
骨格筋指数という言葉を紹介しました。これは全身における四肢(腕・脚)の筋肉量の割合というものです。ヒトもペットも年を取るにつれて筋肉量は減少し運動能力も低下します。この状態を予防するには筋肉のもととなるタンパク質を摂取することですが、同じ量を摂っていてもある条件で筋肉の合成能に違いがあるといいます。今回は筋肉アップの意外な工夫をお知らせします。
目次
【タンパク質は朝食に】
ペットの食餌回数は1日2回が一般的と思われます。では朝と夕のどちらにより多くのタンパク質を与えると筋肉アップに有効でしょうか?高齢者の食事タイミングと筋肉量の関係を参考にこのテーマについて考えてみましょう。
朝食vs夕食
65歳以上の高齢者219人(男性69人、女性150人)を対象にして、食事で摂るタンパク質の量を元に2つにグループ分けしました。一方は朝食でのタンパク質摂取量が多い朝食グループ(朝食>夕食:76人)、もう一方は夕食の方に多い夕食グループ(朝食<夕食:143人)です。
両グループの骨格筋指数を比較したところ、全体219人としては朝食グループ(8.53)に対し夕食グループ(8.39)、さらに健康体145人に特定すると朝食グループ(8.35)夕食グループ(8.05)となりました。このように比較的体の筋肉量が多い高齢者は夕食よりも朝食でたくさんのタンパク質を摂っていることが判りました(Kimら 早稲田大学 2021年)。

タンパク質の摂取タイミング
上記の結果は統計としてみたものです。次は以下の実験を行い朝または夕にタンパク質を摂ってもらい、筋肉量の変化を調べました。
●対象者
朝食時のタンパク質摂取量が少ない高齢女性40人(平均69.5歳)
●グループ …プラセボとはタンパク質を含まない物資
A)朝食時にタンパク質を摂取
B) 〃 プラセボを摂取
C)夕食時にタンパク質を摂取
D) 〃 プラセボを摂取
●測定項目 試験開始前後の骨格筋指数
上記の設定で実験を行った結果、12週間後に約2%という高い骨格筋指数の増加を示したのはA)朝食時にタンパク質を摂るグループでした。朝と夕とで筋肉合成効果に違いが認められたわけですが、これは私たちの体の中にある体内時計というものによるものと考えられています。このように栄養摂取には効果的なタイミングがあるという「時間栄養学」が近年提唱されています。
今回の被験者の平均年齢69.5歳はイヌでは11~12歳に相当します。高齢ペットでも朝ごはんを肉や乳製品などのタンパク質をメインにすることで、筋肉の維持増加に期待ができそうです。

【食材は多様に】
筋肉をつけるには食事と運動が効果的とよくいわれます。しかし高齢ペットではどうしても運動量は低下してしまいます。では実際のところ、食事と運動とではどちらの方がより筋肉維持と関係が深いのでしょうか?
食事vs運動
一人暮らしをしている65歳以上の高齢者を対象にした調査報告です。単独で外出できないグループ116人と外出できるグループ1,100人に様々なインタビューを行い、食事回数と運動習慣についての回答を得ています(渡辺美鈴ら 大阪医科大学 2004年)。
まず食事回数が1日2回以下であると答えた人の割合を見ると、外出できない群(24.1%)、できる群(5.8%)となっていました。次に定期的に散歩をしていない人の割合は外出できない群(36.2%)、できる群(25.9%)、また定期的に軽い体操をしていない人の割合では外出できない群(44.0%)、できる群(30.3%)でした。
高齢者の筋肉維持には食事と定期的な運動が重要であることはよく判りましたが、両グループの割合の差に注目すると運動習慣よりも食事回数の方がより関連性が強い感があります。食事回数が少ないということは体に取り込む栄養量が少ないということですが、もう1つ摂取する食材種類も少ないということを意味します。

食事内容の多様性
少し前まで「健康のために1日30品目食べましょう」といわれていました。しかし実際にはそんなに食べられるものではなく、食材のバランスを重要視すべきという意味です。老人福祉センターを利用する高齢者394人(平均年齢72歳)の食の多様性と筋肉量の関係を調べた報告があります(谷本芳美 大阪医科大学 2005年)。
食事で摂っている食材を肉類・魚介類・野菜類など10のグループに分け、摂取頻度をポイント化しました。「ほぼ毎日食べる」を1ポイント、これを1週間分加算した結果を食材多様性として、3ポイント以下と4ポイント以上に区分しました。
多様性3ポイント以下の被験者の筋肉量を100として4ポイント以上の高齢者の相対値を求めたところ、男性は四肢筋肉量(104.3)全身筋肉量(103.8)、女性では四肢筋肉量(98.5)全身筋肉量(99.7)となりました。女性に比べて元々の筋肉量が多い高齢男性では摂取する食材種類が多様な方が筋肉量は維持されるといえます。

【タンパク質+炭水化物】
食の多様性とは難しい表現ですが、簡単にいうといろいろな種類の食材を食べましょうということです。多様な食材を摂るとは栄養素の偏りが少なくなることであり、加えて栄養素の組み合わせ効果が期待できることでもあります。
糖質の同時摂取
炭水化物(糖質)・タンパク質・脂肪の三大栄養素の内、筋肉づくりはタンパク質/アミノ酸が担当します。ここでタンパク質と一緒にもう1つ別の栄養素を摂取することで筋肉合成効果がさらにアップするという興味深い試験データを紹介しましょう(海外文献 1999年)。
健康な若年者25人(男性14人、女性11人:平均年齢29歳)を乳タンパク質のみ摂取するグループ、乳タンパク質とショ糖を同時摂取するグループ、乳タンパク質と乳脂肪を同時摂取するグループの3群に分けました。そして8時間の観察期間中の血液検査を実施しました。
タンパク質には窒素(N)が含まれています。血液検査の結果、この窒素の体内吸収量は3群すべてほぼ同値でしたが、体内で筋肉として利用される割合(窒素利用効率)を見ると、乳タンパク質+ショ糖同時摂取グループが84.7%と最も高い値でした。ショ糖すなわち糖質をタンパク質と同時に摂ると筋肉づくりが促進されるということです。

血糖値とインスリン
炭水化物(糖質)と脂肪は共に体内のエネルギー源ですが、この2つの栄養素の違いは何でしょう?それは血糖値の上昇作用です。血糖値は血中のブドウ糖濃度のことですから、ブドウ糖からできている炭水化物(糖質)は食後すぐに血糖値が上昇します。
3グループの食後60分後の血糖値を比較すると、ショ糖同時摂取群が最も高い値を示しています(タンパク質のみ群を100とした時、+ショ糖群160、+脂肪群104)。脂肪に比べて炭水化物(糖質)は食後すぐに血糖値を上昇させ、これに伴ってインスリンの分泌が始まります。実はこのインスリンが筋肉合成に深く関係しているのです。

ご飯を同時に食べる
インスリンは血糖値を下げるホルモンとして皆さんもよくご存知です。糖尿病患者は食後急激に上昇する血糖値を自力で元のレベルまでに戻すことができないためこのインスリンを注射します。すなわちインスリンは血糖値の上昇をモニターするホルモンともいえます。
ここでタンパク質が体内で利用されるルートを確認しましょう。「タンパク質(アミノ酸)=筋肉のもと」というのは間違いありませんが、もう1つ「エネルギー源」としての役割をもっています。エネルギーが不足すると細胞は死んでしまうため、体内では筋肉合成よりもエネルギー産生の方を優先します。この時のエネルギーの充足/不足の指標がインスリンです。
筋肉づくりとしてタンパク質ばかりを摂った場合、食後の血糖値は急上昇しません。すると体はエネルギーが足りていないと判断し、タンパク質の消化でできたアミノ酸はエネルギー源として使用されます。これに対し炭水化物(糖質・ブドウ糖)を同時に摂ると血糖値は上昇しインスリンが分泌されます。するとエネルギーは十分にあると判断されアミノ酸は筋肉合成に使用されるというわけです。
このように同じ量の肉・魚(=タンパク質)を摂ったとしても、同時にご飯など炭水化物を食べることで筋肉づくりはより効果的となります。食材が多様な食事ではタンパク質と炭水化物の組み合わせ頻度が高くなり、筋肉の維持に良い結果をもたらすと考えられます。

シニアや育ち盛りのペットには筋肉を付けさせてあげたいものです。本来イヌやネコは肉食動物だからといって肉ばかり与えるとか、野菜は与えないというのではなく、やはりいろいろな食材から成るフードが望ましいでしょう。
今回の研究報告からご飯に肉を使った手作りフードをトッピングするという朝ごはんメニューはペットの筋肉づくりに良い結果をもたらすと考えられます。今回はちょっとした工夫でできる筋肉アップ策の紹介でした。皆さんもぜひお試し下さい。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。































