獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「味覚変化と唾液量」

執筆獣医師のご紹介

前回、老化により味覚感度が衰えてくるという話をしました。比較的甘味とうま味に対する感覚は維持されるようですが、これはエネルギー源(甘味)とタンパク/アミノ酸源(うま味)の必要性と関係があると考えられます。今回は味覚の変化と唾液量の関係から、高齢ペットのフードの食いつきを応援するヒントを探ります。

【味覚異常の関連要因】

味がよく判らない、違う味がするなどの味覚異常はストレートに老化が原因とは言い切れないようです。味覚異常にはどのような要因が最も関連しているのかを統計的に分析した結果を紹介します。

口腔内の乾燥

60~93歳の高齢者45人(平均年齢72.4歳)と18~33歳の若年者30人(平均年齢26.1歳)をモニターとして、味覚異常に関するアンケート調査が行われました(花井正歩ら 東北大学 2004年)。味覚異常の内容には変化・減退・無味などがあり、全体としては高齢者群の方が高い割合でした。

次に味覚異常の背景にはどのようなものがあるのかについて統計分析されました。算出された数値が1よりも大きいほど異常感との関連性が高いということを意味します。結果の上位5つは口腔乾燥(3.64)、口腔粘膜不良(2.95)、義歯不満足(2.59)、高齢(2.00)、咀嚼困難(1.81)となりました。

高齢であることは確かに味覚異常の一因ですが、老化による全身疾患は0.97(=関連なし)ということでした。それよりも若年者/高齢者全体において最も関連性が高い因子は口腔乾燥、すなわち唾液分泌量の減少でした。

唾液の分泌量

若者も高齢者も口の中の乾燥は味覚異常に大きく関係しているようです。この点について高齢者に限定した調査報告があります(佐藤しづ子 ら 東北大学 2005年)。味覚が正常の45人のグループと味覚異常の26人のグループの高齢者にガムテストを行ってもらいました。

市販のガムを10分間噛んだ時に分泌される唾液量を比較したところ、正常者群が約12mlであったのに対し、味覚異常者群は約5mlと60%も減少していました。やはり口腔乾燥/唾液量減少は味覚障害を引き起こす大きな原因であることが判りました。

【老化と唾液量】

ここでは高齢者の唾液分泌量の減少についても少し調べてみようと思います。年を取ると唾液量が減るのは判りますが、これを回復させることはできないのでしょうか?

高齢者の唾液量減少

唾液の分泌量を測定するガムテストの試験結果をもう1つ見てみましょう。老人ホームに入居する高齢男女89人にガムテストを実施してもらったデータです。ガムを10分間噛んだ時の総唾液量10mlを基準として正常(10ml以上)、軽度の減少(5~10ml)、中等度の減少(3~5ml)、高度の減少(3ml未満)の4パターンで判定しました。

結果は全体のおよそ半分の高齢者に分泌の減少が認められました。唾液減少の程度では5~10mlの軽度減少が最も多く36%でした(阪本真弥ら 東北大学 1996年)。

老化による病状との関連性

次はこの高齢者の唾液量減少が全身疾患に由来するものかという点を調べました。この場合の全身疾患とは老化を背景とする高血圧や胃腸障害、脳疾患、糖尿病などのことです。

唾液分泌量が正常であったグループ46人中全身疾患を持つ高齢者の割合は43人93.5%、対して分泌量減少グループでは43人中全身疾患を持つ人の割合は37人86.0%でした。両グループの間に大きな差は認められなかったことから、高齢者の唾液量の減少は老化による全身疾患とは関係がないことが再確認されました。

【唾液腺マッサージ】

私たちの唾液は唾液腺という器官でつくられ口腔内へ分泌されます。唾液腺とは耳下腺・顎下腺・舌下腺といった複数の唾液産生器官の総称であり、イヌにおいても同様にこれらの唾液腺で唾液が産生されています。

口腔乾燥の開始年齢

前出の阪本らはガムテスト後に唾液量の低下を認めた高齢者に対し、いつ頃から口内の乾燥感を自覚したかという質問をしました。すると予想どおり60歳代(30.4%)、70歳代(43.5%)がメインという結果になりました。この年齢はイヌでいうとおおよそ10歳以降に相当します。

ヒトもイヌもいわゆる高齢期に入ると唾液腺の機能が衰え始め、これにより口腔内の乾燥が起こり、味覚異常を招くという流れになるのでしょう。

マッサージの有効性

唾液産生量の減少は全身疾患によるものではなく、直接唾液腺の機能が低下するためと考えられます。では唾液腺が活発に働くようにすれば、口腔乾燥を防ぎ味覚異常を軽減できると考えられます。そこで考案されたのが唾液腺マッサージです。

10歳代~70歳代までの99人を対象として、あごを中心とする唾液腺マッサージを行い唾液の分泌効果を確認した試験報告があります(松尾恭子ら 広島大学 2018年)。2分間のマッサージ後、唾液が分泌されたかどうかを主観的に評価してもらいました。

年代別に分泌が確認された人の割合を計算したところ、10歳代~50歳代は70~85%と高く、60歳代では68.4%、70歳代では62.5%とやや低下する結果となりました。各年代を通して物理的な唾液腺マッサージは有効であるといえます。

高齢者の唾液増加効果

60歳~70歳代では「唾液が出た」と評価した人の割合が60%以上という唾液腺マッサージですが、唾液の分泌量についても確認しておきましょう。分泌量は時間と量を元に指数化され、これを元に全体の平均を求めると2.1となりました。

この平均と比較して最も低い値であったのは10歳代で1.4、最も高い値であったのは70歳代で2.7となりました。60歳代でも2.0とほぼ平均と同じ値でした。これより60歳~70歳という高齢者において唾液腺マッサージは唾液の分泌を促す方法として大変有用であるといえます。

老化に伴い全身の器官の働きは徐々に低下します。唾液を産生する唾液腺も例外ではなく唾液の分泌量は減少し、その結果口腔内は乾燥して味覚感度の低下を招きます。これはヒトだけではなく私たちのペットにもいえることでしょう。

口腔乾燥の対策としてお茶を飲むという方法があり、ペットではカリカリのドライフードよりもスープ/水分が多い手作りフードが適していると考えられます。また食事の前にあごの辺りを両手でマッサージしてあげると唾液腺が刺激され唾液の分泌が促されます。

ペットフードの食いつきムラの背景として老化による唾液量の減少が考えられる場合、手作りの食事メニューや顔のマッサージを検討してみましょう。

(以上)

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獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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