獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「暑熱疲労と酸化ストレス」

7月に入り一気に夏が始まりました。年を追うごとに最低気温/最高気温が高くなり、私たちヒトもペットも暑さによる疲れが出てきます。今回はペットの暑熱疲労について考えます。

【疲労と活性酸素】

日本疲労学会では疲労を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」と定義しています。少し難しそうですが大切なのは後半部の「身体の活動能力の減退状態」です。これには皆さんもよくご存知の活性酸素が絡んでいます。

いろいろな疲労

一口に「疲れ」といってもいろいろな種類があります。まずは疲れ/疲労を原因により分類してみましょう。まずは最も判りやすい「肉体的疲労」です。これは力仕事やマラソンなどのハードなスポーツに因るものです。

次に人間関係によるストレスなどの「精神的疲労」、そして「環境的疲労」があります。環境的疲労の背景には気温や湿度があり、これからの季節では高温多湿による暑熱疲労に注意が必要です。以上疲労を大きく3つに分類しましたが、ペットも同様にいろいろな疲れを感じているはずです。

活性酸素の発生

汗をかかないペットは暑熱疲労を感じた場合、パンティングで体温調整を行っています。夏場いつもより呼吸回数が増えるペットの体内では、活性酸素の発生アップという現象が起きています。

呼吸によって体内に取り込まれた酸素はエネルギー産生に使用されます。この時、酸素の1~5%は活性酸素というものに変化し、臓器や細胞の蛋白質・脂質・核酸(DNA)を酸化攻撃します。結果として細胞死・生活習慣病・老化の進行といったダメージを受けることになります。

抗酸化酵素の働き

呼吸をするたびに体内では活性酸素が発生します。これでは健康が脅かされてしまうため、大切な臓器や細胞を活性酸素から守る抗酸化酵素や抗酸化物質が活躍しています。

抗酸化酵素とは活性酸素を叩くものでグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)やカタラーゼといったものがあります。GPXは活性酸素の1つである過酸化水素を水に、カタラーゼは水と酸素に分解する酵素です。抗酸化物質は野菜や果物に含まれるビタミンB・C・Eやポリフェノールなどです。

【酸化ストレス】

ペットが激しい運動をしたり、夏場にパンティングを行うとたくさんの酸素が消費され、その結果大量の活性酸素が生まれます。活性酸素の生成量が抗酸化力を上回った状態を「酸化ストレス」とよびます。そしてこの酸化ストレスはいろいろな疲労において発生します。

慢性の疲労

慢性疲労症候群という病気があります。これはいつも疲労感があり、休養をとってもこの状態が長期間続く状態をいいます。健常者(312人)、慢性疲労症候群患者(303人)、コンピューター関連の仕事に従事する産業疲労モデル者(24人)を対象に、酸化ストレスレベルと抗酸化力を測定した報告があります(野島順三 山口大学 2011年)。

3グループの酸化ストレス値は健常者→慢性疲労症候群患者→産業疲労者の順で高くなっており、対する抗酸化力値は健常者よりも慢性疲労症候群患者、産業疲労者の方が低い結果となりました。慢性的に疲労を感じている日常生活においては、抗酸化力が低下した酸化ストレス状態に陥っていることが判ります。

一過性の精神疲労

同じ疲労でも一過性の精神疲労ではどうでしょうか?延べ24人のモニターにコンピューターを使った1桁の足し算計算というイライラする作業を3時間実施してもらいました。

この実験でも作業負荷前後で酸化ストレス値は増加しましたが、抗酸化値もアップするという結果になりました。慢性疲労と比べて一過性の精神疲労では、体は抗酸化力を上昇させて疲労を少しでも軽減するように反応しているということです。

【暑熱疲労によるダメージ】

最高気温が25℃以上の日を夏日、30℃以上を真夏日、そして35℃以上の日を猛暑日といいます。もうすっかり猛暑日と聞いても驚かなくなってしまいしたが、この気温/室温35℃で生活するという暑熱疲労下で体の中ではどのようなダメージが起きているのかを見てみましょう。

酸化ストレスの亢進

室温25℃と35℃で飼育したラットの肝臓でどのような酸化ストレスが発生しているかを調べた報告があります(浅沼信治ら ㈶日本農村医学研究所 2009年)。活性酸素は臓器や細胞を酸化攻撃します。この中で肝細胞内の脂質が酸化された量を測定しました。

35℃飼育群ラットの脂質過酸化物生成量を25℃飼育群と比較したところ、飼育日数の経過に伴い3.5~4.3倍にもなっていました。室温35℃という暑熱環境下において重要臓器である肝臓は、酸化ストレスにより大きなダメージを受けていることが判ります。

抗酸化酵素の活性減少

臓器や細胞を攻撃する活性酸素ですが、体内にはこれを抑え込む抗酸化酵素というものが存在します。その代表にグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)とカタラーゼがあります。では動物の年齢/老化が抗酸化酵素の活性に及ぼす影響を確認しましょう。

7週齢、52週齢、100週齢のラットを室温25℃および35℃で3~7日間飼育しました。35℃飼育ラットの肝細胞に含まれる抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)の活性を調べ25℃飼育と比較したところ、100週齢ラットにおいてやや低下が認められました。

もう1つの大切な抗酸化酵素であるカタラーゼの活性も確認しましょう。こちらは25℃飼育と比較すると、7週齢ラットは約0.94倍、52週齢は約0.66倍、100週齢では約0.67倍と活性の低下が顕著でした。

ラットの平均寿命は2~3年(約100~150週)とされていますので、52週齢や100週齢はヒトでの壮年期~高齢期に相当します。暑熱下での生活は高齢動物ほど抗酸化酵素の活性を低下させ、酸化ストレスによる健康被害を招くことになります。

私たち動物は酸素を取り込みエネルギーを産生しています。この呼吸の副産物として活性酸素という厄介なものが生まれます。気温が高い夏場にパンティングで体温調整を行うペットはこの活性酸素から大きな被害を受けています。これが酸化ストレスによる暑熱疲労です。

ペット、特に高齢ペットの暑熱疲労を軽減するためには適切な室温設定や水分補給が大切ですが、フードによる抗酸化力の強化も考える必要があります。次回は手作りフードでお馴染みの食材を活用した酸化ストレス対策についてお知らせします。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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