
手術の前日や胃腸障害によるひどい下痢など、半日程度の短時間ペットが食事を摂れない状態があります。また加齢により長い期間にわたり食事量/栄養摂取量が減少する場合もあります。絶食だけでなく後者のような低栄養時でも小腸はダメージを受けています。今回は小腸の粘膜や絨毛の回復に有益な栄養成分を探ります。
目次
【鍵となる栄養素は?】
ラットを用いて絶食負荷を受けた小腸の回復にはどのような栄養素が必要であるかを確認した試験報告があります(片山(須川)洋子 大阪市立大学 1988年)。
体重の回復
試験は次の設定で実施されました。
●供試動物 ラット
●グループ 3日間の絶食後、以下の調節エサを3日間給与
:標準エサ群 …脂肪5%、カゼイン20%、デンプン63.8%
:高脂肪群 …脂肪20%
:無タンパク質群 …カゼイン(-)
:高果糖群 …果糖63.8%、デンプン(-)
絶食前体重を100として各群の相対体重を求めたところ、絶食3日後では4群すべてで70~80まで低下しました。そしてエサ再給与3日後では標準エサ群と高脂肪群は絶食前までに回復、高果糖群は約85、無タンパク質群では絶食終了時とほぼ変わらない値でした。エサに含まれる栄養成分により絶食後の体重の回復成績に大きな差が確認されました。

小腸粘膜の回復
腸管の内面はヌルヌルとした粘膜で覆われていて、食べ物と一緒に体内に侵入した病原体の定着・増殖をブロックしています。エサ給与再開3日目の粘膜量を測定した結果は標準エサ群(536mg)に対して高脂肪群8%増加、高果糖群13%増加(606mg)、これに対し無タンパク質群では35%減少(347mg)となりました。
絶食後の小腸粘膜の回復にはタンパク質は必須であり、加えて糖類が有益な栄養素であることが判りました。

細胞の増殖
小腸の内面には杯細胞という細胞がありここから粘液が分泌されています。この杯細胞や絨毛などは栄養素の摂取再開により増殖するため、DNA量を測定することで細胞の回復レベルが評価できます。エサ再給与3日目の粘膜に含まれるDNA量を比較すると標準エサ群と高脂肪群はほぼ同等、高果糖群は約27%増加、無タンパク質群は約40%減少という結果でした。
加えて小腸内面の絨毛の様子を顕微鏡で観察したところ、標準エサ群のみ絶食前と同等まで回復、高脂肪群と高果糖群は回復には至らず、そして無タンパク質群は絶食前と大きく異なる状態でした。
以上の成績をまとめると絶食ダメージからの小腸の回復にはタンパク質が重要であり、早期の修復には糖類が有用であるといえます。

【非消化物の役割】
小腸はアミノ酸(肉などのタンパク質由来)やブドウ糖(米などの炭水化物由来)など食物が消化分解された栄養成分を吸収する場です。これら栄養素が絨毛や粘膜の形成を促し、そして成長した絨毛がさらに栄養素を吸収するという良いサイクルが出来上がっています。ではこの時、体内で消化されない物資は小腸絨毛の形成には何も役に立っていないのでしょうか?
意外な非消化物の作用
ラットに非消化性物質である発泡スチロールを給与し小腸の発育との関係を調べた報告があります(内田博之ら 城西大学 2022年)。通常飼育されたラットを48時間および72時間絶食させ、その期間中発泡スチロールを与えるグループと与えないグループに分けました。
試験終了時に小腸粘膜の高さ(厚さ)を測定し、絶食前の値を100とする相対値を求めました。すると発泡スチロールを給与されたラットの方が給与されていない方に比べて20~25%も粘膜が厚いという結果が得られました。

絨毛の回復効果
同様に絨毛の高さについて確認しましょう。これも絶食前の値を100とする相対値を求めたところ、発泡スチロールを与えられたラットの方が与えられていない方に比べておよそ20%も高いという結果でした。
発泡スチロールは消化を受けない物質ですが、体内を通過する時に腸管内面を物理的に刺激します。この刺激が粘膜の増加/絨毛の成長促進といった絶食ダメージからの小腸の回復を応援すると考えられます。意外にも非消化物もまた役に立っているということです。

【食物繊維ペクチンの貢献】
絶食後の小腸の回復に非消化性の物質が有用であるといって、ペットに発泡スチロールを与えるわけにはいきません。そこで考え出されたのが私たちヒトやイヌ・ネコが食べても消化できない食物繊維です。
ペクチンのはたらき
以前、このコラムで「ジャムペクチン」という食物繊維を紹介しました。ペクチンは果物の皮に多く含まれており、植物の細胞と細胞をつないでいるセメント役を担っている物質です。ジャムのとろみはこのペクチンによるものでした。
低栄養下で飼育されたマウスにおける食物繊維ペクチンの作用を調べた次のような研究報告があります(増田凌也 岐阜大学 2024年)。
●供試動物 マウス
●グループ 以下のエサを9日間給与
:標準エサ群 …カゼイン20%
:低タンパク質エサ群 …カゼイン2%
:低タンパク質エサ+ペクチン添加群
ウシなどの草食動物は肉食動物に比べて腸が長いといわれます。これは消化に時間がかかる食物繊維から無駄なく栄養成分を吸収できるよう進化したものです。試験終了後、上記3グループのマウスの小腸全体の長さを測定しました。
標準エサ群の値を100とする相対値で比べたところ、低タンパク質エサ群が約95、ペクチン添加群は約101と有意な差は見られませんでした。9日間という短い給与期間ではカゼイン量が標準の1/10という低タンパク質のエサでも小腸が短くなることはなく、また食物繊維ペクチンを給与しても長くなるというわけではありませんでした。

低栄養と食物繊維
では小腸内面にある絨毛の高さを比べてみましょう。同様に標準エサ群の値を100とすると低タンパク質エサ群は約95と短縮、ペクチン添加群は約101で標準エサ群と同等の値を維持(=絨毛の伸長に貢献)していました。
この試験においても小腸内面の健康維持にはタンパク質が必要とされること、加えて低タンパク質/低栄養下での絨毛の維持・伸長にはペクチンといった食物繊維が有用であることが判りました。

「タンパク質・エネルギー低栄養:PEM」という言葉があります。これは飢餓や絶食とまではいかないものの、食事量が減少して低栄養の状態にあることをいいます。ちょうど病中病後や高齢者/高齢ペットがこれに該当し、この時「食事量減少→小腸絨毛短縮→栄養吸収減少→低栄養→小腸絨毛短縮→・・・」と負のスパイラルに陥ります。
この悪循環から脱出するためは小腸絨毛の維持がポイントになります。今回絨毛を成長させるための鍵となる栄養素としてタンパク質、糖類、そして食物繊維ペクチンの3つの研究データを紹介しました。
糖質と食物繊維ペクチンの2つはちょうどジャムにたくさん含まれています。低栄養下の高齢ペットでは慢性的に小腸がダメージを受けていると考えられます。このような時、身近な小腸応援策としてジャムの給与が有用でしょう。皆さんもお試しください。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。




























