獣医師が解説

【獣医師が解説】老犬が積極的に取りたい栄養素とは

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回は高齢犬が積極的に取りたい栄養素についてお話させていただきます。

高齢犬用のフード

ドッグフードのお店に行きますといろいろな種類のものが並んでいます。成犬用とか高齢期用などがありますが、これらはイヌの成長段階に応じたものでライフステージ別フードと呼ばれています。

高齢期ステージ

イヌの場合、平均寿命のおよそ半分に達すると高齢期とみなされます。現在のイヌの平均寿命は14~15歳ですので、7歳ぐらいが高齢期用フードへの切り替えの目安になります。(イヌの7歳はヒトのおよそ50歳にあたります。50歳で高齢期と呼ぶにはやや複雑な感があります。)

 

高齢犬のエネルギー要求量

ヒトと同様にイヌも年を取ると体全体の代謝が低下し、生活に必要とするエネルギー量は減少してゆきます。高齢犬が生活に必要とするエネルギー量は成犬のそれと比較すると10~15%ほど少なくなります。

では、高齢犬には全体にエネルギー量をやや下げたフードを給与すればそれでいいのでしょうか?今回のテーマは「老犬が積極的にとりたい栄養」です。

老化のしくみ

3つの老化

そもそも動物はどうして年を取るのでしょうか?少し整理して考えてみましょう。「老化」には「身体の老化」と「臓器の老化」と「細胞の老化」の3つがあります。

身体の老化とは一般にいうところの加齢により体全体の機能が低下する老化のことです。臓器の老化とは年を取るに従い、心臓や肝臓などの臓器がうまく機能しなくなることです。

これらに対して細胞の老化とは体や臓器を作っている1つ1つの細胞が新しく生まれ変われなくなることをいいます。ではなぜ細胞の分裂増殖は永遠に続いてくれないのでしょうか?

老化のしくみ

細胞が老化するしくみには諸説ありますが、代表的な老化の学説として次の4つがあります。

①プログラム説
細胞が分裂増殖できる回数はあらかじめ決まっている

②DNAの複製ミス説
放射線等より遺伝子のコピーミスが起きて正常な細胞ができなくなる

③酸化ストレス説
活性酸素により細胞が酸化障害をうける

④老廃物の蓄積説
細胞のなかに不要なものがたまり分裂できなくなる

 
現在のところ③酸化ストレス説が一番有力です。

酸素の正体

大切な酸素

私たち動物は呼吸をしなければ生きてゆけません。肺に入った酸素は血液によって体中に運ばれ、各臓器の細胞1つ1つに取り込まれます。この細胞の中で栄養分と酸素をもとにエネルギーが作られているというわけです。酸素は私たちにとってエネルギー源であり不可欠なものです。

厄介な酸素

ころんですり傷ができるとまず消毒をします。くすり箱の中のオキシドールを塗ると傷口からアワが出るのを見たことはありませんか?このアワの正体は酸素です。酸素が傷口の雑菌を殺してくれているわけですが、勢い余ると細胞にまで障害を与えてしまいます。酸素は私たちにとって時には厄介者でもあります。

活性酸素

このような厄介者としての酸素は「活性酸素」と呼ばれています。私たちの細胞が活性酸素によって傷つけられ、分裂増殖ができなくなることによって老化が進むというのが先程の③酸化ストレス説です。では、この活性酸素をなんとかする方法は無いのでしょうか?

抗酸化物質

抗酸化物質とは厄介者である活性酸素から食品や細胞を守る働きをする物質のことです。食品(フード)においては酸化防止剤と呼ばれます。

現在数多くの抗酸化物質がありますが大きく3つのグループに分けられます。

(1)抗酸化ビタミン

ビタミンEは食品や細胞が酸化される前に自分自身が身代わりになって酸化されます(=身代り酸化)。ビタミンCは酸化されたビタミンEを再生させて再び働かせる作用をもっています。ビタミンEは活性酸素と戦う主力部隊、ビタミンCは看護班といったところです。

(2)植物栄養素

緑黄色野菜や果物に含まれる色素であるカロテノイド(βカロテン、リコピンなど)やポリフェノール(アントシアニン、クルクミンなど)がこれにあたります。

(3)分解酵素

細胞は活性酸素を分解する酵素をもっており自分自身を守っています。この酵素の成分ミネラルとしては亜鉛(Zn)やセレン(Se)があげられます。

コエンザイムQ10

強力な抗酸化物質の1つとしてコエンザイムQ10(長いのでCoQ10と略)があります。大変印象的な名前であるCoQ10ですが、実は私たちの体の中のいたるところにある物質です。特に心臓や筋肉の細胞の中に多く存在しており、次の大きな2つの働きを担っています。

CoQ10の働き①:エネルギー産生作用

細胞の中では栄養素と酸素をもとに常にエネルギーが作られています。CoQ10はこの代謝に関係している酵素反応を補助する働きをしています。したがって「コエンザイム=補酵素」と呼ばれています。心臓や筋肉にCoQ10が多いのは、常に運動していてエネルギーが必要な臓器であるということを意味しています。

CoQ10の働き②:抗酸化作用

ビタミンEは身代わり酸化によって厄介者の活性酸素から細胞を守っていることを先程述べました。CoQ10はビタミンCと共同して酸化されたビタミンEを再生させて再び働かせる作用をもっています。

老化とCoQ10

海外の研究報告によりますと、ヒトでは年齢を重ねると各臓器中のCoQ10がどんどん減少してゆきます(1989年)。20歳と比較して80歳では心臓のCoQ10量は60%近く減少してしまいます。この成績をイヌの年齢に換算すると次のようなグラフになります。

先程、愛犬は老齢化により生活に必要なエネルギーが10~15%ほど減少することを述べました。このことは各臓器中のCoQ10の減少→体内で産生されるエネルギー量の減少→生活で消費できるエネルギー量の減少、という流れからも説明できます。

細胞を活性酸素から守り、エネルギーの産生を応援することは細胞の老化ケアとして大切です。このことは臓器の老化、そして身体の老化の対策につながります。みなさんの愛犬が素敵に年を取れるように抗酸化物質を上手に活用してみてはいかがでしょうか。

今回のポイント

●老化には身体の老化、臓器の老化、細胞の老化の3つがあります

●細胞の老化には活性酸素が関与しています

●細胞を活性酸素から守るものが抗酸化物質です

●抗酸化物質は老犬が積極的に摂りたい栄養素の1つです

●コエンザイムQ10は愛犬の老化対策に有用な物質です

コエンザイムQ10 が入った新鮮な生馬肉

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「本町獣医科サポート」
獣医師 北島 崇


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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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