獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「ミネラル出納と熱中症予防」

ヒトと違い汗をかかないペットは呼吸と排尿で体内の熱を逃がしています。呼気(吐く息)は水蒸気として水分だけが出て行きますが、尿からは水分と一緒にミネラルも排泄されます。今回は尿中ミネラルの出入り(出納)に焦点を当てながら熱中症予防を考えます。

【体外へのミネラル排泄】

体内にミネラルが入るルートは飲食物、出るルートは汗、糞便、尿の3つです。この内、ペットには汗ルートはありませんので糞便と尿を経由してミネラルが排泄されます。まずはヒトのデータを元に糞便と尿から主にどのようなミネラルが出てゆくのかを確認しておきましょう。

糞便ルート

健康な男子大学生5人(平均年齢22.8歳)を被験者として、食事からの摂取量に対する糞尿中への排泄割合が調査されています(土田 満ら 東京医科歯科大学 1991年)。3日間の平均値をみると糞便中の排泄率が高いものはカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)でした。中でも亜鉛は摂取量の87.6%が糞便へ排泄され、尿への割合は7.1%しかありませんでした。

尿ルート

では主に尿へ排出されるものは何でしょうか?測定結果からナトリウム(Na)85.1%、カリウム(K)74.6%、リン(P)84.8%の3つが尿を通してたくさん排泄されていることが判ります。ミネラルはその種類によって糞便経由/尿経由というように排泄ルートが決まっているということです。

ペットの1日排尿量は体のサイズにより異なりますが、おおよそ小型犬100ml~中型犬300mlとされています。暑い日はたくさんの水を飲むため、もう少し尿量は増えるでしょう。これより夏場はフードから摂り入れたミネラル、中でもNa、K、Pがより多く排泄されていることになります。

【生活と尿排泄ミネラル】

いろいろな種類のミネラルが尿を通して体外へ排泄されています。ここでは毎日の生活や行動とミネラル排泄との関係を見てみましょう。

食事時間との関係

私たちは朝昼夕と1日3食摂っていますが、この食事時間帯と尿中の排泄ミネラル量との間には関係があるといいます。健康な女子大学生4人を被験者として、食後4時間後の尿中ミネラル量を調べた報告です(前田朝美ら 東北女子大学 2021年)。

対象ミネラルには骨の維持に関係するCa、Mg、Pが選ばれ、それぞれの朝食後の尿中排泄量を100として昼食後および夕食後の量を計算しました。するとCaは朝食~昼食~夕食で徐々に減少、Pは逆に増加、Mgに関して関連性はありませんでした。

ミネラル排泄には朝昼夕の食事メニューを考慮しなければなりませんが、体内時計と栄養代謝に着目する「時間栄養学」の考え方も採り入れる必要があるようです。

運動との関係

次は運動と尿量・尿中ミネラルとの関係です。健康な女子学生10人を対象に運動をする5日間(運動期)と運動をしない5日間(非運動期)を比較しました。運動内容はバスケットボールを1日1~1.5時間行うというものです(亀山(松岡)良子 静岡県立大学 2000年)。

非運動期の測定値を100として比較したところ、運動期の24時間平均尿量は約70まで減少していました。そしてミネラルではNa、Ca、Pが90~95程度であったに対してKはやや多くおよそ80に減少していました。

以上のように朝昼夕の1日3食後においても、また運動の有無といったことでも尿中に排泄されるミネラル量は敏感に影響を受けます。これがミネラル出納の「出」です。次は出納の「納(入)」を確認しましょう。

【ミネラルの出納】

尿と一緒に排泄されるミネラルの供給元は食事です。尿中ミネラルではナトリウム(Na)カリウム(K)、リン(P)が多くを占めていますが、これらを補給するためにはどのような食材を摂ることが適切なのでしょうか?

タンパク質の有用性

ペットの食餌のメイン食材は肉/タンパク質です。タンパク質を多く/少なく摂った時の尿中ミネラル量との関連性を調査した報告があります(前出:亀山(松岡))。

1日の摂取タンパク質量を標準(60g)、低タンパク質(30g)、高タンパク質(90g)に分け、尿中ミネラル量の変化を測定しました。標準量摂取の値を100とするとNa、K、Pは摂取量に合わせて減少・増加を示しました。対してCaには摂取量との関連は見られませんでした。

肉/タンパク質がミネラルの供給源というイメージはあまりありませんでしたが、尿中のNa、K、P排泄量にリンクしていることが推察される結果でした。肉はタンパク質の供給源であり、同時にミネラルの供給源としても有用な食材です。

摂取と尿排泄の相関性

ここでミネラルの食事摂取量と尿中排泄量の関係を詳しく計算したデータ:相関係数を見てみましょう。相関係数とは2つの事象の関連性を数値で表したもので、1に近いほど関連性が高いことを意味します。

尿中への排泄割合が高い3つのミネラルの内、NaとKがそれぞれ0.974、0.891となり、摂取量と排泄量との間に高い相関性が認められました。すなわちナトリウムとカリウムは食事でたくさん摂るとその分たくさん尿に出てゆくということになります。腎臓機能が正常ならば、ある程度大量に摂取しても過剰分は尿を通して排泄されるということです。

尿中ミネラルの供給源

最後に尿中に排泄される3つのミネラルと供給源となる食品との関連性を確認しておきましょう。27~84歳の女性219人を被験者として摂取した食品との相関係数を調べたところナトリウム(Na)は菓子類と麺類・調味料、カリウム(K)は緑黄色野菜と乳製品、リン(P)は肉類において高い相関性が示されました(君羅 満ら 東京農業大学 2004年)。

この結果をペットの食餌に当てはめると、お肉と野菜をスープで煮込んだ手作りフード、おやつではクッキーやチーズなどが尿中ミネラルの補給に適切と考えられます。

ヒトの熱中症予防では「のどの渇きを感じる前に水分補給をしましょう」といわれます。この時、緑茶/麦茶やスポーツドリンクが同時にミネラルも補給できるということで推奨されています。しかしお茶はカフェイン、スポーツドリンクは糖分が多かったり、キシリトールが含まれているものがあるためペットに与えるのは控えるべきです。

また汗からのミネラル排泄がないペットでは、単に水を飲むだけでも支障はないとされています。尿を通して排泄されるミネラルの補給は毎日の食事、特に夏場はお肉と野菜とスープで作った手作りフードで対応可能と考えられます。この夏もペットの熱中症に備えましょう。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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