【連載】楽しい道草

【連載第6回】新生活の前途に暗雲~楽しい道草~

川瀬隆庸(かわせ・たかつね)社長は愛犬のアフガンハウンドのメス「Lee(リー)」と、のんびりと暮らすつもりで1989年から「帝塚山ハウンドカム」を開業したわけですが、北浜でカメラ店を営んでいた船場商人のDNAなのでしょうか…。前回ご紹介したようにオリジナル商品に自分の貯金を投入し「ASHU(アッシュ)」ブランドのルーツとなるオリジナル商品を売り出したことで商人魂に再び火が付きます。

とはいえ、その前後には新しい挑戦に水をさす出来事もあったのです。

残酷な医師の宣告

川瀬社長が、そんな当時を振り返ります。

「もともと小児喘息(ぜんそく)があったので療養のために幼稚園に通っていたころ、北浜から、少しでも空気のいい帝塚山に引っ越してきました。
小学校のときも3分の1くらいの日数は欠席していた感じでしたね。親も『勉強せえ』とは言わず『スポーツして体を鍛えろ』という方針で、堺の浜寺の水練学校に通って水泳をしたり、柔道をしたり、それに釣りも楽しみました。そうこうしているうちに高校生のころからは体力に自信がついてきて、発作も1年に1度から2度におさまってきました」

ところが、帝塚山ハウンドカムを開業してから7年ほどが過ぎ、川瀬社長自身も店でトリミングをこなすようになってきた頃のことです。

「突然、ひどい喘息の発作が起きて近所の病院に駆け込みました。でも『うちでは無理』と匙(さじ)を投げられ、専門医のいる大きな病院を紹介されました。
10カ月近く通って食前食後、頓服と薬が増えても、根本的には改善しません。思い余って担当医に『いつになったら治りますか?』って聞いたんです。

そうしたら返事が『治りません。副作用の少ない安全な薬も出していますし、一生、病とつきあってください』ですわ。

ショックで『エーっ』って声が出そうになりました。いや実際に出てたかもしれませんね。病院に行ってたら治ると信じてましたから」

発作の原因は商売に

それに追い打ちをかけるように過酷な事実を突きつけられます。

「検査をしたら喘息の原因物質がハウスダストと……。そして、猫の毛と、犬の毛でした。店でペットのトリミングをしてましたから悪化するはずですわ。お医者さんに『ペットショップをやってるんですけど』って話たら『やめたほうがいいですね。そうすれば軽くなります』って言われました」

犬や猫とつきあうのが仕事です。商売に励めば励むほど、発作の原因を引き寄せることになるのですから、川瀬社長の脳裏に「廃業」の2文字がよぎったのは言うまでもありません。

「でもスタッフもいますし、取引先もあるし、商売なんて、そんな簡単にやめられるもんじゃないですよね。だからもう『病院に頼ってられへん』って腹をくくりました。薬による対症療法ではどうしょうもない。体質改善が必要だと考えたんです。ちょうど、そのころからペット用の無添加フードが注目され始めていて、僕も問屋の勉強会に顔を出して栄養学の勉強もしていました。とにかく栄養面からの体質改善に挑戦しようと考えました。とはいえ、満腹になればよくて食事への意識は低くトンカツ、すき焼き、焼き肉が大好きで野菜は嫌い。毎日のようにオヤツには甘いチチョコレートという食生活でした」

そんな川瀬社長がまず頼ったのがサプリメントでした。

「でも、改善した実感はありません。必死で健康情報を集めて出会ったのが『玄米菜食』で知られるマクロビオテックです。本を読んだり講演会に行ったりして勉強しました。精神の在り方や運動が大事なことなど色々と解ってきました。最初は好きな食べ物をやめる踏ん切りがつかないまま」

本気で食生活を改善した結果…

つまり“畳の上の水練”を絵に描いたような状態でしたが、喘息の発作のピークがやってきて「よし!やってみよう」と根本的な食生活の改善を決心したそうです。

「おやつもやめて、玄米菜食に近い食事を始めました。とはいえ三度三度はきっちり食べました。そうして8カ月ほどが過ぎたらダイエットをしている意識はなかったのに82キロあった体重が68キロになりました。以前は帰宅したらぐったりしていたのに、そのときは仕事を終えても元気が残っていてジョギングをしていたほどです。それまではひどかった肩こりもなくなって、喘息の発作も起こらなくなりました。薬とも縁が切れたんです。犬や猫に玄米菜食というわけにはいきませんが、ペットも食事で自然治癒力を高めて元気に長生きしてもらえる、と考えるようになりました」

廃業の危機とも見えた事態が「帝塚山ハウンドカム」の新しい門出のきっかけとなります。

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