【連載】楽しい道草

【連載第5回】儲ける気はなかったけれど~楽しい道草~

「帝塚山ハウンドカム」開店

海外の最新音楽をレンタルレコード・CD店で扱えないことが決定的になったため、川瀬社長は商売への情熱を失います。1989年に「回盤堂」を閉店し、愛犬のアフガンハウンドのメス「Lee(リー)」ちゃんと、一日中、一緒にいられる「帝塚山ハウンドカム」を始めたのです。

大阪・帝塚山の「回盤堂」1号店を改装した約10坪(33平方メートル)のスペースで、第3の社会人生活をスタートさせた川瀬社長は…。

「ほとんどペット業界の勉強もせずに全くの素人で、トリミング主体の店として始めました。楽しかったですよ。毎日、仕事場でも心置きなくLeeと一緒にいられますし、お客さんと一日中、犬談義ができましたしね。儲けようとは思ってなかったとはいえ、商品にはこだわりました。お客さんのニーズを探りながら、個性的で他店にはないものを揃えようと考えましたね。当時のペット用品は利便性が優先でしたし、大阪にはファッション性やデザインに着目して品揃えをする店は、ほとんどありませんでしたが、僕としては“ダサい”ものは置きたくなかったんです」

ところが、今のようにインターネットで調べて手軽に世界中の商品を探せる時代ではありません。

「ASHU」ブランド誕生

「大阪では、あまり納得できる商品を見つけることができませんでしたから、よく東京に行きました。展示会に足を運んだり、二子玉川(世田谷区)などの、おしゃれなペットショップを回ったりしてね。一生懸命でした。とはいえ、まだまだ商売のための商品発掘という意識はなくて、楽しんでやってましたし、細々とでしたが、『将来もこれでええわ』という思いでした。今から考えれば大した額ではなかったんですけど、レンタルレコードで儲けた気分になっていて、お金を貯める気もなかったんです。『僕自身に月20万円の取り分があったら、それでええわ』という感じで始めた商売でした。実際に、その目標に届くまでにも2~3年かかったんですけどね。平気でした」

ところが、創業から7年くらい過ぎたころに、そんな方針が変わる転機がやってきます。

「レンタルレコードを始めた縁で、深く考えず同じ場所で『ハウンドカム』を始めました。でも、あとになって知人たちからも『そら、あの場所でペットの店を始めたら、ええ(良い)お客さんが付くわぁ』って言われました。帝塚山は大阪市内では高級住宅街で、こだわりのある方がけっこういるんです。そんなこともあって、お陰さまで、お客さんがすぐに付いてくれましたね。そうこうしているうちに、既製の商品では満足できなくってきた常連さんから、他にはないオリジナルの商品がほしいという要望が出るようになってきたんです」

それに応えて最初に作ったのが首輪とリードが一体になった犬の散歩用ツイストコンビ。これが現在も続く「ハウンドカム」のオリジナルブランド「ASHU(アッシュ)」の商品第1号でした。

商売根性に火が付いた

「もちろんひとつだけ作るというわけにいきませんから、首輪とリード、サイズの組み合わせで十数種類の商品になりました。当時はまだ個人事業だったので僕の貯金から2000万円くらいを出して製作費に充てましたが、マーケットは自分の店の界隈だけです。いくら高級住宅街だといっても、そんなに売れません。投資額のうち100万円分の商品を売るのに1年はかかるくらいのペースでした。それまでは『儲からんでもええわ』という感じでやってきましたが、『回収できなければ、もったいない』と気分が一変。消えていた商売根性にボン!と火が付いたんです」

当時はまだインターネット通販はありません。川瀬社長が思いついたのは小売店への卸売でした。

「とりあえずプレスリリースやと思いました。書店に並んでいるペット関連の雑誌発行元各社に“大阪の帝塚山で、ハウンドカムという店をやっていまして、今回こんなオリジナル商品を作りました”という文章を郵送しました。プレスリリースなんか書いたことはありませんでしたし、見本もなしで写真を同封しただけでした。ところが、各誌が順次、紹介記事を載せてくれたんです。無料で紹介してくれたわけですよ」

その結果…。

「全国のペットショップから『カタログはあるか?』と問い合わせがくるようになりました。カタログは作っていたんです。それを配って高飛車な商売をしました(笑)。『初回ロットは最低30万円分から』『店舗にはASHUブランドとして、まとめて置いて』…とかね。売れ方はボコボコというわけには行きませんでしたが、それまでのチョロチョロからポロポロくらいにはなりました」

現在の「帝塚山ハウンドカム」に進化する礎(いしずえ)が整いました。とはいえ、そのまま、すんなり進んだわけではありません。川瀬社長の身には、その後「廃業」という文字が脳裏をよぎる事態もふりかかってきます。

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