獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「お肉の圧力鍋調理」

煮込み料理の定番といえば肉じゃがです。ペットにも与えたいメニューですが私たちヒトのレシピで作ると玉ねぎが入っているため中毒リスクがあります(要注意です!)。いつも使っている鍋では長い時間がかかる豚の角煮などは圧力鍋を利用すると短時間で軟らかく出来上がります。今回はペットの手作りメニューに使いたいブロック肉を短時間で美味しく煮込める圧力鍋調理の実験データを紹介します。

【肉の煮込み調理】

煮る・焼く・炒めるなど肉の調理方法はいろいろあります。少々硬い肉もちょっとの工夫で軟らかく仕上がります。

軟らかくする方法

皆さんは肉を軟らかくするためにどのような下準備や調理を行っているでしょうか。ここで広く知られている方法とその原理を確認しましょう。まず下準備としてはパパイヤやパイナップルなどの果物の活用があります。これら果物にはタンパク質消化酵素が含まれており、酸性下ではこの酵素の働きがより促進されます。

次にハンマーで叩いたり、機械でひき肉/ミンチにすることで肉のスジを切り物理的に軟らかくする方法があります。そして調理方法では弱火での長時間の煮込みが一般的です。

以上代表的な4つですが、これらのターゲットはすべて肉中のコラーゲンです。タンパク質の一種であるコラーゲンは3本の鎖がらせん状に編み込まれた丈夫な構造をしています。酵素での消化やミンチにすることで編み込みがバラバラになります。そしてもう1つ熱を加えると鎖がほどけてゼラチンに変わり、結果硬い肉が軟らかくなります。

圧力鍋の煮込み効果

硬い肉の代表に牛のすね肉があります。これを圧力鍋で煮込んだ時の調理時間と軟らかさの変化についての測定データを見てみましょう(猪俣美知子 東京家政大学 1985年)。条件は加熱温度122℃、各保持時間後に消火して10分間蒸らしました。

加熱時間5分の肉の硬さを100として相対値を計算すると時間の経過に伴い軟らかさが増してゆき、20分後にはおよそ35まで軟化しました。硬いすね肉のコラーゲンが高圧高温調理によりどんどん分解されていったと考えられます。

【コラーゲンのゼラチン化】

鍋で肉を煮込むと軟らかくなるのと同時に煮汁には濁りが現れます。これは肉から水分やうま味が煮汁へ溶け出してきたことを意味します。ここでは煮汁の変化に注目しましょう。

肉の保水力

生肉と比べると加熱した肉は少しパサつきを感じます。これは肉を焼いた時だけでなく煮込んだ場合も同じです。牛すね肉を圧力鍋(122℃)で煮込み、時間の経過と重量減少率を測定しました。

加熱5分後の減少率は45.1%でしたが10分後44.0%、15分後43.9%、20分後43.5%と低下を示しました。この重量の減少は肉からの水分の流出量ですので煮込んだ場合でも肉の保水力は減少するということになります。料理としては煮汁も一緒に食べると美味しいでしょう。

煮汁の変化

加熱により肉から水分が流れ出す時、同時にこの水分に溶け込んだ栄養成分も煮汁に溶け出していることになります。5分加熱後の煮汁の透明度を100として時間経過との関係をみると、10分98→15分97→20分96と減少=にごりが確認されました。

そして煮汁中のタンパク質量を測定すると5分100→10分106→15分117→20分133と増加していました。このタンパク質とはゼラチンやうま味成分のことです。硬いすね肉を圧力鍋で煮込むと10~20分の短時間でコラーゲンがばらばらになり、肉からゼラチンが煮汁に溶け出すことが判ります。煮汁が冷えてゼラチンによってゼリー状に固まったものが「煮こごり」です。

【通常の鍋vs圧力鍋】

圧力鍋を使うと通常の鍋と比べて短い時間で煮込み料理が出来上がります。しかしその短縮時間は肉の種類や部位によって少々違いがあります。最後に通常の鍋と圧力鍋との調理効果を比べてみましょう。

牛すね肉:軟らかさ

通常の鍋(加熱温度98℃)で牛すね肉を煮込み、時間経過ごとの軟らかさを測定しました。40~60分では硬さに変化は見られませんでしたが、80分より徐々に肉は軟らかくなり140分後では1/2程度にまでなりました。この時点で煮込み時間は2時間を超えています。

この結果を圧力鍋(加熱温度122℃)で煮込んだ時の成績に当てはめると、通常鍋80分間≒圧力鍋5分間、通常鍋100分間≒圧力鍋10分間、通常鍋140分間≒圧力鍋15分間となります。硬い牛すね肉ですが圧力鍋を使うことでとても大きな時短効果が得られることが判ります。

豚ブロック肉:軟らかさ

次は豚の皮付きブロック肉の煮込み成績です(塩田教子ら 活水女子短期大学 1986年)。豚ブロック肉を通常の鍋で4時間の煮込み、圧力鍋(116℃)で40分間の煮込み、圧力鍋で1時間の煮込みを行いました。

煮上がった肉に一定の荷重で針が入る深さを測定する針入度試験という方法で軟らかさを調べたところ、圧力鍋1時間煮込み(68.3mm)は通常鍋4時間煮込み(74.8mm)と同等の成績となりました。圧力鍋を利用すると通常鍋のおよそ1/4の時間でとろとろの煮込み効果が得られることが判りました。

豚皮部:消化率

高圧高温調理をすると肉のコラーゲンがほどけて軟らかくなります。このコラーゲンは肉(=筋肉)だけでなく皮(=皮膚)にも存在します。豚ブロック肉の皮部分が消化酵素トリプシンでどれくらい分解されるかを比較しました。

結果は対照として設けた生豚肉の皮部消化率が16.0%、対する通常鍋4時間煮込みは65.22%、圧力鍋1時間煮込みでは69.3%となりました。肉はもちろん皮の部位であれ、圧力鍋は短時間でコラーゲンをとろとろのゼラチンに変え、その後の消化も促進する作用があることが確認されました。

以前に比べて圧力鍋の普及は進んでいます。手軽に短時間でお肉の煮込み料理が出来上がり、私たちの食事だけでなくペットの手作りフードにも活用できます。肉の硬さの背景にあったコラーゲンはゼラチンになり、水分と一緒に肉内部から煮汁へ溶け出ます。煮込みフードでは肉と一緒に煮汁/スープも与えることで無駄なく栄養が摂れます。皆さんもぜひお試し下さい。

次回は圧力鍋で高圧高温調理をすることで栄養素の損失(ロス)の心配はないのか?という点を検証します。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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