獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「ペットの睡眠と健康」

カレンダーでは夏には少し早い6月ですが、日中は各地で25℃超えの夏日が報告されています。夜中が寝苦しいということはまだなく、皆さんしっかり熟睡されていることと思います。そこで今回は動物の睡眠と健康との関連性についての疫学調査結果を紹介します。

【ペットの眠り】

皆さんは毎日何時間ほど寝ていますか?よく「人生の1/3は眠っています」といわれるように平均的な睡眠時間は8時間ですが、もう少し短いという方も多いでしょう。

平均睡眠時間

各種動物の1日平均睡眠時間が報告されています(海外文献 1984年:井上昌次郎 東京医科歯科大学 2002年紹介)。これによるとカエル14.6時間、ハヤブサ4~5時間、クジラ5.2時間、このコラムでもおなじみのラットは13時間とのことで動物の種類により長短さまざまです。

私たちのペットはというとイヌ12.9時間、ネコ13.2時間とされており13時間前後というところです。これはあくまでも研究としての観察結果であり家庭で暮らすペットでは12~15時間、およそ1日の半分は寝ているのではないでしょうか。

そしてヒトでは約8時間、国別の平均睡眠時間は日本で約7.7時間、米国は1時間ほど長く約8.8時間とされています(厚生労働省)。世界的にも日本人の睡眠時間は短いことが知られています。

体の眠りと脳の眠り

この毎日の眠りですが、実は2種類あることをご存知でしょうか。1つは体を休める眠り:レム睡眠、もう1つは脳を休める眠り:ノンレム睡眠です。前者のレム睡眠中では体は休んでいますが脳は起きている状態、後者のノンレム睡眠中は体も脳も眠っている状態です。

見た目には同じように眠っていますが、レム睡眠中の脳は活動しているため、血流量は多くエネルギー源であるブドウ糖の代謝も活発です。そして自律神経では興奮状態を示す交感神経が作動しています。体のあらゆる部位の司令塔である脳が休んでいるのはノンレム睡眠中ということになります。

【レム睡眠とノンレム睡眠】

睡眠には2種類あることが判りました。ここでは脳は起きているレム睡眠と脳も眠っているノンレム睡眠についてヒトとペットの違いを確認しましょう。

睡眠単位

動物が寝ている間、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に現れる/消えるという周期が何度も繰り返されています(入眠後にまず現れるのはノンレム睡眠です)。そしてこのレム睡眠+ノンレム睡眠の1サイクル時間を睡眠単位とよんでいます。

前出の報告(海外文献 1984年)によるとイヌの睡眠単位は45分間、ネコは50~113分間とのことです。私たちヒトの睡眠単位は90~120分間とされており、この周期に合わせて起きるとすっきりとした目覚めが得られるといいます。ペットの寝起きの良し悪しもこの睡眠単位と関係があるのかもしれません。

2種類の睡眠の比率

睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠が交互に何度も現れます。では1回の睡眠において、それぞれの合計時間の比率はどのようになっているでしょうか?ヒトではレム睡眠25%:ノンレム睡眠75%とされています。ノンレム睡眠の比率が高いということで、睡眠中は体も脳も休息して一日の疲れを癒しています。

対してイヌはレム睡眠80%:ノンレム睡眠20%と逆転しているといいます。すなわち睡眠中も脳は起きている状態が長いということです。ペットは現在でこそ家庭内で安心して暮らしていますが、元々は野生動物として生きていました。睡眠中は敵から襲われるリスクが高いことから、脳が休息する時間は短かったと考えられます(静岡県獣医師会 令和7年)。

ペットが寝ている姿を観察すると耳がピクピクと動いたり、急に起きて周囲の様子を伺い再び眠るという場面があります。これらは野生動物時代の名残りで、脳はしっかり起きているレム睡眠中であると思われます。

【睡眠時間と健康の関連性】

睡眠は体と脳を休息させる大切な時間です。これより睡眠時間は短いよりも長い方が健康に良いというイメージがありますが、これは本当でしょうか?ヒトの睡眠時間と各種健康状態との関係を調べた興味深いデータがありますので紹介しましょう。

健康寿命

「健康寿命を延ばしましょう!」というフレーズをテレビでよく聞きます。健康寿命とは介護を受けず自力で生活できる期間のことですが、お年寄りの睡眠時間とその後の健康寿命の長さを調査した報告があります(陸ら 東北大学 2016年)。

●対象者 調査開始時65歳以上の高齢者14,439人
●グループ 睡眠時間6時間以下、7時間、8時間、9時間以上
●調査内容 健常寿命の年数

男女各々の健康寿命は男性19~20年、女性22~24年と女性の方が長い傾向がありますが、睡眠時間との関係を見ると男女共に長くなるにつれて逆に健康寿命は短くなっていくことが判ります。

調査結果を元に計算を行い65歳時点で最も長い健康寿命(男性21.0年、女性24.1年)を示したのは睡眠時間7時間グループでした。すなわち高齢者の場合、睡眠時間は短くても長くても健康寿命は短縮されてしまうということです。

疾病による死亡率

次は睡眠時間と疾病死亡率との関係です。40歳~79歳までの合計98,634人(男性41,489人、女性57,145人)を対象とし、心血管疾患とがんを原因とする死亡率との関連性が調査されました(池原聰代ら 大阪大学 2009年)。睡眠時間4時間以下から10時間以上の7グループに分け、7時間の関連度を1として比較しました。

心血管疾患による死亡率との関連性をみると、男女共に7時間よりも睡眠時間が長くなるほど値は高くなり、10時間以上では1.56と最高値でした。心不全、狭心症、脳梗塞などの心血管疾患に関しては、睡眠時間の長さと死亡率には関連性がありました。一方、がん死亡率に関しては男女共に関連性は認められませんでした。

最も安心な睡眠時間

この報告では心血管疾患・がん以外の疾患死亡率との関連性についても調査されています。先程と同様に睡眠時間7時間との関連度を1として比較したところ、4時間以下では男性1.49、女性1.47、10時間以上では男性1.66、女性1.99となりました。

以上よりがんを除く疾患において睡眠時間は短くても長くても死亡率との関連性は高くなり、7時間が最も安心な睡眠時間であるといえます。

動物にはそれぞれ標準的な睡眠時間があります。そしてその睡眠時間は健康と浅からぬ関係があり、必ずしも長ければ健康状態良好というものではありません。これは睡眠中に分泌されるホルモンが関与しているためです。

私たちヒトとペットでは眠りの質と内容(レム睡眠/ノンレム睡眠の比率)が異なること踏まえて、これから正しい睡眠をとるように心掛けましょう。

(以上)

たっぷりの中綿でふかふかヒンヤリ


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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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