獣医師が解説

【獣医師が解説】老犬ケアの開始時期

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現在、私は京都滋賀を中心としてペットの高齢化に伴う困り事や悩み事についてアドバイスを行う動物病院を開設しています。ペットオーナーの方々といろいろな話をしてゆく中で「もう少し前からケアを始めておけばよかった…。」というコメントをよく聞きます。

今回は「何歳ぐらいから老犬ケアを考えればよいのか?」というテーマで参考情報をお伝えします。

老化のサイン

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みなさんは毎日愛犬の世話をされていますが、逆にいつも見ているため老化による変化に気付きにくいこともあります。今まで相談を受けたオーナーから聞き取った代表的な老化のサインを紹介しましょう。

表情や被毛

・何となく顔の表情が「とろん」としてきた
・顔や体に白い毛が見立つようになった

昼間の時間

・昼間に寝ている場面が多い
・おもちゃであまり遊ばなくなった

運動や反応

・散歩のスピードが遅くなった
・よく見えていない気がする
・名前を呼んでもこちらを見ない時がある

老化は疾病と異なり急に起こるものではありませんので、他の人から言われて「そういえば…」と気付く場合が多いものです。そしてこれらのサインは小型犬においては、10歳の少し前くらいから認められている様です。

老化の開始年齢調査

愛犬の老化が始まるのは何歳頃からなのか?規模を大きくして具体的に項目をしぼった調査報告がありますので紹介します。

聴力の低下はいつから?

県立広島大学の古本彩花 氏らが愛犬の聴覚障害についてアンケートを実施しています(2016年)。概要は次のとおりです。

●調査対象…8歳以上のイヌ182頭のオーナー(2013年に実施)
●聴力の低下は12~14歳で急増(55.0%)
●聴力低下に気が付いたきっかけ
・名前を呼んでも気付かない
・外出から帰ってきても玄関まで迎えに来ない
・「散歩」と言っても喜ばないがリードを持つと喜ぶ
●聴力低下で困ったこと
・呼び戻す声が聞こえず遠くに行ってしまった
・車にひかれそうになった

古本 氏らは加齢による聴力の低下は8~10歳頃から始まり、12歳頃からオーナーが認識できるほど低下するとまとめています。

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視覚障害はいつから?

老犬の視覚障害の代表として緑内障と白内障があります。緑内障は眼圧の上昇を原因とするもので、白内障に伴う場合もあり失明のリスクが高い疾患です。この緑内障の好発犬種と発症年齢について麻布大学附属動物病院の印牧信行 氏らが発表しています(2015年)。

●調査対象…附属病院に来院したイヌ2,981頭(1994~2011年に実施)
●緑内障の犬種別受診率
・トップは柴犬(42.9%)
・次いでシベリアンハスキー(13.2%)、ビーグル(11.9%)ほか
●柴犬の初診来院の平均年齢は7.4歳

同様に加藤久美子 獣医師(東京大学附属動物医療センター2006年)らも緑内障の犬種別発症率では柴犬がトップで33%、平均発症年齢は8.4歳と報告しています。

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腫瘍の発生はいつから?

12歳ぐらいまでのイヌの死因のトップは腫瘍疾患です。腫瘍の原因はいろいろありますが、老化に伴う免疫力の低下も背景の1つです。

開業獣医師の入江充洋 氏らによるイヌの腫瘍発生状況の調査報告があります(2016年)。

●調査対象…全国の動物病院26施設に来院したイヌ19,870頭
(2012~2013年に初診来院)
●良性腫瘍
・腫瘍確定例数の53.8%を占める
・内訳のトップは良性乳腺腫瘍(19.7%)
・年齢中央値は9歳6か月
●悪性腫瘍
・腫瘍確定例数の46.2%を占める
・内訳のトップは肥満細胞腫(15.5%)
・年齢中央値は12歳4か月

ここでいう「中央値」とは調査成績を小さい順に並べた時、ちょうど真ん中にあたる値のことをいいます。(「平均値」とは別のものです。)

入江 氏らは悪性腫瘍の発生は6歳から増加傾向を認め、9~12歳が発生率のピークとなり、その原因の1つとして老化が考えられると述べています。

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認知症の発症はいつから?

最後に愛犬の認知機能低下の時期についてみてみましょう。少し古い調査ですが開業獣医師の内野富弥 氏が認知症犬の発見年齢について報告しています(2005年)。

認知機能の低下を示すイヌは12歳頃から急増し、13~16歳でピークを迎えています。なお、18歳以降の低下は死亡による調査頭数自体の減少によるものです。

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フレイル

フレイルとは?

みなさんは「フレイル」ということばを聞いたことがありますか?フレイルとは2014年に(社)日本老年医学会が提唱したことばで「加齢によって筋力や活力が低下して健康リスクが高まっている状態」をいいます。

フレイルのチェック

国立長寿医療研究センターの佐竹昭介 氏がこのフレイルの診断基準として5つの項目をあげています(2016年)。この内3つ以上該当するとフレイル状態といえます。

フレイルはあくまでもヒトの老化に関する考え方ですが、みなさんの愛犬でもチェックしてみて下さい。

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フレイルは要介護状態の一歩手前といったイメージですが、適切なケアによって元の健康状態に戻ることが可能であるとのことです。半年に1回ぐらいの間隔でチェックして早期発見・早期対応に努めることが大切です。

老犬ケアの開始時期

今回、老犬ケアの開始時期を考える上でいくつかの疾患の好発年齢やフレイル(筋力や活力の低下)について述べました。これより、老化による健康トラブルが起こってくるのは10歳ぐらいからとみて良いでしょう。

私としては、この2~3年前の7~8歳を一つの目安として老犬ケアを意識されるのが良いと考えています。早期のケア開始はその後の介護の負担を軽減し、愛犬はもちろんペットオーナーのみなさんのQOL(生活の質)を維持するのにも有効です。


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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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