
短時間で食材を軟らかく料理できる圧力鍋は、硬い牛すね肉や豚ブロック肉の煮込みに適した調理器具です。また肉だけではなく根菜類や豆といった硬い野菜を使ったメニューにも重宝ですが、ここで1つ心配事が浮かびます。圧力鍋を使った時、野菜の魅力であるビタミンは影響を受けないのでしょうか?今回は圧力鍋調理と野菜の栄養ロスについて確認します。
目次
【じゃがいものデンプン】
煮込み料理の定番メニューといえば肉じゃがやカレー・シチューです。これらの主役ともいえるじゃがいもは硬い根菜類の仲間です。まずはじゃがいもを蒸してマッシュポテトを作る時の蒸し器と圧力鍋の効果を比べてみましょう(渋川祥子ら 横浜国立大学 1985年)。
つぶれやすさ
じゃがいもを蒸し器で20分間、圧力鍋で3分間加熱しました。機械を使って両方のじゃがいもをつぶし、水を加えて金網でこし、この液中の沈殿量を比較しました。じゃがいも1gあたりの沈殿量は蒸し器17mlに対し圧力鍋は22mlという結果になりました。
じゃがいもを加熱する場合、圧力鍋を使うことで蒸し器の1/6~1/7の時間でホクホクになり、細かくくずせることが判りました。

口あたり
それぞれの調理器具を使ってマッシュポテトを作り、実際に食べ比べる味覚試験を行いました。33人のモニターへの質問として「どちらの方がねっとりしているか?」は29人(88%)、「どちらの方が舌触りがなめらかか?」では24人(73%)と圧力鍋で作ったマッシュポテトの方が高い評価を得ました。
なお「どちらの方が美味しいか?」という問いでは蒸し器14人(42%)、圧力鍋19人(58%)と同等に近い結果でしたが、これには味付けをしていないことや個人の好みが背景にあるのではないかと報告者は考察しています。

デンプン量
マッシュポテトを食べた時のねっとり感は、加熱によりじゃがいものデンプンがどの程度α化(糊化)しているかにより決まります。次はα化したデンプンがじゃがいもの細胞からどれくらい溶出しているのかを比較測定しました。
まずは溶け出したペクチンの量です。ペクチンは植物の細胞と細胞をつないでいる物質です。蒸し器では約4%、対する圧力鍋は約6%と圧力鍋のマッシュポテトの方が細胞は多く壊れていることが判ります。そして溶出したデンプン量では蒸し器0.2、圧力鍋0.4と2倍の差が確認されました(デンプン量はヨード反応による呈色度合いで測定しています)。
以上より圧力鍋を使うと短時間の加熱でもじゃがいものデンプンはα化が完了し、ねっとり/なめらかなマッシュポテトが出来上がることが判りました。

【さつまいものビタミン】
蓋を密閉することで100℃以上の高温調理ができる圧力鍋ですが、少し心配な点があります。それは高温による栄養素の損失/栄養ロスです。特に野菜の場合はその魅力であるビタミン類のロスが気掛かりです。
玄米、大豆のVB1
玄米(炊く)・大豆(煮る)・さつまいも(蒸す)を圧力鍋調理し、ビタミン類の残存量を通常鍋と比較した実験報告があります(尾立純子ら 大阪市立環境科学研究所附設栄養専門学校 1980年)。
玄米を両調理器具で炊いた時のビタミンB1残存量は、通常鍋(2時間炊き+20分間蒸らし)72.4%、圧力鍋(15分間炊き+20分間蒸らし)64.1%でした。また、大豆では通常鍋(沸騰後15分間煮る)51.3%、圧力鍋(沸騰後30秒間蒸らし)69.6%という結果でした。
玄米と大豆では残存量の関係に逆転が見られましたが、これは「炊く」調理と「煮る」調理の違いに由来しているかもしれません。しかしどちらにおいてもビタミンの残存量に顕著な差は認められなかったと考えてよいでしょう(大豆は事前に一晩水につけたものを使用し、豆+煮汁を測定サンプルとしています)。

さつまいものVB1
さつまいものデータを見てみましょう。通常鍋で30分間、圧力鍋で15分間蒸した場合の加熱時間ごとのビタミンB1(VB1)残存量を測定しました。生のさつまいものVB1を100とすると通常鍋では加熱10分後はまだ100%、その後徐々に低下し30分後には約70%まで減少しました。
一方圧力鍋では加熱5分後約90%、10分後約80%、そして15分後には約75%に減少しました。このように蒸し上がりまでの時間には差はありますが、VB1残存量には大きな違いはなく、どちらの鍋でも25~30%のロスは発生するということです。

さつまいものVC
ビタミンB1と同じく水溶性のビタミンC(VC)の残存量も確認しましょう。通常鍋の成績はVB1と同じで加熱時間に伴い低下し30分後には約70%まで減少しました。対する圧力鍋は加熱5分後約95であったものが10分後には約57%、そして15分後には約55%まで急激に減少しました。
圧力鍋を用いてさつまいもを蒸し調理する場合、同じ水溶性ビタミンでもVB1とVCとでは残存率が異なる結果となりました。短時間で100℃以上の高温まで加熱する圧力鍋はVCの保持には少し不利なようです。

【大豆のアミノ酸】
大豆は「畑の肉」とも呼ばれ植物性タンパク質を豊富に含んでいます。最後は大豆のアミノ酸への影響を確認します。
アミノ酸の溶出
先ほどと同様に一晩水につけておいた大豆を通常鍋(沸騰後15分間煮る)と圧力鍋(沸騰後30秒間蒸らし)で加熱し、煮汁中に溶け出た窒素量を測定しました。溶出割合は通常鍋3.81%、圧力鍋5.72%と圧力鍋の方が1.5倍ほど多いという結果になりました。
そこで煮汁へ溶け出たアミノ酸で多いもの調べてみると、通常鍋も圧力鍋もトリプトファン、アルギニン、アラニン、グルタミン酸、セリンという順でした。すなわち両方の鍋でアミノ酸の溶出パターンには違いは見られなかったということです。
煮汁も一緒に
玄米「炊く」、さつまいも「蒸す」に対して大豆のように「煮る」調理では煮汁に栄養素が溶け出しますが、これは通常鍋も圧力鍋も同じく起こる現象です。硬い根菜類や豆類が加熱により軟らかくなるということは、細胞が壊れることであり、一定割合でビタミンやタンパク質/アミノ酸が外へ流れ出すことは当然の現象です。
加熱による分解・損失分を除いて鍋の中全体(食材+煮汁)としてみると、ビタミンやアミノ酸の総量は大きく変化しないと考えられます。料理の種類にもよりますが煮汁も一緒に食べる/与えることで栄養損失(ロス)を最小限に抑えることができます。

通常鍋も圧力鍋のそれぞれ一長一短があります。ペットの手作りフードを作る際には食材(肉、野菜)や調理方法(炊く・蒸す・煮る)によりどの調理器具が時短に有利で栄養ロスが少ないかなどを考えてみるのがよいでしょう。
(以上)
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。





























