
今年は季節の変動が激しい気がします。11月に入っても朝と昼間の気温差は大きく体調管理に注意が必要です。夏の暑さが和らぎ食欲が増してくる秋口ですが、皆さんのペットは毎日しっかり食事を摂っていますか?
目次
【フードの食いつきムラ】
フードを変えたら食べなくなった、同じフードなのに今日は食べない、など病気ではないのに急に愛犬・愛猫の食欲が落ちた/食べないという場面があります。いわゆる「食いつきムラ」ですが、皆さんのペットはいかがでしょうか。
フードで気になること
アニコム損保の『どうぶつkokusei調査(2020年)』の中にオーナーへのアンケートとして「フードで気になることは?」という質問があります。回答のトップは金額が高い(46.4%)、次いでフードの食いつきが悪い・食欲にムラがある(18.2%)となっています。
フードの中でも総合栄養食の表示があるものは栄養設計に問題はないと考えますが、味・においに関しては使用している原料、食感では製法が大きく関与してきます。価格が高いからといって必ずしもペットの食いつき評価が良いとは限らないようです。

愛犬サイズと食いつきムラ
この調査報告で興味深い質問を2つ見つけました。1つは「フードの食いつきにムラがある愛犬の体格は?」、もう1つは「2時間以上の散歩を行っている愛犬の体格は?」というものです。まず食いつきムラと愛犬サイズの関係については小型犬(21.8%)→中型犬(19.0%)→大型犬(11.8%)という順位でした。次に2時間以上の散歩に関しては、大型犬(5.8%)→中型犬(3.2%)→小型犬(1.2%)と愛犬のサイズとの関係が逆転しています。
確かに小型犬は筋力/体力的に長時間の散歩は難しいでしょう。このため大型犬に比べると屋内外での運動量(エネルギー消費量)は少なく、お腹が空きにくくストレス発散の機会も少ないと思われます。
また小型犬では神経質な性格の犬種が少なくありません。以前紹介した環境省の『ペット動物販売業者用説明マニュアル』にはチワワ、トイ・プードル、Mダックスフンドは興奮性/攻撃性が高いと記載されています。このように食いつきムラにはフードの味や食感のみならず、イヌ側のストレスといった精神的なコンディションも影響していると考えられます。

【ペットの味覚】
フードの好き嫌いにはペットの好みの味が大きく関与していることは間違いないでしょう。ここで味を認識する味覚という感覚について、私たちヒトとペットを比べてみましょう。
5つの基本味
食べ物の味は甘味・うま味・塩味・酸味・苦味5つの基本味の組合せから成っています。この5つのうち糖質(エネルギー源)を主とする甘味とグルタミン酸(アミノ酸/タンパク質)などのうま味は体が常に必要とするため、摂取すると心地良さ(=快)を感じます。
また塩の塩味と腐敗の酸味は多く摂ると不快感を招くものの、発汗後の塩分補給や疲労時のすっぱい飲み物(クエン酸)は美味しさ(=快)を感じます。これらに対して苦味は毒物・体に危険なものとして一般に苦手(=不快)と評価されます。

ヒト・ペットが苦手な味
食べ物の味は舌にある味蕾(みらい)というセンサー細胞が認識しています。その数はおよそヒト7,000、イヌ1,700、ネコ500、魚200、ヘビ0とされています。味蕾の数が多いほど味覚が敏感とすると、ペットの味を認識する能力は私たちヒトよりも劣るといえるでしょう。
動物の種類により感知できない味があり、ネコは甘味が認識できないとされています。また一般に動物/ペットは酸味や苦味が苦手であり、これは野生に暮らす場合、酸味は腐敗、苦味は毒物を意味するためと考えられます。

【変化する味覚】
味を感じる味蕾をもたないヘビには味覚がないという訳ですが、ペットには500~1,000以上の味蕾があるためフードの味を認識しています。ところが同じフードでも日によってよく食べたり食べなかったり、食いつきにムラを見ることがあります。この背景に心身のコンディションが特定の味覚に何か影響を及ぼしているのではと考えられないでしょうか?
ストレス状態の女子大学生
女子大学生163人(平均年齢19.9歳)を対象にした味覚の変化に関する調査報告があります(中嶋名菜ら 熊本県立大学 2020年)。この調査ではモニターを次の3グループに分け、各基本味を認知できる濃度を測定しました。
❶群:ストレス度(低)、痩せたい願望(低)
❷群:ストレス度(中)、痩せたい願望(高)
❸群:ストレス度(高)、痩せたい願望(中)
甘味、うま味、塩味、酸味、苦味の5つの味を認知できる濃度を測定し、❶群と比較したところ、❸群では甘味と塩味の値が低い結果となりました。特に甘味は❶群12.67g/L ❷群10.48g/L ❸群7.94g/Lと有意な低下が確認されました。認知濃度の低下とは味覚の感受性アップを意味しており、この場合は甘味を敏感に感じるということになります。
日常生活において心理的な負の要因(ストレス、プレッシャー)が大きい状態では体は糖分=エネルギー源を必要とし、このため甘味に対する感受性が高まると考えられます。

ストレス状態の小学生
もう1つ心身コンディションと味覚変化の試験データを紹介しましょう。健常な小学生58名(男児29名、女児29名)のストレスレベルを測定し、味覚低下との関連性を確認した報告があります(永井亜矢子ら 奈良女子大学 2013年)。
ストレスなし群(21人)およびストレス度が最も高いⅢ群(16人)の甘味、塩味、酸味、苦味の感覚が低下している子どもの割合を算出しました。結果では両群共に甘味感覚が低下している者の割合が高く、またストレス度が高いⅢ群では全般的に味覚が低下する傾向がありました。
この甘味に対する感覚低下(=鈍感)という成績は先ほどの女子大学生の成績(=敏感)と異なる結果でした。これには小学生という年齢や日頃甘いおやつを食べる機会が多いなどの生活条件が関与しているのかもしれません。

疲労状態の小学生
小学生を対象にしたこの試験では疲労度との関係についても調べています。過去1か月間の身体的疲労度と精神的疲労度、およびこれら両方を合わせた総合的疲労度を測定し、それぞれ非疲労群と疲労群に分けて味覚低下者の割合を算出しました。
結果として疲労群の小学生において有意に味覚低下者割合が高かったのは、身体的疲労では酸味、精神的疲労では塩味、そして総合的疲労では酸味(22.7%)と苦味(18.2%)となりました。疲労は小学生の味覚に影響を及ぼすことが確認されました。

今回はペットフードの食いつきムラにどのような理由があるのかについて検討しました。一口食べただけで次は食べないという場合、味やにおいが嫌いであると想像できます。しかし理由がよく判らないのが同じフードでも食べる時があり食べない時もあるという食いつきムラです。
この背景に日によって味覚の感受性が変化している可能性がありました。ストレスや疲労といった心身のコンディションにより、味に対する敏感度が変わり「いつもより味が薄い/味が濃い」と感じる場合があるということです。
動物を用いた実験データは見当たりませんでしたが、この心身状態による味覚の変化という現象はイヌやネコにおいても発生していると考えられます。フードの食いつきムラ対策としてストレス解消のための適切な運動や遊び、または疲労の回復といった対処が有効と考えられます。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。





























