
11月に入り一気に寒くなりました。真夏は熱中症の危険性が高いため控えていた愛犬との散歩を再開されたオーナーも少なくないでしょう。今回はヒトの試験データをもとに、運動負荷が私たちやペットの味覚に与える影響について考えます。
目次
【愛犬の散歩】
ペットの飼育頭数ではネコに逆転されてしまったイヌですが、その理由の1つに散歩があるといわれています。一般社団法人ペットフード協会の資料によると2024年のペットの室内飼育割合はイヌ(27.6%)、ネコ(83.5%)とのことです。飼育愛犬のおよそ3割は運動が不足しているかもしれません。
気になる健康内容
今年1月に行われた愛犬の健康に関するアンケートの結果が報告されています(大正製薬㈱プレスリリース 2025年)。全国400人のオーナーへの質問として「愛犬の健康面で気になる点・心配な点は何ですか?」という項目があります。
この回答を愛犬の年齢グループごとに集計したところ、子犬群:下痢(22.0%)、成犬群:運動不足(25.0%)、中高齢犬群および高齢犬群は共に高齢からくる衰え(26.0%、46.0%)が第1位という結果でした。なお子犬群では第2位に運動不足(17.0%)が入っていました。

健康維持対策
続いての質問に「愛犬の健康維持のためにどのようなことをしていますか?」というものあり、これに対しての総合第1位の回答は散歩(48.5%)でした。この結果を年齢グループでみても子犬群:第1位(散歩50.0%)、第5位(よく遊ばせる29.0%)、高齢犬群でも第2位(散歩46.0%)となっています。
近年のネコ人気の背景にはイヌと違って散歩の必要がないためという声があります。確かに季節や天気のことを考えると毎日の散歩は面倒ですが、年齢に関係なく愛犬の飼育/健康維持に運動は必須という考えはオーナーの意識の中にあるようです。

愛犬の散歩時間
ペットの健康相談としてよく聞かれるものに、愛犬の散歩時間があります。特に決まりはありませんが、あくまでも1回の散歩目安としてチワワなどの小型犬では30分間程度、中型犬では30分間~1時間程度、レトリーバーなどの大型犬では1時間以上もOKとされています。
家族と同居している/リタイア後であるなどオーナーの生活条件にもよりますが、上記の時間を目安として1日2回の散歩をお薦めしています。ただし目的は愛犬と共にオーナーの皆さんの健康維持ですので、くれぐれも無理をしないようにお願いします。

【運動習慣と味覚】
ここからはヒトを対象にした、運動が味覚に与える影響に関する試験データを紹介します。ペット(イヌ、ネコ)を用いた実験報告があればよいのですが、今後の参考になるかと思います。
性別と味覚感受性
北祐会神経内科病院の小野寺幸代らは、健康な男女大学生43人を対象にしていろいろな切り口から味覚感受性について調査しています(2006年)。まずは基本的なところで性別との関係、すなわち男性と女性とではどちらが味に敏感か?を調べました。
4基本味を認識できた濃度を1(低濃度)~5(高濃度)にスコア化し、男性18人女性25人の平均値を求めたところ、塩味(男性3.3、女性2.6)以外の甘味・酸味・苦味ではほぼ同等でした。数値が小さいほど味覚が鋭いとなりますので、結論として塩味に関しては女性の方がやや敏感であるといえそうです。

運動習慣との関係
では運動習慣と味覚感受性の関係についてはどうでしょう。仙台大学の佐々木繁盛らは大学生男女35人を日頃から意識的に運動を行っているスポーツ実施群(20人)と行っていない非実施群(15人)の2グループに分けました。そして両群に5基本味の識別試験を行い正解率を比較しました(2011年)。
結果は甘味については非実施群(87%)、酸味では実施群(86%)の方がやや高い成績でしたが、全体の味覚の平均正解率としてはスポーツ実施群(82.00%)、スポーツ非実施群(81.87%)と両群に有意な差は確認されませんでした。これより運動習慣と味覚感受性との間には関連性はないと考えられます。

【運動強度と味覚の変化】
健康な成人において日常の運動の有無と味覚の敏感さには関連性はないようです。仮にこの試験データをそのままペットに当てはめると、毎日散歩をしている愛犬も完全室内飼育犬もフードの味を感じる力に大きな差はないとなります。すなわち運動習慣とフードの食いつきムラとは関係性なしとなりそうです。では運動の強さについてはどうでしょうか?
運動強度レベル
運動は強度により大きく2つに分けることができます。1つは散歩や軽いランニングにように呼吸(酸素)をしながら時間をかけてゆっくりと筋肉を動かす有酸素運動です。もう1つは短時間呼吸を止めて全速力で走るような無酸素運動です。ペットではドッグランを元気に走り回るような運動がこれにあたります。
共に筋肉を動かしていますが、その時の主となるエネルギー源は有酸素運動では体脂肪、無酸素運動ではブドウ糖です。ではこの運動の負荷レベルと味覚感受性の関係データを見てみましょう。
有酸素運動と味覚
前出の小野寺らの試験の続きです。規則的な運動習慣がない女子学生8人を対象に40分間の自転車ペダリング運動を行ってもらいました。そして運動前後で4基本味を認識できる濃度を測定し、運動前の値を100として運動負荷後の相対値を求めました。
結果では塩味を除いた甘味・酸味・苦味に低下が確認されました。中でも苦味は最も低い値(69)を示しており、これは自転車ペダリングのような有酸素運動後は苦味に対する識別能力の向上=苦味に敏感になっていることを示しています。
この結果を愛犬に当てはめると、散歩後間もなくの食事では苦味の感度が増しているため、該当する食材が少しでも入っていると食いつきが悪い、まったく食べないという反応を示す可能性が考えられます。

無酸素運動と味覚
前出の佐々木らも運動強度と味覚変化について報告しています。大学生男女10人をモニターとして有酸素運動(30分間のゆったりペダリング運動)と無酸素運動(30秒間の全力ペダリング運動)を行ってもらいました。
甘味・塩味・酸味・うま味の4基本味を認識できる濃度をスコア化し、運動前後で比較したところ、うま味に関して運動前→有酸素運動後→無酸素運動後の順で数値の低下が見られました。これを男性モニター5人に限定すると運動前(4.6)→有酸素運動後(3.6)→無酸素運動後(2.8)とさらに低下率が大きくなっていました。
うま味成分は肉や魚に含まれるアミノ酸が主体です。アミノ酸は摂取すると体内でタンパク質に合成されます。運動後の筋肉はダメージを受けており、これを修復するために体はアミノ酸/タンパク質を取り入れようとします。運動後、特に運動強度が高い無酸素運動においてうま味感度が敏感であったのはこのためと考えられます。なお女性より男性の方がより感度が高かったのも運動による筋肉ダメージが多いためと思われます。

今回はヒトの試験データから運動負荷が味覚感受性に与える影響について考えました。確認された点は運動習慣の有無は味覚に影響せず、運動の負荷レベルとの関連性が大きいということでした。
あくまで推察の範囲ですが、毎日の散歩やドッグランでの全力運動の後は愛犬も苦味に敏感になる(=食いつき低下)、またうま味を求める(=食いつきアップ)といった変化を見せるのではないかと考えられます。愛犬の健康維持に毎日の散歩は大切ですが、この運動負荷がフードの食いつきムラに関与する可能性も留意しておきましょう。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。



























