
さまざまな異物から体を守るしくみを免疫システムといいます。この免疫が過度に作動してしまうアレルギーの中で、摂取した食物が原因物質(アレルゲン)となるものが食物アレルギーです。食物アレルギーは1歳未満の乳児で最も多く発症するといわれていますが、近年の厚生労働省の調査では小児から成人まで幅広く認められているとのことです。今回はペットの飼育経験と子どもの食物アレルギー発症との関連性についての調査結果をお伝えします。
目次
【3歳児の食物アレルギー】
6,215人の子どもを対象に、ペットとの生活経験と3歳時点の食物アレルギーとの関連性を詳細に調査した報告があります。モニターの構成はペット飼育経験なし(51,909人:78.4%)、飼育経験あり(14,306人:21.6%)、飼育ペットの種類はイヌ、ネコ、カメ、ハムスター、トリとなっています(岡部永生ら 福島県立医科大学 2023年)。
ペット飼育と発症率
まず子どもの年齢別に食物アレルギーの発症率を確認しましょう。全体66,215人において1.5歳時点では9.6%、2歳時点では6.6%、3歳時点では5.9%でした。やはり厚生労働省の報告どおり1歳前後での発症が多いことが判ります。
これをペット飼育経験の有無との関係で見てみると、1.5歳時点では飼育あり(8.6%)なし(9.9%)、2歳時点では飼育あり(6.0%)なし(6.8%)、3歳時点では飼育あり(5.4%)なし(6.1%)となります。飼育経験の有無の間に明確な差は確認されませんでしたが、ペットと一緒に生活をしていた子どもは食物アレルギーの発症率がわずかに低く抑えられている感があります。

イヌ/ネコ飼育との関連性
次はペットの中でイヌ/ネコの飼育と食物アレルギーの発症との関連性を確認します。飼育経験なし群の関連度を1として、イヌまたはネコ飼育経験群の値を計算しました。この時、飼育期間を胎児期(=出生前)のみと乳児期早期(=出生後早期)のみに分けました。
結果は胎児期のみ飼育:イヌ(0.86)ネコ(0.87)、乳児期早期のみ飼育:イヌ(0.84)ネコ(0.87)となりました。これよりペット飼育を経験していない子どもに対して、イヌ/ネコの飼育経験がある子どもは食物アレルギーリスクが低いということになりました。またこの時の飼育経験では出生前の期間、すなわち妊娠中の母親がペットと生活していた場合も関連するということが判りました。

【イヌ/ネコ飼育と食物アレルギー】
食物アレルギーにおけるアレルゲン(原因食材)として、症例数が多いものや症状が重篤となるものを「特定原材料」といいます。現在、特定原材料には乳・卵・小麦・そば・落花生・えび・かに・くるみの8つが指定されています。ここでは子どものペット飼育経験とそれぞれの特定原材料による食物アレルギー発症との関連性を見てみましょう。
牛乳アレルギー
特定原材料の中の牛乳アレルギーについてのデータです。イヌ/ネコ飼育経験なし群の子どもの関連度を1として比較すると、イヌ飼育群では胎児期のみ(0.82)乳児期早期のみ(0.84)、ネコ飼育群では胎児期のみ(0.88)乳児期早期のみ(0.89)となりました。
関連度が1より小さいということは発症との関連性が低いという意味ですので、イヌまたはネコと一緒に生活していた子どもは牛乳アレルギーの発症リスクが小さいとなります。

小麦アレルギー
牛乳と並んでアレルギーの発症例が多いのが小麦です。同様に小麦アレルギーとの関連性については、イヌ飼育群では胎児期のみ(0.73)乳児期早期のみ(0.86)、ネコ飼育群では胎児期のみ(0.54)乳児期早期のみ(0.63)でした。数値から見ると小麦アレルギーに関しては、イヌよりもネコを飼育した経験がある子どもの方が発症リスクは低いといえそうです。

ナッツアレルギー
このようなデータを見ているとペット飼育はすべて子どもの食物アレルギーの予防に良い結果をもたらしているような感がありますが、実はそうでもありません。ナッツアレルギーに対する関連性を確認しましょう。
ナッツに関しては胎児期のみのデータですが、イヌ飼育群(0.75)、ネコ飼育群(0.97)、カメ飼育群(1.50)、トリ飼育群(1.59)、ハムスター飼育群(1.93)となっています。イヌ/ネコ以外のペットの飼育、中でも妊娠中の母親がハムスターを飼育していた場合、生まれた子どものナッツアレルギーリスクをアップさせてしまう可能性があると考えられます。

【ポイントは継続飼育】
さまざまなペットの中でイヌまたはネコの飼育は、生まれてきた子どもの食物アレルギー予防と関連があるようです。ではこの飼育期間を出生前と出生後に分けてさらに詳しく見た場合、より一層食物アレルギーの発症リスクを抑えるのはいつでしょうか?
出生前から乳児期早期
子どもがイヌ/ネコと触れ合っていた期間を胎児期のみ(出生前:母親の胎内)、乳児期早期のみ(出生後間もなく)、胎児期~乳児期早期の3グループに分け、食物アレルギー発症との関連性を求めました。
今回は胎児期のみ飼育経験ありグループの関連度を1として比較しました。すると乳児期早期のみグループは0.92、胎児期~乳児期早期グループでは0.87となりました。1を下回る=関連性が低いということですので、出生前から出生後乳児期早期までの継続的なイヌ/ネコ飼育が子どもの食物アレルギー発症リスクをさらに抑える結果となりました。

卵・牛乳・小麦のアレルギー
最後にイヌ/ネコ飼育経験と個別の食物アレルギーとの関係を見ておきましょう。卵・牛乳・小麦の3つにおいて胎生期のみグループでは飼育経験なし群と比較して発症との関連度に差はありませんでした(1.03~1.06)。
代表的な食物アレルギー3種類の発症との関連性が低いまたは大きく低いという結果になったのは胎児期~乳児期早期グループでした(卵0.84、牛乳0.83、小麦0.66)。中でも小麦アレルギーに関しては、胎児期のみ(1.06)、乳児期早期のみ(1.03)と比較して大きなリスクの低減が確認されました。
これより出生前(妊娠期間)から出生後早期まで継続的にイヌまたはネコがいる家庭では、子どもの食物アレルギーリスクは低減されると考えられました。

前回はペット飼育が子どものアレルギー性疾患の発症を抑える可能性を紹介しました。これは継続的に微量の原因物質(アレルゲン)と接触することにより、体内の免疫システムが寛容になるという「衛生仮説」に基づくものです。しかし現在のところ、あくまでも「仮説」であり科学的に証明されているものではありません。
今回は飼育するペットの種類や飼育期間により、子どもの食物アレルギーの発症リスクが抑えられ、さらには予防の可能性も期待できるのではないか?という調査報告でした。これもまた確定/証明されたものではありませんが、大変興味深いデータであり今後の研究が期待されます。
次回はペット飼育と高齢者の健康生活への効果についての調査結果を紹介します。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。





























