健康

ヨーロッパで見かけた犬たち Part2

前回、ヨーロッパの犬たちは「社会の一員」として認められ、生活の中のさまざまな場面でごくごくふつうに
人と共存して生活しているということをお伝えしました。
公共の乗り物をはじめとして、駅、デパート、レストラン、人であふれかえる観光地など、さまざまなシチュエーションの中に溶け込んでいる犬たち。
社会的存在の違いを感じずにはいられませんでしたね。

さて、今回はさらに深く掘り下げて、ヨーロッパと日本における「犬(動物)の保護」について、みなさんとご一緒に考えていきたいと思っています。

その前に、避けては通れない衝撃的なヨーロッパの「犬の糞尿」事情についてお話することにしましょう。

犬の糞尿の始末 ―― ボヤボヤしていたら、さあ大変!

ヨーロッパの都市部を歩くと、ゴミの多さにうんざりします。
歴史に彩られたヨーロッパの街に似つかわしくないゴミが、石畳の道のあちらこちらに散乱しています。
ひどいものになると、ワインの空瓶が線路に転がっていたり、タバコの吸い殻が線路に敷かれた砂利を埋め尽くしていたりと、さすがにゴミに関しては驚きを隠せませんでした。
世界中からの観光客の増加に比例してゴミの量も増えているのが、今のヨーロッパの実状です。

そして、さらに衝撃を受けたのは、「犬の糞」。

えっ?
まさか?
「社会の一員」として認められ生活している犬が?
野良犬の落とし物?

いえいえ、正真正銘の飼い犬のウンチ「糞」です。

よそみをして歩いていようものなら、たいてい踏んづけます。

これはどこの国に行っても落ちていました。

日本でも無いことはありませんよ、このようなことは。

しかし、東京の銀座、新宿、六本木で見かけますか?

大阪の梅田、心斎橋、ハルカスの前で犬の糞があちらこちらに落ちているのを踏みそうになった人は、まずいないでしょう。

ところが、あるわ、あるわ、フランスのパリ!

♬オー シャンゼリゼ オー シャンゼリゼ ♪

などと、気をよくして歩いていたら、靴底にベッタリと犬の糞がくっ付いていたなんてことが、あり得るのです!

もちろん、建物や列車の中などで糞尿をする犬を見かけることはありませんから、そこはしっかりとしつけられているのだと思うのですが、問題は道路、公園の中、芝生の上などです。

最も多かったのは、フランスです。

地元のみなさんは平気な顔で歩いていますが、糞を避けるのに右往左往する観光客の姿をたくさん目にします。

そういえば
散歩中の光景を思い出しても、スコップやビニールの袋をもっている人は皆無に等しい。
手ブラでお散歩の人が多く、お散歩グッズは必要の無いもの?
糞の始末、どうしているの?
どうも腑に落ちないので調べてみることにしました。

棚を埋め尽くすフードの豊富さ

では、いったいどこにペット用のグッズはあるのでしょう。
イギリス、ドイツ、イタリア、フランスなどでペットショップを探したのですが、日本のようなお店に出くわすことはありませんでした。
ドッグフードなどはスーパーマーケットで販売されているのです。


写真① ベルギー ブリュッセルのスーパー


写真② ドイツ ローテンブルクのスーパー その1


写真③ ドイツ ローテンブルクのスーパー  その2

ペットフードコーナーが占める面積の割合は、日本のスーパーに比べるととても大きいです。
たいてい写真①②③のように、フードは他の食品などと変わらないくらいのスペースにドーンと並べられています。
グッズなどを探すと、少しのスペースにリードや食器などがある程度です。

ヨーロッパではどこででも飼い犬を見かけたので、ペットショップはふつうに在るものだという先入観でいましたが、どうもそうではないようです。
ところが、ついに旅の終盤イタリアで1軒のペットショップを見つけました。
建物自体はさほど大きくは無いのですが、中に入るとスーパー以上にドッグフードがぎっしりと陳列されているのが目に飛び込んできました。


写真④ イタリア ローマのペットショップ

写真④を見てわかるように、通路の両サイドや奥など至るところにフードがずらりと並んでいます。
通路が背面にもうひとつあり、同じようにフードが上から下、右から左まで陳列してあり圧巻です。
もちろん猫用のフードも含まれていますが、犬のものは断トツ多かったですね。
写真の右上にあるのはキャリーバッグ、左上はゲージのようです。

不思議に思ったのは、「生体販売」―― つまり犬や猫がまったく居ないことです。
日本では当たり前のようにペットショップに行くと目にするあの光景は、このペットショップにはありません。
ですから、店内はいたって静かで臭いもありません。

ようやく、レジのそばに並べられているグッズコーナーを見つけました。
リード、首輪、ハーネス(胴輪)、トリミングケアのブラシやコーム、シャンプー程度。
そういえば、ペット用のシートなどもあまり店内で見かけません。
日本のお店では、カラフルでオシャレな服やおもちゃなどが置いてあって、見ているだけでも楽しくなりますが、イタリアのペットショップの売り場はとてもシンプルです。

というように、ドッグフードの品数の多さが目立つヨーロッパにおいて、糞をすくうスコップのようなものなど、散歩時に使用するようなグッズは特別に無さそうな感じです。
飼い主さんは手ブラで散歩している人も多く、糞尿などの意識があまりないのでしょうか。

どうしているの?犬の糞尿の始末

ところがさらに調べてみると、ドイツやフランスなどでは、糞の放置に関して罰則や罰金があるのです。
糞の多さに衝撃を受けていたので、この情報には驚きました。
あれだけ落ちているのですから、実際は違法な飼い主が多いのは確かですし、罰則や罰金が本当に実施されているのか疑ってしまいます。

イギリスでは公園などに、糞の「回収ボックス」が設けられているそうです。
が、利用していない飼い主さんもあるようで、そのまま放置したり、またはそばを流れる川に流してしまったりすることもあるようです。

そう思うと、日本の飼い主さんのマナーの良さはすばらしい!
愛犬の始末はちゃんと飼い主さんが責任をもってやっているのがほとんどです。
たいていの飼い主さんは散歩のときには小さなバッグを持っていて、その中に糞をすくうスコップやティッシュを準備していますし、また、マーキングの後は、ペットボトルに用意した水を掛けている姿も見かけます。
もちろん、すべての飼い主さんのマナーが良いとは言えませんし、時として糞を踏みそうになることだってありますが、フランスを例に挙げればその差は歴然です。
この差は、グッズ販売の多い少ないという点だけは無さそうです。

こうして比較してみると、ヨーロッパの人たちの犬に対する社会性という点では、日本はヨーロッパからたくさん見習うところがありますが、一方では、罰則も罰金が無くても日本人の清潔さや几帳面さという点において、糞の始末は参考材料になるのではないでしょうか。
互いに良い点を学び合い改善点は素直に正してこそ、愛犬のため社会のためになるというものです。

動物保護活動へ協力の呼びかけ

さて、もうひとつヨーロッパの旅で目にした珍しい光景を紹介します。
それは、ドイツのローテンブルクのスーパーマーケットでのことです。
何やら見慣れないものが目につきました。
一体これは何だろう?
ゲージの上にあるオレンジ色の告知板には犬や猫の写真とドイツ語。
『動物シェルター ローテンブルク』
下段は『ご寄付をいただきありがとうございます。動物保護協会』と記載されています。

そして、A4版のコピー用紙に記されているのは、「避難所」の受付時間のようです。


写真⑤ ドイツ ローテンブルクのスーパーにある寄付ゲージ

このようなボックスは、ドイツではどこにでもあるものだそうで、動物愛護団体がスーパーへ来る人にペット用品やおやつなどの寄付を募り、このゲージの中に入れてもらうというものです。
シェルターで保護されているペットたちへ贈る一般市民の善意の形というわけですね。

なぜこうも犬や猫などのペットがドイツをはじめヨーロッパでは大切にされているのでしょう。

ドイツ動物保護法第 1条をみると
『この法律の目的は、共生物としての動物に対する人間の 責任に基づいて、動物の生命および健在を保護することである。何人も理性的な理由なくして、 動物に痛み、苦しみまたは傷害を与えてはならない。』
と定めています。

単に動物を所有する人を対象にした文言ではなく、飼育していなくても犬や猫やその他の動物たちの命をみんなで守っていこうという意図が伝わります。
その意識の高さが、動物保護団体の設立と運営活動に繋がっているのでしょう。
そして、その活動の一端が先の寄付という呼びかけなのです。
国をあげての取り組みをみんなが意識をもって協力している点が、日本との大きな差を生んでいるのかもしれません。

動物保護先進国のヨーロッパ

ヨーロッパの国々では、「動物保護先進国」としての活動が盛んです。
捨て犬や猫が家庭の事情によって飼育不可能になったときは、動物保護団体によって保護します。
原則、犬や猫などの「殺処分」は行われません。

ドイツを例にあげると、動物保護団体傘下の動物保護施設は登録、未登録をあわせて1000団体くらいあるそうです。
捨てられた犬や猫は動物保護施設で保護されて、市民・動物団体・施設が一体となって動物の命を守っているのです。
次の飼い主(日本でいう里親)が見つかるまで保護したり、また飼い主が見つからなくても最後まで世話をしたりします。

最後は「殺処分」という事実

では、日本の動物保護の実情はどうでしょう。
最近、知人がFacebookに飼い主に捨てられた犬のことを投稿していました。

「新しい犬を飼ったから、それまで飼っていた犬が邪魔になったので、いらなくなったから捨てた」

知人も呆れていましたが、私もこの投稿に怒りを覚えました。
まるで、犬を「もの」としてしか捉えていないこの飼い主。
飼い始めたころは「かわいい、かわいい」だったのでしょうが、言うことをきかないとか、大きくなってくると扱いづらくなったなどの理由で、飼い主にとってその犬は「不要なもの」となってしまったのでしょう。
そのような飼い主に、動物の命を託すことは大変嘆かわしくまた、危険です。
新しいのを買うことができる生活の余裕でしょうか?
新しいものへの執着でしょうか?
飽きでしょうか?
犬は、その人にとってやはり「もの」なのでしょうか?

このような飼い主に巡り合うことを食い止めないかぎり、日本における動物の「殺処分」の数は減らないのです。

保護されるのは、正当な理由で家庭から引取る場合や、迷い犬、狂犬病予防員及び捕獲人が捕獲した動物を一時保護する場合などがあります。
ただし、保護されている犬猫の8割以上は元の所有者が分からないのです。

環境省によると、2017年に発表された統計によると、全国の犬猫殺処分数が2015年度の8万2902匹から5万5998匹(犬:1万424匹、猫:4万5574匹)で、これは10年ほど前に比べると3分の1に減少したとのことです。

減少した背景についての環境省のコメントは

「昨年度の引き取り数や殺処分数が減少したのは、協力していただいている保護団体の方々が行政に来るまでに直接保護したり、行政で保護している犬猫の譲渡活動を行っていただいたりした効果が大きいと考えています。成果が上がっている地域というのは、官民連携がうまくいっています。ただ野犬については厳しい判断を避けて通れません。そこは地域の実情に応じた管理を進めていく必要があります。」               
- 環境省動物愛護管理室の則久 雅司室長 -

簡潔にまとめると、保護団体の保護と各行政での譲渡活動のおかげだということなのです。
動物愛護団体が直接ペットを引取る数が増加したことにより、保健所が引取るペット数が減少したことや2012年(平成24年)に動物愛護法の改正、翌年からの実施によってその変化が伺えます。

環境省 動物愛護法の改正

上記の保護法に記された「終生飼養の責務」を適用し、飼育者(保有者)からの安易な引取りの申し出を行政
が拒否できるようになったことも殺処分数が減った要因の一つだと考えられています。

では、一般的な保護の流れというのを簡単に説明しましょう。

犬の取引は、主に県市町村の各自治体が窓口になっています。
引き取り場所については、保健所や愛護センター、管理センター、指導センターなどです。
保管期間は、平均的には1,2週間。
市町村で公示されてホームページなどで公開していますが、その期間内に引き取り手(里親)が無ければ薬やガスなどによってたいていは「殺処分」されます。(「殺処分」を実施しない自治体もあります。)

保護されて里親がみつかり再び飼育される犬は幸せです。
しかし、その一方で捨てられ野良犬化していく犬がいることも事実です。

かたやヨーロッパでは「殺処分ゼロ」の国があるというのに、世界的に見ても先進国である日本でどうしてこのような事態が起こるのでしょう。

問われる販売システムとモラル

日本の場合、犬を手に入れる方法としていちばんオーソドックスなのが、ペットショップでの「生体販売」です。ペットショップの犬や猫たちは、ゲージやガラスケースの中でその愛らしい姿をお客さんに披露しています。
犬種、性別、出生日、金額などが記されたポップと犬たちを見比べながら、お気に入りの犬が見つかれば、「はい、お買い上げ!」というのが、たいていの購入の流れです。
ブリーザーから直接購入するケースもありますし、また、知り合いなどから生まれた子犬を譲り受けることもあるでしょう。
いずれの場合にせよ、新しい“家族”を迎え入れる喜び、嬉しさ、期待感など計り知れない感情が沸きあがると同時に、犬の命を預かり守るという責任感が飼い主さんには求められるはずです。

しかし、現実は、どうでしょう。
「もう可愛くないからいらない」とか「邪魔だから要らない」「扱いに困るからもう飼うのをやめる」という利己的な理由によって、捨て犬になり保護される犬がたくさんいるのです。

ヨーロッパでは、ペットショップでの「生体販売」は、ほぼありません。
では、どこから犬を手に入れるのかといえば、ほとんどが「動物保護団体」からです。
引取る人が飼育者として適しているのかを厳しく審査し、認められてようやく引取るという流れ。

所有した人は最後まで犬とともに生活することを基本とし、どうしても飼えない事情が発生した場合は、動物保護団体に相談したり保護してもらったりというシステムです。
動物への虐待や違法行為などがあれば、地域住民が保護団体に通報して、未然に防ぐ手だてにもなっていますから、多くの視線が常にいろいろな場所で光っているのですね。
もちろん、犬が吠えてうるさいときなども通報されたりしますので、飼い主さんもしっかりとしつけをしないと責任を問われます。
要は、動物を取り巻く環境の中で「みんなが無関心ではない」ということです。

アメリカのユダヤ人作家でノーベル賞受賞者でもあるエリ・ヴィーゼルは『愛の反対は憎しみではない、無関心である』と述べています。

このことは、人と人との関係においてはもちろん言えますが、動物たちとの関係にも当てはまります。
犬をパートナー、家族として受け入れ向き合っていくためには、大いに相手に関心をもつことです。
無関心で愛犬は育ちません。
関心をもって見守り続けてゆくことで、愛犬と飼い主さんとの間に信頼関係は育っていくのですから。

こうして2回に渡ってヨーロッパと日本の犬事情についてお伝えしてきました。
犬と人と社会との関わり方の違いに少し温度差があることを感じていただけたでしょうか。

動物保護先進国といわれるヨーロッパからみると、日本はまだまだ出遅れているところがあります。
しかし、こうしてヨーロッパと日本の犬事情をみていくにつれ、日本には大きな強みがあることに気づきました。
それは、日本にはたくさんのペットショップが在るということです。
「生体販売」という点では、まだまだ課題はあるかもしれませんが、犬を飼う人にとってはとても頼もしい相談相手、相談場所になり得るということです。
愛犬や飼い主さんにしっかりと寄り添ってくれる頼もしいお店がみつかれば、それこそ安心です。
飼育上での悩み…たとえば食事のこと、健康のこと、しつけのこと、そしてグッズなどに及ぶ豊富なプロの知識の助けを借りれば、もっと愛犬との暮らしが楽しく充実することでしょう。

安心安全な品揃えと豊富な知識、そして最も大切なのは愛犬がいついつまでも元気に飼い主さんとともに暮らせるようにと願う、そんなお店に出会うことです。
そんなきっかけがきっと、これからの飼育に自信を与えてくれるでしょう。
愛犬と飼い主さんとペットショップとの丁寧な関りが、きっと日本を動物保護先進国へと導いてくれるにちがいないと、そう信じています。

愛犬に生肉を与え続けて10年の川瀬隆庸が監修

株式会社帝塚山ハウンドカム
代表取締役 川瀬 隆庸

  • 社団法人 日本獣医学会 正会員 会員No.2010172
  • 財団法人 日本動物愛護協会 賛助会員(正会員)No.1011393
  • ヒルズ小動物臨床栄養学セミナー修了
  • 小動物栄養管理士認定
  • D.I.N.G.Oプロスタッフ認定
  • 杏林予防医学研究所毛髪分析と有害ミネラル講座修了
  • 正食協会マクロビオティックセミナー全過程修了

愛犬の健康トラブル・ドッグフード・サプリメントなどアドバイスをいたします。

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