
食欲の秋となりました。冷たいものばかり食べていた夏が終わり、いろいろな物が美味しい季節になると食欲がアップします。これはペットたちも同じでしょう。シリーズでフードの食いつきムラと味覚の変化について探っていますが、今回は季節(気温)や食べ物の温度と味覚感度の関係がテーマです。
目次
【季節と味覚感度】
ヒトの試験データを紹介します。私たちの味覚は季節ごとである程度の変化を見せているようです。
春と秋
家政科食物専攻の女子大学生43人を対象に、4つの基本味の味覚調査を春季(5~6月)と秋季(10~11月)に実施した報告があります。調査内容は甘味・塩味・酸味・苦味を認識できた濃度を1(低濃度)~5(高濃度)にスコア化し、この結果で味覚感度を求めるというものです(江角由希子 島根女子短期大学 2000年)。
まず全体の結果を見てみると、春季秋季に共通して塩味に対する感度が高いことが判ります(春季2.09、秋季1.66)。そしてすべての味覚において春季よりも秋季の方が平均値が低いことが確認されました。この試験設定では、数値が小さいとはその味に対する感度が高いということを示しています。
このように私たちの味覚感度は4基本味すべてにおいて、春よりも秋の方が良好/敏感になっているということです。「秋は食事が美味しい」や「食欲の秋」というのは単に気のせいでもないようです。

夏と冬
次は夏と冬とで比べてみましょう。夏は暑くて食欲が低下し、冬は暖かいものが美味しい季節ですが味覚感度はどうでしょうか?管理栄養士養成課程の女子大学生191人をモニターとして、5つの基本味の感度を夏季(7月下旬~8月上旬)と冬季(1月下旬~2月上旬)で比較した報告があります(矢島由佳ら 仙台白百合女子大学 2021年)。
試験では甘味・うま味・塩味・酸味・苦味の5つの味を認識できた濃度を1(低濃度)~5(高濃度)にスコア化し、その平均値を求めています。結果は先程と同じく塩味に対して夏季2.63、冬季2.95と敏感であることが判ります。そして5基本味全体の感度では夏は鋭く(敏感)、冬は鈍い(鈍感)となりました。
イメージでは冬は暖かい食事が美味しいので、味覚も敏感であると思っていましたが実際は逆でした。寒い冬は体温が奪われるため、より多くのエネルギー源=食事を摂る必要があります。そこで味覚の感度を低下させることで満足感が得られるまで多くの食べ物を摂るようになると考えられています。
「冬太り」という言葉があります。これは寒さによる運動不足と食事量の増加によるものですが、この背景に味覚の鈍化があると考えると大変興味深く感じます。

【食事温度と味覚感度】
冷たいものと温かいものとでは食べ物の味が違うという経験は皆さんもあると思います。ペットの冷たいおやつというものはありますが、市販のドライフードを与えている限り温かい食事というものはありません。食べ物の温度と味覚の関係を見てみましょう。
低温、中温、高温
いろいろな温度の水を口の中に含み、口内温度を変化させた後で味覚感度がどのように変化するのかを確認した試験報告があります(秦朝子ら 滋賀医科大学 2007年)。
大学生20人(男性5人、女性15人)を対象に口内温度を0℃から50℃くらいまでに調整した後、甘味とうま味を認識できる最小濃度を測定しました。この結果をグラフにすると、低温と高温とでは最小濃度は高く(=鈍感)、中温域で低く(=敏感)なりました。すなわち味覚感度は冷たすぎても、熱すぎても鈍くなるということです。
甘味とうま味
この実験において甘味(ショ糖)とうま味(グルタミン酸)を最も敏感に感じる最小濃度値の口内温度を測定しました。結果は甘味では29.2℃、うま味では30.6℃となり、共に30℃付近で最も味覚感度が鋭くなっていることが判りました。
30℃付近とは私たちが普通に食べている食事の温度です。これはちょうどペットがフードを食べない時には少し温めるという対応策と同じです。水分がある手作りフードでは冷たいよりは温かい方が匂いも増し、味も良く感じるようになりしっかり食べてくれます。

【ピューレの美味しさと温度】
味覚検査というのはショ糖(甘味)やクエン酸(酸味)といった単品の味の水溶液を用いて実施します。しかし実際の食べ物には複数の味が混じっており、これに匂いが加わり総合的に「風味」というものを形成しています。最後にニンジンのピューレを用いた味覚/風味の感度と温度との関係を確認しましょう。
硬さ評価
ヒトと同様にペットも老化が進むと噛む力が低下します。流動食フードは必要ないものの、ペースト状の食事を食べさせる場面は発生します。ニンジンのピューレを用いた味覚試験報告があります(中野優子ら 農研機構 2020年)。
試験では茹でたニンジンをフードプロセッサーとホモジナイザーで粉砕してピューレとしたサンプルを大学研究員15人のモニターに試食してもらいした。味覚評価は各項目について0(まったく感じない)~100(これ以上ないくらい強い)で数値化しました。
ニンジンピューレの粉砕程度と温度の組合せでみた成績です。ピューレの温度を低温10℃、室温20℃、高温60℃の3つに調整し、室温サンプルの硬さ評価を100として相対値を求めました。するとすりつぶしの滑らかさとは関係なく、低温のピューレは口に入れた時に硬いと感じる結果となりました。

味覚評価
試験サンプルがニンジンピューレですので、味に関する評価では甘味と酸味について比較しました。室温ピューレの評価を100とした相対感度を見ると、甘味では低温(80)、高温(76)、酸味では低温(100)、高温(58)となりました。
ニンジンの味の主体である甘味と酸味は、20℃付近の室温程度で最も安定的に味わえるということが判りました。

風味評価
味、匂い、食感などをまとめたニンジンピューレの風味評価と温度との関連性を確認しましょう。15人のモニターが室温サンプルを試食した時の風味評価を100として比較した結果、低温サンプル(69)、高温サンプル(108)となりました。
以上をまとめるとニンジンピューレという食材については、10℃という低温よりも20℃以上の温かい方が全体的に美味しく感じるということになります。ペットの場合もこれと同様と考えると、20~30℃付近の体温に近いフードが最も美味しく感じていると思われます。

ペットフードの食いつきムラの背景を探っています。はっきりとした理由が判らない場合がほとんどですが、季節/気温やフード温度がペットの味覚感度に影響する可能性があると推察されます。
ヒトの試験データを活用すると、ペットも好ましいと感じる甘味やうま味は30℃付近の温かい食事で強く感じると考えられます。これより少し手間はかかりますが、ペットには体温程度の温もりのある手作りフードが食欲増進、食いつきムラ対策に良い結果をもたらすのではないかと思われます。皆さんもぜひお試し下さい。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。




























