
味には甘味・うま味・塩味・酸味・苦味の5つがあります。この内、甘味とうま味は私たちヒトはもちろんペットにとっても好まれる味です。今回はうま味には消化機能を向上させる特別な働きがあるという話をします。
目次
【自律神経とフード】
自律神経という言葉があります。「自律」とは私たちの意思とは関係なく脳が自ら内臓などの器官の働きを調整するという意味です。具体例として私たちは心臓を好き勝手に動かしたり止めたりすることはできません。心臓の収縮は脳が自律神経を通してコントロールしているということです。
相反する2つの神経
脳からの調節指令を器官に伝える自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経は緊張状態や怒っている時に、副交感神経はリラックス状態や休息している時に作動します。ペット同士が喧嘩をしている時、心拍数や呼吸数は交感神経の作用により増加し、寝ている時は副交感神経の作用により減少します。
また胃腸の消化機能は興奮時(=交感神経作動)に低下し、リラックス時(=副交感神経作動)に亢進します。忙しい仕事中は空腹を感じない、朝目が覚めるとお腹が空いているという現象はこれら2つの神経の作用によるものです。交感神経と副交感神経は真逆に働き、相反する関係にあるといわれます。

消化をアップさせる味
ペットをリラックスさせフードの消化吸収をアップさせるには、副交感神経が作動すればよいということになります。そこで5つの味と自律神経の活動との関係を調べた研究結果を紹介しましょう(杉本久美子ら 東京医科歯科大学 2013年)。
5つの基本味の溶液を1分間口に含んでもらい、その間の自律神経の活動を測定しました。水を含んだ時の値を1として、交感/副交感神経の活動レベルの相対値を比較すると、苦味は交感神経を大変強く刺激させることが判りました。苦い食べ物は動物にストレスや興奮を与える味であるということです。
対して副交感神経の活動をアップさせたのは、うま味と酸味でした。ペットはお酢やレモンといった酸味を嫌いますので、皆さんの愛犬愛猫をリラックス状態に導き、フードの消化吸収を応援する味はうま味であると考えられます。

唾液を分泌させる味
前回、口内の唾液量が減少すると味覚障害を招くという話をしました。この唾液の分泌をコントロールしているのも自律神経です(そう言えば自分の意思とは関係なく唾液は出ます)。副交感神経が作動することにより、口の中にはさらさらで多量の唾液が分泌されます。
5つの基本味で口内を刺激した時、唾液分泌速度が高いものはどれかという試験を行いました。これも水を含んだ時の速度を1として相対値を求めたところ、うま味、塩味、酸味が2倍以上の結果となりました。これらの成績をイヌに当てはめると、うま味のあるフードを食べた時は副交感神経のスイッチが入り、唾液分泌は増加し消化が促進されることになります。

【うま味と消化活動】
食事・フードの消化活動の中心臓器は胃です。口の中で唾液と一緒に咀嚼された食べ物は食道を通って胃に入ります。ここで胃液による消化を受けます。
うま味のある食事:ヒト
慢性萎縮性胃炎という病気があります。慢性的な炎症によって胃の粘膜組織が薄くなり、その結果胃液の分泌量が減少し消化能力が低下する病気です。この慢性萎縮性胃炎で入院している患者を対象に行われた次のような実験報告があります(海外文献 1992年)。
患者を2グループに分け、一方は通常の食事、もう一方はうま味物質であるグルタミン酸ナトリウムを添加した食事を3週間食べてもらいました。試験開始前後の胃酸分泌量を測定し、通常食グループの値を1としてうま味強化食グループの値と比較したところ、基礎分泌量で約2.4、最大分泌量では約2.9という成績でした。

うま味のあるフード:イヌ
うま味と消化活動との関係を見た実験はイヌにおいても実施されています。イヌの食事として肉のみを与えたものと、肉にうま味物質(グルタミン酸、核酸)を加えたものに分けて胃液の分泌量を比較測定しました(海外文献 1993年)。
給与1時間後では約2.5倍、6時間後のトータル量としてはおよそ1.6倍もうま味物質を加えた肉の方で胃液分泌量が多い結果となりました。このようにヒトでもイヌでもうま味のある食事は胃液の分泌を促進させ、消化を応援する働きがあることが確認されました。

【うま味とQOL】
年を取ると噛む力(咀嚼力)が低下し、同時に飲み込み(嚥下)にも衰えが見られます。食べ物はのどの手前までは舌を使って送り込みますが、その後は反射的に飲み込みを行います。この飲み込み反射に関与する神経の1つに舌咽神経というものがあります。
飲み込みの応援
実験動物を使ってうま味物質が飲み込み反射にどのように関与しているかを調べた試験データを確認しましょう(北川純一ら 日本歯科大学 2007年)。マウスの咽頭部(のどの奥の部位)を水、うま味物質であるグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、2つの混合物で刺激し、この時の舌咽神経の活動レベルを測定しました
水の場合の値を1としてうま味物質3種類の相対値を計算したところ1.5倍以上、特にグルタミン酸+イノシン酸の混合物の刺激では約1.7倍もの活動が確認されました。うま味のある食べ物は消化活動のスタートである飲み込み反射も応援することが判りました。

消化とQOLの応援
最後に今回紹介したうま味の働きをまとめましょう。うま味を感じると自律神経の1つである副交感神経のスイッチが入ります。副交感神経はリラックス神経とも呼ばれるように、メンタルではゆったりとした気分になり、体の消化機能としては唾液および胃液の分泌を促進します。
唾液の分泌が活発になると食べ物を咀嚼しやすくなり、嚥下もスムーズに行われます。そして前回紹介したように味覚感度の維持向上にもつながります。胃において胃液がたくさん分泌されると食べ物、特に肉の消化が進み腸でのアミノ酸吸収がより促進されます。
食事やフードを美味しく食べることは栄養分の摂取と共に、毎日を楽しく過ごすことのベースになっています。すなわちうま味は私たちやペットのQOL(生活の質)の向上に大きく貢献しているのです。

以前このコラムでも紹介しましたが、うま味の代表としてグルタミン酸やイノシン酸があります。グルタミン酸は昆布に含まれるアミノ酸、イノシン酸はかつお節や肉などに含まれる核酸物質です。
うま味(美味しさ)を感じるには水分が必要あり、この点においては乾燥したドライフードよりもスープたっぷりフードの方が適しています。そして昆布・かつお節・肉などを使ったうま味のある手作りフードを食べたペットは副交感神経の作用によりリラックス状態となり、その後の消化吸収にも良い結果が期待できます。皆さんもぜひお試し下さい。
(以上)
自然食材だけのご馳走スープ
水分と栄養をたっぷり補給♪
新鮮食材で素材の旨みと香り栄養がたっぷり!
自然な美味しさは愛犬の食欲をそそります

愛犬用手作り食 膵臓に優しい低脂肪7食セットの購入はこちらから

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。




























