獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「シニアペットの筋肉アップ」

おやつの与えすぎや運動不足により体重オーバーになってしまうペットがいます。逆に食事量が減り体重が減少していくペットもいます。後者には何かしらの病気や高齢化がありますが、共通するのはあまり食べてくれないということでしょう。今回はヒト/高齢者の調査データからシニアペットの筋肉量をアップさせるヒントを探ります。

【高齢者の筋肉量】

私たちの体重管理の指標の1つにBMI(ボディ・マス・インデックス)があります。体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で計算しますが、これは体脂肪をメインにした肥満度の目安です。では皆さんは純粋に筋肉量の増減について意識したことはありますか?

四肢筋肉の減少

厚生労働省は法律に基づき毎年「国民健康・栄養調査」というものを実施しています。これは私たち国民の健康状態や栄養状態を把握するためのもので、平成29年度報告の中に高齢者の筋肉量に関するデータがあります。

60歳以上のモニターの四肢の骨格筋指数(SMI)です。60歳代→70歳代→80歳代と年齢が進むにつれて男女共にこの数値は低下しています。骨格筋指数とは四肢の筋肉量÷身長(m)÷身長(m)で計算したもので、BMIよりも筋肉量に着目したものです。加齢により私たちの四肢(両腕・両脚)の筋肉量は確実に減少してゆくことが判ります。

最も減少する部位は?

動物の体で肉付きの良い部位といえば肩・腿(もも)・臀部(おしり)があります。では老化によって最も筋肉量が減少する部位はどこでしょうか?これに対する興味深い調査報告があります(谷本芳美ら 大阪医科大学 2010年)。

谷本らは18 歳以上の日本人合計4,003人(男性1,702人、女性2,301人)を対象として上腕、下肢、体幹および全身の筋肉量の測定を行いました。そして20歳代と80歳代のデータから各部位筋肉量の減少割合を計算しました。

結果は上腕(-16.4%、-3.0%)、下肢(-30.9%、-28.5%)、体幹(-5.7%、+1.0%)、全身(-16.8%、-11.0%)と男女共に下肢すなわち脚部筋肉が最も顕著に減少することが判りました(数値の前は男性、後は女性)。この背景には老化による歩行運動量の低減があると考えられます。

【食事と運動】

厚生労働省「国民健康・栄養調査」の続きを見ていきましょう。この中には60歳以上の対象者の食事内容/運動量と筋肉量の関係が報告されています。

タンパク質摂取量

1日のタンパク質摂取量と四肢の骨格筋指数との関係です。摂取量を大きく下位群(少ない)、中位群、上位群(多い)の3グループに分けたところ、男女共に上位に進むにつれて骨格筋指数も高くなっていました。

現在、65歳以上の人のタンパク質の推奨摂取量は男性60g、女性50gとされています。この調査での上位群摂取量とは男性87.3g以上、女性76.2g以上であり、推奨量より20g以上多く摂取することで筋肉量も多く維持されると考えられます。やはり筋肉づくりにはその材料となる肉・魚・乳製品など良質なタンパク質が必要です。

1日の運動量

前出の老化による筋肉量低下が下肢部で最も顕著であった点について歩行運動量が関与していると考察しました。「国民健康・栄養調査」では労働量と筋肉量との関係も示されています。

60歳以上のモニターの1日あたりの筋肉労働量を労働なし、1時間未満、1時間以上の3群に分けて四肢の骨格筋指数との関係をみたところ、やはり労働=運動時間が多いほど高い指数という結果になりました。これらより高齢者の筋肉づくりにはタンパク質と運動負荷が重要であるとことが再確認されました。

【筋肉量の増加】

筋肉の維持増強には肉などのタンパク質を摂り、腕・足腰を動かす運動負荷が大切であることは判りましたが、年を取るほど食事量は減少し、関節の痛みから運動の機会も減ります。そこで何とか食事だけで筋肉づくりが応援できないものかと考えます。

タンパク質の追加摂取

世界中で発表されたタンパク質摂取と筋肉量の増減に関する学術データ(105文献)をまとめた結果が報告されています(㈱明治 2020年 プレスリリース)。これによると1日あたりの総タンパク質摂取量が体重1㎏あたり1.3g未満の人達と1.3g以上の人達に分け、0.1g/体重1㎏のタンパク質を追加で摂取したという設定で改めて計算しました。

上記条件のもと2~3か月間追加でタンパク質を摂ったとすると、1.3g未満グループは平均390g、1.3g以上グループは平均190gの筋肉増加となりました。ここで注目したいのは❶筋肉トレーニングの有無に関わらず、タンパク質の追加摂取は筋肉量アップにつながる ❷日頃、タンパク質摂取量が少ない人の方が筋肉量アップ効果は高い、の2点でした。

アミノ酸の重要性

タンパク質はおよそ20種類のアミノ酸から作られ、この中には動物が体内で合成できるものとできないものがあります。後者を必須アミノ酸とよび、食物から摂り込む必要があります。また必須アミノ酸数は動物種により若干の違いがあり、ヒト9種類、イヌ10種類、猫11種類とされています。

高齢者が各種アミノ酸を摂取した時の体内での筋肉代謝スピードを調べた報告を確認しましょう(小林久峰 味の素㈱ 2012年紹介)。健康な高齢者ボランティアを2グループに分け、一方は必須アミノ酸18gを摂取する群(平均年齢69歳6人)、もう一方は必須アミノ酸を含む総合アミノ酸40gを摂取する群(平均年齢71歳8人)です。

10分ごとに3時間かけて供試アミノ酸を経口摂取してもらい、体内で特定のタンパク質が新しく合成される速度を測定しました。この結果を判りやすく摂取前の値を100とする相対値を計算したところ、必須アミノ酸群は約130、総合アミノ酸群は約190となりました。

これより高齢者の骨格筋の合成には必須アミノ酸を主体として幅広くアミノ酸を含む食品を食べることが効果的であるといえます。サプリメントのように必須アミノ酸に特化するもの良いのですが、肉や魚、牛乳、大豆というように幅広い食材からいろいろな種類のタンパク質/アミノ酸を摂るもの筋肉づくりには良い策です。

シニアペットは運動量が減り、これに伴い体全体の筋肉が落ちてゆきます。筋肉の元であるタンパク質を食べて欲しいのですが、食餌量自体が減少するため困っておられるオーナーは少なくないでしょう。

次回は同じタンパク質量を摂るとしても、食餌の時間帯や同時に摂取する栄養素により筋肉アップ効果に違いがあるという研究結果をお伝えします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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