
オーナーの皆さんにとってペットの食欲の有無は大変気になるものです。特に病気やけがをしている訳ではないのに、なぜか今朝は食べない/いつもよりあまり食べない様子、といった経験はありませんか?今回はヒトの試験データからペットの目覚めと食欲の関係を考えます。
目次
【食欲とホルモン】
1日3回いつもの時間なればお腹が空き食事を摂りますが、実はそう単純なものでもありません。食欲はいくつかのホルモンによってコントロールされているのです。
食欲調整ホルモン
まず食欲を促進させるホルモンを確認しましょう。近年研究が進んでいるのがグレリンという胃から分泌されるホルモン、そしてもう1つコルチゾールというホルモンがあります。
コルチゾールは体がストレスを受けた時に副腎から分泌されるものでストレスホルモンともよばれています。コルチゾールは採血せずに唾液を使っても分泌量が測定できるため実験でよく採用されます。
対して食欲にブレーキをかけるものとしてレプチン、インスリン、エストロゲンなどがあります。エストロゲンは卵巣で産生される性ホルモンですが、避妊処置をしたペットは肥満になりやすいというのはこれによるものでしょう(川野 仁 東京都神経科学総合研究所 2010年)。

ストレスホルモンと食欲
ここでコルチゾールについて考えてみようと思います。コルチゾールは体がストレスを受けた時に産生分泌されるホルモンです。喧嘩や興奮、病気・ケガなどでの激しい痛みを感じた時は強いストレスを受けています。また普通に生活していても音や光、他人との接触などで私たちは軽いストレスを感じています。
先ほどストレスホルモン/コルチゾールは食欲を亢進する働きがあると紹介しましたが、これは後者の軽いストレスの場合です。前者のような強いストレスを感じた時には自律神経の交感神経が作動するため、一時的に食欲は抑えられます。
私たちと生活を共にしているペットも同様に様々なストレスを感じています。そして分泌されるコルチゾールにより食欲も亢進または抑制という影響を受けていると考えられます。

【コルチゾールと食欲】
日常生活で分泌されるコルチゾールの動きを確認しましょう。コルチゾールは食欲を促す作用があるということから、1日そして1年でいつ食欲が旺盛になるかということとつながりが見えるかもしれません。
1日の変動
老人ホームで自立生活をする高齢者18人(平均年齢79.0歳)を被験者として、唾液コルチゾール量の1日の変動を調査した報告があります(兎澤惠子 桜美林大学 2013年)。これによると朝→昼→夕→夜とコルチゾール値は減少するという日内変動が確認されました。
この結果を食欲亢進作用にリンクさせると、平穏な生活を送っている高齢者では1日の内で起床後の朝に最も食欲を感じるということになります。

1年の変動
では年間の変動を季節で分けて見てみるとどうなるでしょう。春(4~6月)、夏(7~9月)、秋(10~11月)、冬(12~2月)の平均コルチゾール値は最も高いのが秋、最も低いのは夏という結果になりました。
「食欲の秋」という言葉があります。夏が終わって少し涼しくなり、野菜・果物・きのこなど美味しい食材が出回る秋は食欲がアップしますが、これにはコルチゾールの増加も少なからず関係しているのかもしれません。

【日中活動と朝の食欲】
昨夜はさほどたくさん食べていないのに翌朝あまり食欲がない、また逆に今朝はとてもお腹が空いていると感じる日があります。食事メニューとは別に朝の食欲には前日の活動量が関係している可能性があります。
目覚め後のコルチゾール量
1日の中で朝が最もコルチゾール値が高いことを確認しました。これは目覚めた後は少なからずストレススイッチが入ることを表しています。では昼寝からの目覚めの場合はどうでしょうか。乳幼児15人(平均年齢3.4歳)の起床後コルチゾール値を昼寝と夜寝で比較した面白いデータがあります(大平雅子 滋賀大学 2018年)。
起床直後、15分後、30分後と細かく調べた結果、夜寝から目覚めた時は少しずつ上昇し30分後が最も高い値を示しました。対して昼寝では目覚め後の時間経過に関係なくほぼ一定で、夜寝の1/2~1/3しかありませんでした。
ペットの睡眠時間は13時間くらいで、日中はよく昼寝をしているとすると、夕方~夜よりも朝目覚めて30分ほど経過した時の方が食欲は高いと考えられます。

日中活動と朝のコルチゾール量
あくまでも体内のコルチゾール値から考えると、1日の内で最も食欲旺盛なのは朝眠りから覚めて30分後くらいということになります。加えてこれには前日の活動量が関係しています。
乳幼児を対象とした調査の続きです。毎日の日中活動量が少ない群と多い群に分け、翌朝起床後の唾液コルチゾール値を測定しました。両群とも起床直後→15分後→30分後と増加傾向を示しましたが、そのレベルは低活動群の方がやや高い結果となりました。
毎日の活動としては軽めの運動を行っている方が翌朝のコルチゾール値が高く、これより朝食時の食欲も高くなると推察されます。

朝の食欲アップ策
最後に実際に軽めの運動した場合、朝の食欲がアップするのかという試験成績を見てみましょう。被験者は日頃運動習慣のない女子大学生で、1週間毎日20分間の運動を行ってもらいました。その内容は有酸素運動と体幹部の筋肉運動を組み合わせたダンスです(前田朝美ら 東北女子大学 2012年)。
被験者の朝の食欲を指数化してもらい、良好なグループ(食欲良好群)と食欲が弱いグループ(食欲不良群)に分けました。運動実施前を100として実施後の相対値を計算したところ、良好群ではほぼ変化はありませんでしたが、不良群は約130と大きくアップしました。
この試験で実施された有酸素運動とは呼吸をしながら行う程度のもので軽めのランニングのようなものです(無酸素運動とは全速力ダッシュのようなハードな運動です)。また体幹部の筋肉運動は体を前後左右に軽くひねる動きのものです。これらはちょうど四足歩行を行うペットにとっての散歩にあたります。毎日の散歩はオーナーとペットの翌朝の食欲アップに貢献すると考えられます。

ストレスと聞くと心身に悪いものというイメージがあります。これは間違いではありませんが、ペットを含め私たちは毎日普通の生活を送っていても何かしらストレスを感じています。実はこの軽いストレスが起床後の食欲を応援しています。
皆さんのペットが朝ごはんをあまり食べない様子を見せた時、近頃散歩に連れて行っていない、逆に昨日ハードな運動を行ったなどが関係しているかもしれません。なお、食欲低下は病気のサインでもありますので、異常を感じた場合は躊躇なくかかりつけの動物病院へ相談しましょう。
(以上)
中綿たっぷりふかふかの寝心地

愛犬用ベッド COOL麻混無地スクエアベッドの購入はこちらから
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。





























