獣医師が解説

【獣医師が解説】老犬の食生活で気を付けたいことや老犬にお勧めの成分について

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回は老犬の食生活での注意点やお勧めの成分について解説させていただきます。

高齢期の食生活の注意点

ヒトと同様にペットも寿命が延び、いわゆる高齢化が進んでいます。高齢期における食生活の注意点としてヒトとイヌでは大きな違いがあるのですが何だと思われますか?

ヒトの場合:低栄養(削痩)

現在、日本を含む世界の多くの国において、65歳以上を高齢者と呼んでいます。高齢者の食生活の注意点は「低栄養」による削痩です。背景としては次のようなことがあるようです。

〇一人暮らしの場合、食事は簡単に済ませたい
〇味覚が低下して食欲がわかない
〇食べ過ぎによる肥満やコレステロールが心配 など

イヌの場合:高栄養(肥満)

これに対して高齢犬ではどうでしょうか?(ちなみにイヌの場合、7歳くらいから高齢期と呼んでいます。)ヒトとは逆の「高栄養」による肥満への注意があげられます。

高齢犬の肥満

肥満の判定基準:BCS

ヒトの肥満度の判定方法としては体格指数の一つであるBMIがよく用いられます。体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)というもので、日本肥満学会の判定基準によりますとBMI 25以上が肥満とされています。

ペットの場合ではボディ・コンディション・スコア(BCS)というものがあります。視覚(見た目)と触覚(触った感じ)で判断するため少々主観が入りますが、簡単で適正か肥満かの判断には十分です。みなさんもぜひ活用して下さい。

肥満の原因

ごく簡単にいいますと、肥満は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることにより起こります。高齢犬では次のような背景があります。

摂取エネルギー量の増加 消費エネルギー量の減少
●成犬用フードの継続給与
●フードやおやつの多給与
●生活に必要なエネルギー自体の減少
●関節痛などによる運動量の減少

成犬と比較して高齢犬では生活に必要なエネルギー量が10~15%ほど減少します。従って成犬用フードをそのまま与えているとエネルギー過多になってしまいます。

みなさんは愛犬におやつを与えていますか? ペット総合研究所が興味深いアンケート調査を実施していますのでその結果を示します。

愛犬の1か月あたりのフード代は平均で3,774円、おやつ代は1,338円でした(2016年実施、回答者数784名)。
また、毎回のフードの給与量を正確に把握しているオーナーは全体の72.2%に対し、おやつのカロリー管理をしているオーナーはおよそ半数の51.7%でした(2015年実施、回答者数843名)。

愛犬がフードおやつを食べている姿はとても愛らしいものです。
しかし高齢犬では、関節の痛みや認知機能の低下などによって運動による消費エネルギー量が減少してきます。
オーナーのみなさんは全体の摂取カロリー量をチェックしておやつの給与量にも注意してあげて下さい。

肥満によるリスクと対策

肥満を背景とする問題

イヌもヒトと同様に肥満が進むと次のような疾病が発生しやすくなります。

○糖尿病 …多飲多尿および多食、白内障の併発
○心臓病 …心臓の負荷増大による心不全や心臓肥大
○骨・関節 …体重増加による四肢の変形(成長期)、関節炎(高齢期)
○その他 …高脂血症、脂肪肝、高血圧 など

BCSと寿命

開業獣医師の船津敏弘 氏らが前述のボディ・コンディション・スコア(BCS)と平均死亡年齢との関係を報告しています(2003年)。
痩せ気味よりは理想~肥満の方が短命のようです。
やはり肥満体型ではいろいろな健康リスクが高まるためと考えられます。

肥満の予防・改善策

肥満対策としては次の3つが基本になります。(薬物療法は除きます。)

(1)フード制限
与えるフードの量を規定量の30~40%ほどカットして、体重を維持するのに必要なエネルギー量を減らします
体重調節用フードでは脂肪分が削減され食物繊維が増量されています

(2)運動
エネルギーの収支では運動で消費するエネルギー量はあまり多くないため、上記のフード制限とセットで行う必要があります。
高齢犬では骨や関節のトラブルを抱えている場合が多いので、ムリな運動は禁物です

(3)機能性栄養素
食物繊維は消化されないためフード量を制限しても、満腹感が続き空腹ストレスの対応にも有効です。
食物繊維の多給与は便秘の原因にもなりますので要注意です。

タウリン

みなさんはタウリンという栄養成分をご存知でしょうか?
「タウリン1000mg配合!リポビタンD」でおなじみのタウリンです。

タウリンとは?

タウリンはメチオニンなど含硫アミノ酸の代謝産物で、厳密にはアミノ酸ではありません(まあ便宜上、アミノ酸と呼んでいます)。
私たちの体の中では心臓、肝臓、筋肉、脳などに広く存在しています。また、食品では魚介類(イカ、タコ、マグロ)に豊富に含まれていますが、野菜には存在しません。

ネコにおいては必須アミノ酸としてよく知られています。このため長期間ドッグフードをネコに給与するとタウリン欠乏症になりますのでご注意下さい。

タウリンの抗肥満作用

タウリンは肝臓や心臓の機能強化、疲労回復促進、コレステロール低下作用などの働きをもつ機能性栄養素の1つです。

国立健康・栄養研究所の笠岡宜代 氏らが実験動物のマウスを用いたタウリンの抗肥満作用について研究報告していますので概要を紹介しましょう(2006年)。

○高脂肪食を与えた肥満マウスと標準マウスを比較した
○肥満マウスの体重は約48%増加した
○肥満マウスの血液中のタウリン量は約35%減少していた
○肥満マウスのエサにタウリンを5%添加すると体脂肪率は約35%減少した

これは実験動物レベルの結果ですが、高カロリーのエサ給与による肥満動物では体内のタウリンが欠乏しているということです。

体重コントロールは私たちの愛犬の健康維持に大切です。毎日の運動が難しくなっている高齢犬の肥満対策として、食物繊維やタウリンなどの機能性栄養素を上手に活用するのも1つの方法です。

今回のポイント

●老犬の食生活で注意すべき点として肥満があります
●肥満の背景には摂取エネルギー>消費エネルギーの状態があります
●肥満犬では種々の健康リスクの高まりや短命の傾向を認めます
●肥満の改善策としてフード制限、運動、機能性栄養素の活用があります
●タウリンは老犬の肥満対策としての有用性が期待される栄養素の1つです


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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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