獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「筋肉を応援する栄養素」

シニアペットのQOL(生活の質)向上のために筋肉の維持は大切です。加齢に伴い減少する筋肉を増やすためは材料となるタンパク質の摂取が大前提ですが、これ以外にも有用な栄養素があります。

【筋肉減少と心身虚弱】

近頃、運動機能の衰えに関するテーマでしばしば耳にする言葉に「フレイル」、またこれと似たものとして「サルコペニア」があります。まずはこれら2つのワードを整理しておきましょう。

サルコペニアとフレイル

サルコペニアとは加齢による筋肉/筋力の低下をいいます。その背景には食事量の減少による栄養不良や運動量の減少(関節痛、廃用性萎縮)、酸化ストレスなどがあるといわれます。

このサルコペニア(筋肉減少)を原因の1つとして心身が虚弱になった状態がフレイルです。身体機能の弱化に外部からの刺激の減少や認知機能の低下などを原因とする精神面の活力減退が加わったものです。ヒトと同様に高齢化が進んでいるペットにおいてもサルコペニアやフレイルは確認されます。

フレイルのモニター法

身体と精神の両面の活力が低下した状態がフレイルですが、高齢者のフレイルを評価するのは結構難しいようです。フレイルの背景にはサルコペニア(筋肉の減少)があることから、体の部位の筋肉量を指標とする方法が利用されています。

65歳以上の高齢女性75人(平均年齢77.3歳)をフレイルの進行度により3つのグループに分けて、上腕と下腿の筋肉周囲径との関連性を調べた報告があります(鎌田智英実ら 四国大学 2021年)。

被験者は健常群(17人)、フレイル前段階であるプレフレイル群(43人)、フレイル群(15人)のグループに分けられ、それぞれ体の筋肉量、上腕周囲の長さ、下腿周囲の長さの平均値が求められました。結果では筋肉量が健常群(32.5㎏)→プレフレイル群(30.6㎏)→フレイル群(30.2㎏)と進行に伴って減少していきました。

次に上腕と下腿の周囲の長さを測定すると上腕周囲径はグループ間の差がみられなかったのに対し、下肢周囲径は健常群(32.6cm)→プレフレイル群(31.6cm)→フレイル群(31.7cm)と減少が確認されました。これより下肢筋肉の周囲の長さはフレイルの簡易なモニター指標とされています。

フレイルの進行と不足栄養素

この調査ではフレイルの進行度と栄養摂取量との関係についても報告しています。最重要栄養素であるタンパク質は健常群(69.4g)→プレフレイル群(65.4g)→フレイル群(59.1g)と減少がありましたが、これを被験者の体重㎏あたりの摂取量でみると健常群(1.3g)→プレフレイル群(1.4g)→フレイル群(1.2g)と大きな差ではありませんでした。

これに対しフレイルの進行度に伴って大きく減少しているものがミネラルでは亜鉛、ビタミンではビタミンDとビオチン(ビタミンB群の1種)でした。高齢者の筋肉量減少にはタンパク質だけではなく、このようなミネラルやビタミンの摂取不足も関与していると考えられました。


 

【虚弱状態と亜鉛不足】

サルコペニア(筋肉の減少)やフレイル(心身の虚弱状態)の予防にはタンパク質のみならず、ビタミンやミネラルにも注意を払う必要があるようです。ここではその中で亜鉛に注目してみようと思います。

要介護とミネラルの関係

老人保健施設に入所する高齢者の血中ミネラル量を測定した報告です(小坂和江 美作大学 2016年)。施設で生活する高齢者を介護レベルで低グループ12人(要介護度1~3)と高グループ14人(要介護度4~5)に分け、血液中の銅・鉄・亜鉛濃度を比較しました。

結果として要介護度が低グループと高グループの間で有意な差が確認されたのは亜鉛のみで61㎍/dL→53㎍/dLと約13%も減少していました。

寝たきりとミネラルの関係

続いて寝たきりレベルについても低グループ16人と高グループ10人に分け、血中ミネラル濃度を比較したところすべてにおいて高グループでは低値となっていましたが、ここでも有意差が確認されたのは亜鉛のみ(59㎍/dL→52㎍/dL:約12%減少)でした。

また認知度レベルに関しても調べたところ、同様に亜鉛濃度のみで有意な減少(61㎍/dL→53㎍/dL:約13%減少)となりました。以上より高齢者の身体機能および脳機能の低下の背景にはミネラル、中でも亜鉛の摂取不足が大きく関与していることが判りました。

【筋肉痛とBCAA】

今回のテーマは筋肉を応援する栄養素です。最後に運動後の筋肉痛予防と栄養素との関係についての情報です。運動後は程度の差はあれ筋細胞/筋線維が損傷を受けています。これを修復するのはタンパク質・アミノ酸であり、中でも重要な役割を担っているのがBCAA(分岐鎖アミノ酸)です。

筋肉痛を和らげるBCAA

運動習慣のない健康な男女若者合計30人を被験者とした次のような試験が行われました(下村吉治ら 名古屋工業大学 2006年、2007年)。

●被験者 21~24歳の成人男女(男性14人、女性16人)
●グループ …それぞれ運動開始15分前に被験品を摂取
  対照群:プラセボ5g
  試験群:BCAA混合物5g
●運動テスト 20回のスクワットを7セット実施(合計140回)
●筋肉痛測定 1~5日後の座り動作時の痛みを測定

筋肉痛レベルは0(痛みなし)~10(非常に痛い)の10段階スコアで表し、運動後の日数経過の推移を両グループで比較しました。すると両群ともに運動後2~3日目をピークとしましたが、そのレベルはBCAA摂取した試験群の方がおよそ半分程度の軽度に抑えられていました。どうやらBCAAには筋肉痛を緩和する作用があるようです。

運動前 vs 運動後

20種類あるアミノ酸の内、筋肉合成に関与が深いバリン・ロイシン・イソロイシンの3つをまとめてBCAAと呼んでいます。これらアミノ酸に運動後の筋損傷を修復する働きがあるということですが、ではこのBCAAを摂る場合運動前と運動後のどちらの方がより効果的でしょうか?

上記試験の第2弾として運動習慣のない女子大学生12人を被験者とする実験が行われました。条件は若干異なり対照群はプラセボ5.5g、試験群はBCAA混合物5.5gを今度はスクワット運動直後に摂取し、そして同じように5日間の座り動作時の痛みをスコア評価してもらいました。

結果はこの条件下でもBCAA摂取群の方が軽度となりましたが、運動前後での摂取タイミングを比較するために対照群の筋肉痛スコア100としてそれぞれの試験群スコアを計算しました。すると運動開始15分前に摂取した方がより痛みの軽減効果が高いことが確認されました。

BCAAは筋肉合成を促進するアミノ酸であるだけでなく、傷ついた筋肉の修復サポート力もあり、加えてその効果は運動開始前に摂取する方がより顕著であるとことが判りました。

前回のコラムでは筋肉アップには朝にタンパク質を摂る方が効果的であるとお知らせしました。今回は運動後の筋肉修復には運動前にBCAA/タンパク質を摂取しておく方がダメージ回復に良いというデータでした。

ペットでは一般に食餌は1日2回ですので、筋肉維持・増強にはやはり朝ごはんをタンパク質メインとするメニューが適していると考えられます。市販のドライフードや手作りフードを上手に活用して、シニア/育ち盛りのペットの健康管理にお役立てください。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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