獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「睡眠時間と肥満・メタボ」

前回は、睡眠時間といろいろな病気の死亡率との関連性について述べました。ヒトの平均睡眠時間を7~8時間とした場合、心血管疾患/心血管疾患以外共にこれより短くても長くても死亡リスクは高くなるという調査結果でした。今回は睡眠時間と肥満・メタボリックシンドロームとの関係性を確認します。

【寿命と生活習慣】

昔、成人病とよばれていた生活習慣病はメタボリックシンドローム(以下メタボ)をベースとしています。メタボとは内臓脂肪の過剰な蓄積が高血圧・高血糖・脂質代謝異常などを招き、生活習慣病を発症しやすい状態をいいます。

注意すべき7つの生活習慣

寿命を短くする7つの生活習慣というものがあります(海外文献 1972年:横山裕一ら 慶応義塾大学 2009年紹介)。具体的には次の7項目です。①肥満である ②間食(おやつ)を摂る ③朝食を摂らない ④運動をしない ⑤喫煙をする ⑥過剰な飲酒をする ⑦睡眠時間が7~8時間ではない

この中で私たちのペットにも当てはまるものは「肥満」と「睡眠時間」の2つではないでしょうか。ペット/イヌ・ネコの平均睡眠時間をおおよそ13時間とすると、これより短くても長くても寿命が短くなってしまうかもしれません。

睡眠時間とメタボ

前回お年寄りの睡眠時間と健康寿命の関係(結果は男性女性共に7時間睡眠が最も長い)を紹介しましたが、ここでメタボとの関連性の調査報告を見てみましょう(横山ら2009年)。

40~65歳の男性755人を睡眠時間により6時間未満、6時間台、7時間台、8時間台、9時間以上の5つのグループに分けました。そして各種健康診断を行い、総合的にメタボと判定された人の割合を求めたところ、陽性率が最も低かったのは7時間睡眠(6.6%)、最も高かったのは9時間以上睡眠(33.3%)でした。

全体をみると6時間未満~7時間~9時間以上とU字カーブを示す結果となり、先に紹介した「7つの生活習慣」にあるように睡眠時間は7~8時間より短くても長くても健康状態は赤信号となることが判ります。

【長い睡眠時間】

メタボリックシンドロームの診断項目には腹囲径、脂質代謝(中性脂肪、コレステロール)、糖代謝(血糖値)、血圧などがあります。ここでは少し詳しくこれら測定項目と睡眠時間との関係を確認しましょう。

腹囲径との関係

メタボ診断基準の1つである腹囲径はおへその高さで測定され、男性85cm以上、女性90cm以上と規定されています。調査結果では睡眠時間6時間未満グループの平均値は約85cmと基準値ぎりぎり、6時間~7時間では低下し、8時間グループが約79cmでした。これらに対し9時間以上グループの平均腹囲径は90cmを超えていました。

内臓脂肪は睡眠時間が短いと付着しやすく、一方長い場合では急激に蓄積量が増加することが判ります。これには食欲アップ(睡眠不足)や運動不足(睡眠過多)が関与していると考えられます。

中性脂肪との関係

次は血液中に溶け込んだ脂肪=中性脂肪の測定値です。一般にヒトでは150mg/dlを超えると脂質異常とされますが、睡眠時間との関係をみると6時間未満~8時間グループまで大きな差は見られず100~120mg/dlの範囲でした。

しかし9時間以上グループではこれがおよそ230mg/dlという大変高い値を示していました。ここでは長い睡眠は脂質異常を招くという結果になりました。

最高血圧との関係

中性脂肪値が高い状態を放置すると動脈硬化、そして高血圧を招きます。血圧には最高血圧と最低血圧があり、前者は心臓が収縮して全身に血液が勢いよく送り出された時の血圧をいいます。

睡眠時間と最高血圧の関係を見ると6時間未満でやや高く、7時間で最も低くなっており、そして9時間以上グループではおよそ145mmHgと一気に高い状態となりました。長い睡眠時間では中性脂肪値が高くなり、これが平時の高血圧につながると考えられます。

血圧とは血液が血管壁を内側から押す力のことです。高血圧は全身の動脈に負荷を与え、中でも毛細血管の分布が密な脳や腎臓は大きなダメージを受けます。長い睡眠時間→脂質代謝異常→高血圧→腎不全という負のつながりが懸念されます。

【メタボとアディポネクチン】

メタボリックシンドロームは私たちヒトと一緒に暮らすペットにも広がりつつあります。ここではメタボ状態のヒトとペットに共通するあるホルモンについてお知らせします。

睡眠時間とアディポネクチン

「アディポネクチン」という聞きなれない物質があります。この物質の血中濃度と睡眠時間との関係が調べられています。調査対象者全体の平均アディポネクチン値は3.0mg/mlでした。これを睡眠時間グループでみると6時間未満~8時間台では2.5~3.5の範囲内に収まっていましたが、9時間以上グループのみ大幅に低下し約1.5mg/mlという結果でした。

アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるタンパク質で血糖値の調整や動脈硬化を予防する作用があり、「健康ホルモン」とか「長寿ホルモン」などとよばれています。また内臓脂肪の増加に伴い分泌量は減少するとされ、長い睡眠時間→内臓脂肪増加→アディポネクチン値低下→不健康短命とつながる心配があります。

ペットのメタボ状況

ヒトの診断結果を見てきましたが、ここで肥満ペットの検査数値を確認しましょう。ミニチュアダックスフンドを標準体型群(3頭)と肥満群(6頭)に分けてメタボ検査が行われました(李格賓 日本獣医生命科学大学 2014年)。

平均体重は標準群5.1㎏、肥満群5.9㎏と肥満群の方がやや多い結果でした。加えてヒトのメタボ検査で実施される腹囲径に該当する骨盤周囲長が測定されました。この数値は標準群が28.0cmにあったのに対し肥満群は33.3cmと大幅にアップしていました。

また血中の中性脂肪値は標準群32.0mg/dlに対し肥満群76.67mg/dlとこれも大きく増加していました。このようにヒトと同様、メタボ条件を満たすペットが増加しています。

ペットの健康長寿ホルモン

先ほど肥満/メタボのヒトは睡眠時間が長く、アディポネクチン値が低下しているというデータを紹介しました。では肥満ペットではどうでしょうか。前出のミニチュアダックスフンドのアディポネクチン値は標準群に対して肥満群は約40%、またネコの調査では肥満群は約70%まで低減していました。

これらの調査ではペットの睡眠時間との関係は示されていませんが、肥満/メタボの背景に平均時間以上の睡眠があることから、ペットにおいても睡眠過多→内臓脂肪増加→アディポネクチン値低下→不健康短命という流れが懸念されます。

健康維持に睡眠は大切です。しかし今回長すぎる睡眠は肥満/メタボリックシンドロームの背景となり、逆に健康長寿ホルモン(アディポネクチン)の分泌量を下げてしまうことが判りました。

多くの研究によりヒトでは平均睡眠時間(7~8時間)が最も健康に貢献すると報告されています。これをペットに当てはめるとイヌ・ネコ共に13時間前後がベストの睡眠時間と考えられます。この夏、皆さんのペットが快適で最良の眠りがとれるよう工夫してあげましょう。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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