「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
早いものでこのペットの健康コラムもすでに30本ほどになりました。その中で何度も登場しているのがEPAとDHAです。今回は「オメガ3脂肪酸」について解説します。
目次
あぶら、脂肪、脂肪酸
先日、ペットフードの勉強会で「脂肪酸はあぶらでしょうか?」という質問を受けました。フード関係の本を読んでいますとよく似た言葉がいくつも出てきます。まずはこれから整理しておきましょう。
あぶら
パソコンで「あぶら」と入力しますと、候補の漢字として「脂」と「油」が出てきます。脂(fat)とは常温で固体のあぶらのことをいいます。ラード(豚脂)やタロー(牛脂:すき焼きの時の四角い脂身です)がこの脂です。
これに対してサラダ油やオリーブ油のように液体のものを油(oil)と呼んでいます。
脂肪=脂質
脂肪と脂質はどうでしょうか?この2つは同じ意味で、栄養学的な話をする場合は「脂質」と表記することが多い様です。したがって「あぶら」=「脂質」=「脂肪」となります。
脂肪≠脂肪酸
本題はここからです。脂肪と脂肪酸は別物です。私たちの体にとって大切な脂肪として「中性脂肪」という言葉があります。この中性脂肪はグリセリンと「脂肪酸」からできています。すなわち脂肪酸は脂肪のパーツの1つということです。
脂肪酸は炭素(C)がいくつかつながった形態をしています。そして炭素の数やつながり方によって何種類にも分かれています。たとえばEPAはC=20個、DHAならC=22個といった具合です。
中性脂肪の「中性」
「中性脂肪が気になるあなたに!」などとCMでよく聞きます。この中性脂肪の中性とは何のことでしょうか?
中性脂肪はグリセリン1つと脂肪酸3つからできていますが、脂肪酸自体は酸なので酸性を示します。酸性の脂肪酸がグリセリンと結合する(=脂肪になる)と中性に変わるため「中性脂肪」と呼ばれています。
オメガ3脂肪酸
今や大人気のオメガ脂肪酸の中には、オメガ3の他にオメガ6などがあります。この「オメガ」ですが、みなさんは何のことか気になりませんか?
炭素のつながり方
脂肪酸は炭素のつながり方(=手のつなぎ方)によって種類や性質が異なります。炭素は4本の手をもっていて、片手でつないだり両手でつないだりします。
おもしろいことに炭素が片手でつないでいるものは常温で固体(=脂)、両手でつないでいるものは液体(=油)という性質があります。
「オメガ」の意味
脂肪酸を作っている炭素を一列に並べて、端から何番目の炭素が両手でつないでいるかを確認してみましょう。
3番目の炭素の場合、その脂肪酸をオメガ3(ω3)、6番目の炭素の場合オメガ6(ω6)と呼びます。「オメガ:ω」とは2本の手でつないでいる炭素の番号を表しているわけです。なお近頃はωではなくn-3、n-6と表記します。
α-リノレン酸
オメガ3脂肪酸の代表としてアマニ油に60%ほど含まれているα-リノレン酸があります。アマニ(亜麻仁)とは亜麻という植物の種子のことで、アマニ油は塗料や印刷インキの原料でもあります。
EPA、DHA
EPAとDHAは共に魚油に豊富に含まれる脂肪酸です。魚油とはイワシやサンマ、ニシンなど大量に捕獲される青魚を原料として魚粉を作る過程でできる油のことです。
魚油は魚粉と共に大部分が水産用飼料(=養殖魚のエサ)の原材料になっています。
このようにオメガ3脂肪酸を豊富に含むアマニ油や魚油は常温では液体の「油」です。
オメガ3脂肪酸のはたらき
では、EPAとDHAを中心にオメガ3脂肪酸の主なはたらきを見てみましょう。
血管・血流の健全化:EPA
EPAの正式名称はエイコサペンタエン酸です。EPAのはたらきを一言でいいますと血管や血液を健康な状態に保つというものです。
血管の弾力性を保持したり、血液中のコレステロール値を正常化することによって、体内の血液の流れを良い状態に維持する作用があります。
イヌを用いたオメガ3脂肪酸の血液サラサラ作用を確認した試験報告があります(動物エムイーリサーチセンター 平林美紀ら 2004年)。
●供試犬 …正常老犬、認知機能低下老犬 各1頭
●EPAとDHAを含むサプリメントを28日間給与
●給与前後の血液の流動性(全血通過時間)を比較した
…狭い隙間を血液が通過する時間を測定するもの
結果ではオメガ3脂肪酸の給与により、両方のイヌにおいて血液のサラサラ具合がおよそ50%向上したということでした。
脳の活性化:DHA
DHAの正式名称はドコサヘキサエン酸といいます。DHAのはたらきは脳を活性化するというものです。以前、子どもの学力アップには青魚を食べさせると良いといわれたのはこれによるものです。
ヒトにおいては脳への血液量増加、記憶をつかさどる海馬という部分の神経細胞の新生促進作用などが報告されています。これによりDHAは高齢者の記憶力ケアとして関心が高い栄養素になりました。
DHAと老犬の認知機能との関係を調べた研究報告を紹介しましょう(動物エムイーリサーチセンター 内野富弥 2005年)。
●供試犬 …合計30頭
●液体のオメガ3脂肪酸を給与
…DHA(7頭)、EPA(6頭)、DHA+EPA(17頭)
●給与後の生活状況、行動変化を観察した
内野は給与7日目から鳴き声、感情表出、後退行動、歩行状態などに良い変化が見られ始め、2~3週目には認知機能の改善を確認したと述べています。
さらに機能回復の有効率はDHA、EPAの単味よりは混合給与した方が高かったとのことです。これより、前述の血液サラサラ作用の結果と併せると、オメガ3脂肪酸はDHAとEPAの両方を摂取することが大切であると考えられます。
オメガ3脂肪酸への期待
ペットフードにオメガ3脂肪酸が配合されているジャンルとしては、高齢犬用や関節ケア用が多い様です。ここでは、ペットの日常生活におけるオメガ3脂肪酸の活用について考えてみましょう。
運動に伴う痛み
散歩や運動は愛犬の健康維持にとても大切ですが、同時に筋肉や関節に負担もかけています。ヒトが軽い運動を行った後の筋肉痛についての興味深い報告があります(早稲田大学 神田和江 2010年)。
●試験実施者 …日頃運動を行っていない健康な成人男性9名
(平均年齢24.8歳、体重62.3㎏)
●試験運動 …片足カーフレイズ運動
(つま先立ちでふくらはぎの筋肉を鍛える運動のこと)
●実施者が主観的に筋肉痛の発生時を確認する
試験結果では、運動後本人が筋肉痛を感じ始めるのは翌日(24時間)からで、そのピークは3日後(72時間)ということでした。また、筋肉の損傷によって筋色素ミオグロビンが放出されるのもこれと同様の経過でした。
この実験は、軽い運動でも筋肉には炎症が起きており、じわりじわりと痛みを感じてくるということを示しています。
抗炎症作用:筋肉ケア
オメガ3脂肪酸の最も基本となる性状は炎症を抑える、すなわち抗炎症作用です。体のどこかが刺激やダメージを受けると、その部分が赤くなったり痛みを感じます。これが炎症です。
関節炎やヘルニアなどの痛みを伴う炎症はもちろんですが、前述の試験結果のように、散歩や室内の遊びのような軽い運動でも、ペットの筋肉には炎症が起きていると思われます。
現在はみなさんの愛犬が体のどこかに痛みを感じていなくても、毎日の散歩の後の筋肉・関節ケアとしてオメガ3脂肪酸を活用するのも1つのアイデアでしょう。
抗炎症作用:腎臓ケア
血液のろ過装置である腎臓は、毛細血管から水分や老廃物を押し出して尿を作っています。しかし、この血管が炎症を起こして柔軟性を失うと、ろ過機能は低下して腎不全になってしまいます。
大阪府立大学の青木美香らはオメガ3脂肪酸の抗炎症作用に着目して、泌尿器疾患への魚油の活用の可能性について述べています(2002年)。
イヌを用いた実験において、魚油には腎不全の進行を遅らせるはたらきがあるとのことです。魚油自体は医薬品ではないため治療という意味ではありませんが、腎機能のサポート役としてもオメガ3脂肪酸の活用が期待されます。
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以上のようにEPAやDHAなどオメガ3脂肪酸は、私たちの愛犬や愛猫の生活において幅広く有用な栄養成分であるといえます。他にもオメガ6やオメガ9などまだまだ魅力的な脂肪酸がありますが、これらはまた別の機会に紹介しましょう。
執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。