
夏場のペットの弱点として発汗による体温調整ができないことがあります。このため熱中症を招く体内の熱を排尿と呼気の2つのルートで逃がしています。梅雨入り前で少し早い気がしますが、今回はペットの熱中症対策につながる呼吸力の強化方法を取り上げます。
目次
【呼吸筋力】
呼吸とは呼気(吐く息)と吸気(吸う息)を繰り返し行うことです。この呼吸は肺で行っていますが、肺は自ら膨らんだりしぼんだりすることはできません。体のある筋肉(呼吸筋)に助けられ肺は拡張/収縮しています。
加齢による呼吸筋力の弱化
前回イヌの熱中症リスクはシニア期に入る7歳頃から高まるというデータを紹介しました。この年齢は尿を作る腎臓の機能低下時期でもありますが、呼吸筋にとってもダメージは高まり始めます。
ヒトの年齢と呼吸筋力の関係を調査した報告があります(西村善博ら 神戸大学 1991年)。対象者は20歳代~70歳代の肺疾患を認めない成人116人 (男性57人, 女性59人)です。試験は最大努力で息を吐き出した際の口腔内の圧力をもって呼気筋力、最大努力で息を吸った時に口腔内で発生する陰圧を吸気筋力としました。
結果は20~30歳代→30~50歳代→50~70歳代と年齢が進むに伴って呼気筋力および吸気筋力は低下してゆきました。これをペットに当てはめて考えると、加齢→呼吸筋力の弱化→排熱作用の低下→熱中症リスクの上昇とつながります。

呼吸に関与する筋肉
実際に肺を動かしている筋肉を確認しましょう。肺はふわふわのスポンジ状をしていて気管/気管支につながりぶら下がった状態で胸腔内に収まっています。胸腔とは胸骨、左右12対の肋骨、横隔膜によって囲まれた空間です。
肺の運動で最も大きな役割を担っている筋は横隔膜です。この横隔膜が下方に下がると胸腔内は陰圧になるため肺は膨らみ空気を吸うこと(吸気)になります。逆に横隔膜が上方へ上がると胸腔内は陽圧になり肺はしぼんで息を吐くこと(呼気)になります。なお横隔膜は単なる膜ではなく、辺縁が強力な筋肉でできています。
この他に肺の拡張/収縮運動には肋骨と肋骨の間の筋(肋間筋)、腹筋、そして首を曲げる時の筋も関与しています。

【呼吸筋の強化方法】
呼吸力を高めるということは呼吸筋を強くするということです。慢性の呼吸器疾患で息切れする患者さんには呼吸筋強化訓練/呼吸リハビリが勧められています。ここでヒトの呼吸筋の強化訓練法を紹介します。
呼吸リハビリ
呼吸リハビリの代表的なものに「口すぼめ呼吸」というものがあります。これは鼻から息を吸って、その後頬っぺたを膨らまし口をすぼめて息を吐きます。これを繰り返すことで呼吸筋に負荷をかけて鍛えるというものです。
もう1つは皆さんもご存知の「腹式呼吸」です。腹筋に力を込めて意識的にお腹を大きく膨らまして息を吸い、大きくへこまして息を吐きます。これを繰り返すと横隔膜と腹筋が鍛えられます。

呼吸筋強化訓練の成果
呼吸筋強化訓練を行うと本当に呼吸は力強くなるのでしょうか?健康な男女大学生(平均年齢21歳)を対象に専用器具を使った呼吸筋強化の実験報告があります(秋吉史博ら 美原記念病院 2001年)。
被験者を対照群(10人)呼気筋訓練群(11人)吸気筋訓練群(11人)に分け、トレーニング器具を口にくわえて呼吸筋に負荷を加える訓練を1日15分間×2回×2週間実施しました。終了後に呼吸筋力を測定し訓練前の値を100とする相対値を求めました。
この訓練の結果、呼吸筋は20~40%も強化することが確認されました。加えて呼気筋・吸気筋を単独に訓練しても総合的に呼吸筋が強化されることも判りました。

頸部筋肉の意外な役割
横隔膜や腹筋が肺の拡張/収縮に関与していることは理解できました。もう1つここで頸部の筋肉と呼吸力との意外な関係を紹介しましょう。健常大学生男女合計62人(平均年齢19.9歳)を2グループに分け、一方は固定性の軽い頸椎装具カラー、もう一方は固定性の強いカラーを装着してもらい呼吸筋への影響を調べました(佐々木賢太郎ら 金城大学 2013年)。
呼吸筋力として肺活量と努力性肺活量を測定しました。肺活量は肺が最大限吸い込んだ空気をゆっくり吐き出す量、努力性肺活量とは最大限吸い込んだ空気を一気に吐き出す量をいいます。
頸部を固定する前の値を100とする相対値をみると肺活量、努力性肺活量ともに固定性の強いカラーを装着した群の方が大きく低下しました。頸部の運動制限は呼吸力を低下させるということであり、言い換えると頭の自由な動きは呼吸=排熱作用を応援することにつながっています。

【ペットの呼吸力強化策】
口をすぼめての呼吸や腹式呼吸が呼吸筋を強化することは判りましたが、これらの呼吸リハビリはペットには難しいものです。なんとかペットにもできる簡単な呼吸力強化策はないものでしょうか。
高齢者の運動習慣
(少々変な感じがありますが)ムリをせず本人の意志で訓練するという意味でペットとお年寄りは共通するところがあります。ここでお年寄りの軽い運動習慣の有無と呼吸力との関係性について確認しようと思います。
居宅高齢者を運動習慣あり群100人(平均年齢72.7歳)、なし群100人(72.8歳)に分け、両グループの呼吸力を比較した報告があります(堀江淳ら 神戸国際大学 2011年)。ここでいう運動習慣とは1日30分×週3日以上×6ヵ月以上継続できているという条件です。
呼気筋力と吸気筋力を測定し、運動習慣なし群のお年寄りの数値を100として習慣あり群の値を求めたところ、ともにおよそ10%高い結果となっていました。意識的な口すぼめ呼吸や腹式呼吸を行わなくても、高齢者は日頃の運動により呼吸筋が鍛えられるということになります。

軽い運動による呼吸力強化
では試験的にお年寄りに軽い運動を行ってもらい、実際どれくらい呼吸力がアップするのか調査したデータを見てみましょう(會田信子ら 東京女子医科大学 2007年)。
●被験者
養護老人ホームに入居する呼吸器疾患がない60歳以上の女性
●グループ
対照群(6人)
運動群 …週1回実施群(12人)、週2回実施群(11人)
●運動内容 …各10~15分間実施
1)手指の掌握、上半身の伸展・左右回旋、頸部の横屈
2)腕の挙上、肩関節の回旋、足踏み
3)イスからの立ち上がり、膝関節の屈曲・伸展
4)上記1)に準じた体操、手指をつかった遊び
試験では最大限息を吸った後、最初の1秒間に吐き出せる空気量の割合を測定し呼吸筋力としました。これは「1秒率」というもので呼吸のしにくさ指標とされています。試験実施前と実施8か月後の変化率を求めると、週1回および週2回の運動行うことでおよそ30%ものアップが認められました。
ペットの散歩と熱中症予防
上記の運動内容1)~4)は体への負荷が軽いものばかりです。そしてよく見ると上半身の伸び捻り、腕・脚・首の曲げ伸ばしというもので、これらはちょうど散歩中のペットの動作と同じであるといえます。
ペットは散歩をするだけで横隔膜・腹筋・頸部筋といった呼吸筋を鍛えていることになります。そしてしっかりとした呼吸を行うことが体内にたまった熱を逃がし、熱中症の予防につながると考えられます。

ペットとの散歩は1回30分程度を朝夕1日2回というのが一般的のようです。7月に入ると日中は25℃を超える日が多くなるため熱中症が心配になります。まだ涼しいこれから5~6月の間にムリのない散歩を楽しみながらペットの呼吸筋を鍛えて熱中症に備えましょう。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。





























