
5月に入りとても過ごしやすい季節になりました。梅雨入り前の貴重な一か月間ですのでペットと一緒にいつもの散歩や、近場への旅行を考えておられるオーナーも少なくないでしょう。しかし5月はヒトもペットも熱中症対策を始める時期でもあります。今回はペットの熱中症に深く関係する身体機能についての話です。
目次
【ペットの熱中症リスク】
熱中症の予防にはいつから発症リスクが高まるのか?を知っておくことが大切です。まずはペットの熱中症に関する統計データを確認しましょう。
増え始める月は?
熱中症といえば酷暑の7~8月がピークというイメージがあります。ではペットの熱中症が増え出すのは何月頃からでしょうか。アニコム損保の調査によると2024年の診療件数はイヌ1,453件、ネコ171件とのことです。
これを月別に集計すると予想どおりピークは7月(33%)と8月(24%)、9月(11%)に入り徐々に減少してゆくのですが、スタートは5月(8%)6月(12%)でここから急上昇します。すなわちペットの熱中症が動き出すのは過ごしやすいこれからの時期である5~6月ということになります。

増え始める年齢は?
次は熱中症を起こしやすい年齢についてです。このデータはイヌに関してのものですが、0歳~5歳までは0.05%~0.1%未満、6歳以降で0.1%を超え、11歳~12歳では0.15%近くまで上昇しています(アニコム損保 2021年リリース)。
ネコと比べてイヌは毎日散歩をするため、幼犬でも熱中症が見られますが、やはり年を取るにつれて発症率は上昇してゆきます。1つの注意目安として、いわゆるシニア期といわれる7歳くらいからイヌの熱中症が増加し始めると考えてよいでしょう。

【ペットの体温放出ルート】
夏場、ヒトは体温を下げるために大量の汗をかきます。このため熱中症予防にはこまめな水分補給が大切とされます。ではほとんど汗をかかないペットはどのように体から熱を逃がしているのでしょうか。
水分の出納内訳
私たちは1日平均2,500ml~3,000mlの水分を摂取しているといいます(夏場は3リットル以上摂っているでしょう)。通常体内の水分量は一定に保たれるため2,500mlの水分が入り、2,500mlの水分が出て行きます。この出入り(出納)の内訳を見てみましょう(環境省リーフレット「健康のため水を飲もう講座」)。
2,500mlの水分摂取量の内訳は食事から1,000ml、飲み水1,200ml、そして代謝水300mlとなっています。食事由来とはご飯やおかずに含まれる水分、代謝水とは摂取した栄養分から熱エネルギーを作る際に発生する水のことです。
体から外へ出る水分内訳は尿1,500ml、便100ml、汗600ml、そして呼気300mlです。水分排出の最も大きなルートが排尿であることはイメージ通りですが、意外なものとして呼気(吐き出す息)があります。体外排出量の約12%は呼気に含まれている水分ということです。夏場の私達は暖かい尿と汗、そして呼気を通して体の外へ熱を逃がしているのです。
ではペットの場合はどうでしょうか。体温調節を担当する汗を作る汗腺(エクリン腺)はペットでは肉球部分にしか分布していません。従って汗をかくことがほとんどできないため、排熱ルートは尿と呼気に限られます。夏場にイヌがハッハッハッと小刻みに呼吸(パンティング)をするのは、水分を含んだ呼気を吐き出すことで熱を逃がしている訳です。

加齢と腎臓・肺機能の関係
排尿と呼気はペットの体温調節役を担っており、この2つを担当する臓器が腎臓と肺です。先ほど7歳を過ぎたシニアペットは熱中症リスクが高まるというデータを紹介しましたが、背景には腎臓と肺の機能低下があるとも考えられます。
加齢に伴い身体機能が低下するのはヒトもペットも同じです。しかしその程度は臓器により違いがあります。30歳代のヒトの身体/生理機能を100とした時の高齢者の相対値を計算した報告があります(海外1959年:瀬尾芳輝 獨協大学 2017年紹介)
これによると神経伝導速度や基礎代謝率は80歳代でも80~90を維持していますが、心臓機能は70程度、そして腎臓と肺の機能はおよそ60まで大きく落ち込むとされています。これをそのままペットに当てはめるのは少々乱暴ですが、同様の傾向を示すのではないかと推察はできます。

【熱中症を招く腎機能低下】
夏場の排尿は体内にこもった熱を外に放出する働きがあります。汗による体温調節ができないペットでは尿量の減少は熱中症のリスクアップにつながります。
尿が減少する疾患
尿量が減少する病気はいろいろあります。ペットの泌尿器疾患の内訳を確認するとイヌもネコもトップは膀胱炎、そして慢性腎臓病(腎不全)、尿石症と続き、これら3つの疾患が全体の半分以上を占めています(アニコム損保 2020年調査)。
膀胱炎と尿石症は排尿時に痛みを伴うことから1回あたりの尿が少量になります。また慢性腎臓病(腎不全)の初期~中期では薄い尿が大量に出ますが、全体の流れとして尿の産生量は減少します。

血液から尿をつくる腎臓
ここで腎臓が尿を作るしくみを簡単におさらいしましょう。尿は血液からまず大ざっぱに不要なものをろ過し、再度必要なものを吸収することで出来上がります。これらを担当しているのが腎臓内の毛細血管であり、ろ過→再吸収→濃縮の3段階で尿は作られます。
これより血液ろ過量が多いほど尿量も多くなりますが、毛細血管壁が少しずつ硬くなるとろ過量は減少し、産生される尿も減ってゆきます。腎機能の低下=血液ろ過能力の低下=尿量の減少ということです。

ペットの腎不全発症
ペットではイヌよりもネコの方が腎臓病を患いやすいといいます。腎不全の発症年齢をみるとイヌは0歳~6歳まで0.5%以下、その後徐々に増加し9歳で1.0%を超え11歳で2.5%、12歳では4.5%超えという状況で年齢に伴い発症割合はアップしてゆきます。
対するネコは0歳~6歳までで0.5%~3%くらいと直線的に増加し、その後8歳で5%を超えて12歳では10%以上となっています(アニコム損保 2020年調査)。イヌもネコも加齢に伴い腎機能(=尿産生機能)が低下し、熱中症の発症リスクが高まるといえます。

ヒトの熱中症対策では発汗による水分喪失を補う意味からこまめな給水が基本となります。一方ペットは発汗による体温調整は期待できないため、尿と呼吸が大切な排熱ルートとなりますが、シニアペットではこの働きが低下します。
加齢による身体機能の低下はどうにもなりませんが、オーナーの皆さんとしては腎臓と肺がペットの熱中症予防に大きな役割を果たしていることを理解しておく必要はあるでしょう。夏場はいつも以上にペットの尿量と呼吸回数をしっかりとチェックしてあげて下さい。
(以上)
毎日おいしく水分補給
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夏のお出かけ、お散歩のお供におすすめ
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。































