比較したところ、アレルギー性鼻炎は経験あり(39.8%)なし(34.3%)、アトピー性皮膚炎は経験あり(26.8%)なし(24.4%)、そして喘息では経験あり(19.0%)なし(19.4%)でした。

ペット飼育とは無関係か?

同様に埼玉県下3,000世帯の家族全員を対象にしたアレルギー性疾患と生活環境との関連性が調査されています(松本隆二ら 埼玉県衛生研究所 2009年)。この中でもペット飼育の有無と有症率が報告されており、アレルギー性鼻炎は飼育あり(21.5%)なし(19.1%)、アトピー性皮膚炎は飼育あり(13.9%)なし(12.5%)、そして喘息では飼育あり(12.6%)なし(11.6%)とあります。

このように数値だけを単純に比較すると、ペットを飼育する環境下ではアレルギー性疾患の有症率はわずかに高いのですが、統計処理すると両群の間に有意差は見られませんでした。ペットの飼育方法他いろいろな条件が絡むためさらに詳細な検討が必要ですが、一概に「ペット飼育はアレルギーを引き起こす」とは言い切れない様です。

【幼児の呼吸器疾患】

先ほど2つの報告にアレルギー性疾患として喘息(ぜんそく)がありました。ここからはペット飼育と喘息との関係をもう少し詳しく見てみようと思います。

喘鳴の発症

喘鳴(ぜいめい)とは呼吸時に「ゼーゼー、ヒューヒュー」という音がする状態をいいます。410人の子どもの喘鳴と喘息の状態を9歳まで追跡調査した報告があります(谷口優ら 国立環境研究所 2020年)。調査期間中6歳未満でペット(イヌまたはネコ)を飼育していたのは79人、1度も飼育していないのは331人でした。

両群の子どもの年齢と喘鳴発症者割合をみると、1歳時点で飼育経験あり(12.4%)なし(24.8%)、2歳時点では経験あり(10.0%)なし(24.0%)でした。そして6歳時点では飼育経験ありに対し経験なしはおよそ4倍という結果でした。

喘息の発症

次は喘息の発症者割合です。こちらは6か月齢時点では飼育経験あり/経験なしも同じく1%、そして6歳時点では経験あり(7%)に対し経験なし(17%)とおよそ2.4倍もの差がありました。

このようにアレルギー性呼吸器症の1つである喘鳴および喘息に関して見ると、イヌまたはネコと一緒に暮らす子供たちの方が発症リスクは低いという結果になりました。

ペット飼育開始時期

この報告では6歳までの子どもの呼吸器症とペット飼育経験との関係を調査しています。このペットとの生活ですが、何歳から飼育を開始していたのかについても検討しています。ペット飼育経験ありの子どもを飼育開始した年齢により次の3つのグループに分けました。

・幼児期飼育(24人): 1~2歳までに飼育開始
・就学前飼育(24人): 3~6歳までに 〃
・長期飼育(31人): 1~6歳までに 〃

上記3群に飼育経験なしグループを加え、喘息発症者割合を計算したところ、6か月齢時点では全群0~2%でしたが、6歳時点では幼児期飼育群(約0%)に対し就学前飼育群(約30%)と大きな開きがありました。

以上の調査結果より、1歳くらいまでの幼児期からペットと一緒に生活をすることが子どもアレルギー性呼吸器症の発症リスクを抑えることにつながると考えられます。

【ペットと生活しないリスク】

ペットの飼育は必ずしもアレルギー性疾患に直接関与しないのではないか?逆にペットと一緒に生活することは、喘息の発症低減に貢献するのではないか?という報告を紹介しています。こうなるとペットの種類に関しても興味が湧いてきます。

ペットの種類と喘息リスク

平均年齢50歳代の成人モニターをイヌ飼育経験あり/なし、ネコ飼育経験あり/なしの4グループに分け(各群1,000人~3,000人規模)、喘息発症者割合を算出しました。するとイヌ飼育経験あり(5.7%)なし(14.8%)、ネコ飼育経験あり(5.6%)なし(13.5%)となりました。

前出の6歳児のデータと同様に50歳代の成人においても、ペットとしてイヌまたはネコの飼育は喘息の発症を抑えるという結果になりました。これを逆に考えると、生活の場にペットがいないと喘息リスクは高くなるともいえます(谷口優ら 国立環境研究所 2023年)。

イヌがいない生活

この調査では、ペットの飼育経験がないことが喘息発症とどれくらい関連性があるのかを計算しています。具体的には飼育経験群の人が飼育を開始した年齢を10歳から60歳までに区分し、それぞれの関連度合いを1として飼育経験なし群の値を算出しました。数値が1よりも大きいと関連性が高い(≒喘息リスクが高い)という意味になります。

イヌにおいての計算結果は、飼育開始年齢10歳まで(2.15)から60歳まで(2.01)とすべての年齢において2.00以上、イヌ飼育経験なし群全体では2.01となりました。これはイヌの飼育を経験していない人達は、飼育経験者と比べ約2倍の喘息リスクがあるということです。

ネコがいない生活

同様にネコについても見てみましょう。こちらもネコ飼育経験あり群の喘息との関連度合いを1として比較したところ、飼育開始年齢10歳まで(2.02)から60歳まで(2.25)、そしてネコ飼育経験なし群全体では2.24となりました。イヌと同じくネコでも飼育を経験していない人達は、飼育経験者と比べ約2倍の喘息リスクがあるということが示されました。

以上の結果をまとめると、イヌ/ネコを飼育することは飼育しない場合と比較して、喘息発症リスクをおよそ2倍低減する働きがあるとなります。加えて飼育開始年齢としては、イヌでは10歳ぐらいまでの早い時期から、ネコの場合は年齢に関係なくいつから飼育を始めても喘息を抑えることが確認されました。

今回はペットとの生活はアレルギー性疾患と必ずしも関係がない、逆に幼児期からイヌやネコと触れ合うことは喘息といった呼吸器症の発症リスクを抑える作用があるのではないかという研究結果を紹介しました。これは幼い時期から軽度の免疫刺激(=今回はペットとの生活)を受けていると、重篤なアレルギー性疾患を軽減するという考えに合致します。これを「衛生仮説」といいます。

次回はペットとの触れ合いが子どもの食物アレルギーや高齢者の認知症予防など健康に良い作用を及ぼしているという最新の調査データをお知らします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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