「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
散歩中または部屋の中で遊んでいる愛犬が少し変な歩き方をしているな、と思ったことはありませんか?今回は「跛行と脱臼」について解説します。
目次
跛行(はこう)とは?
跛行の「跛」は「そろっていない状態」という意味です。跛行とは正常でない歩行のことをいい、愛犬の痛みのサインの1つでもあります。
慢性の痛み
動物臨床医学研究所という学術団体の中に、動物の痛みに関する研究や情報発信を行っている「動物のいたみ研究会」というワーキンググループがあります。
この研究会が次のような、慢性の痛みのチェック項目というものを提唱しています。みなさんの愛犬にいくつかあてはまるものはありませんか?
①散歩を嫌う ②段差を嫌う ③あまり動かない
④ソファーなどの上り下りをしない ⑤立ち上がりがつらそう
⑥元気がない ⑦遊びたがらない ⑧尾を下げている
⑨跛行がある ⑩寝ている時間が長い、または短い
この中に跛行という項目がありました。跛行は正常でスムーズな歩行ができない状態をいい、その背景には前肢または後肢の痛みがあります。
跛行の具体例
跛行の具体例としては、その程度により次のような歩様があります。
●軽度 …片足を浮かせて歩く、片足をかばって歩く など
●中度 …ケンケンやスキップをしながら歩く など
●重度 …足を引きずる、座り込みながら移動する など
これら正常ではない歩様を行うのは、骨、関節、筋肉、腱などの運動器官のどこかに異常があるためです。
跛行をまねく疾患
では、この跛行をまねく疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。酪農学園大学の上野博史がイヌの歩行異常を示す疾患について報告していますので簡単にまとめてみました(2015年)。
基本的には、骨折と脱臼が跛行の主原因になります。発生頻度が高いものとして前肢では肩や肘の骨折・脱臼、後肢では股関節脱臼、十字靭帯断裂、膝蓋骨脱臼があげられます。
どれもペットの雑誌を見ているとよく目にする病名です。次の項では、この中の膝蓋骨脱臼について詳しく解説しましょう。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
脱臼とは関節において、骨が正しい位置からはずれてしまった状態をいいます。よくいう「肩がはずれた」はこの脱臼のことです。
膝蓋骨とは
子犬において発生が多い脱臼として、股関節脱臼と膝蓋骨脱臼があります。膝蓋骨(しつがいこつ)とは、いわゆる「ひざのお皿」のことです。
私たちが歩くにはひざが伸びたり曲がったりする必要がありますが、膝蓋骨はこの曲げ伸ばしに関与している骨です。
膝蓋骨の脱臼
正常なひざの状態では膝蓋骨は腱で固定されて、大腿骨の溝に収まっています。通常は膝蓋骨がこの溝を前後に動くことにより、ひざの曲げ伸ばしが行われています。
しかし、骨の形成不全により大腿骨の溝が浅い場合、上手く収まっていたひざのお皿の骨が溝からはずれてしまうことがあります。これが膝蓋骨脱臼です。
ちょうど、敷居にぴったりとはまっている障子はなめらかに開け閉めができますが、溝が浅いと開けた拍子に障子がはずれてしまうのに似ています。
膝蓋骨脱臼は脚の内側にはずれる場合が多く、これを内方脱臼(medial patellar luxation)といいます。このpatellarとは膝蓋骨のことであるため、膝蓋骨脱臼自体が「パテラ」とよばれています。
症状グレード
膝蓋骨脱臼はその進行状況や症状によって、4つのグレードに分類されています。出典資料により少々の違いがありますが、基本的な内容は次のようになっています。
グレード 1:無症状(脱臼後、自然に修復する)
〃 2:歩行時に時折スキップをする
〃 3:膝関節を曲げたまま歩行する
〃 4:常時脱臼し、うずくまり姿勢で歩行する
膝蓋骨脱臼が確認された場合、基本的には早期の手術が必要です。これは脱臼部位の整復や、成長に伴う骨の変性を防ぐためです。これより手術の対象となるのはグレード3までとされています。
残念なことですが、グレード4に入ると手術等の処置をしても完全な回復は見込めず、種々の症状が残ってしまいます。膝蓋骨脱臼に限らず、早期発見と早期治療はすべての疾患において大切ということです。
膝蓋骨脱臼の発生状況
一般的に膝蓋骨脱臼は小型犬に多いといわれています。では実際の調査結果としてはどうなっているのでしょうか?
発生率
日本大学の安川慎二はイヌの膝蓋骨内方脱臼に関する詳細な発生調査を行っています(2015年)。
○調査期間 2004年~2015年
○調査対象 関東地方の動物病院に来院したイヌ 合計2,770頭
この中で、膝蓋骨内方脱臼の発生率は19.2%(533頭/2,770頭)でした。全体のおよそ5頭に1頭の割合で、この疾患が発生しているということになります。
好発犬種と年齢
犬種としては、やはりヨークシャー・テリア、ポメラニアン、マルチーズといった小型犬において高い発生率を示していました。特にヨークシャー・テリアでは42%(40頭/95頭)という高い値でした。
また、罹患犬の発症年齢は4歳(中央値)でした。3歳未満の症例が全体のおよそ40%を占めていて、大多数が成長期に好発していることが確認されました。
発見時のグレード
さらに安川はここでとても大切な調査結果を報告しています。それはオーナーが膝蓋骨脱臼を発見した時の症状グレードです。
グレード1では時々脱臼するものの、特に症状は確認されませんので、このレベルで発見することは非常にまれです(2.3%)。
グレード2および3になりますと、散歩中などで「歩き方がちょっと変かも?」と気付くオーナーが徐々に増え始めます(それぞれ13.8%、18.6%)。
問題は次です。明らかな跛行が確認されるグレード4で動物病院に来られる割合は全体の50%という結果でした。別の言い方をすると、膝蓋骨脱臼で来院するイヌの半数はすでに手術は不適であり、処置後も完全な回復は見込めないということです。
オーナーが臨床症状を確認できた割合は、膝蓋骨脱臼の症状グレードが高くなるにつれて増加するということが判りました。少しでも「変な歩き方をしているな」と気付いたら、すぐに獣医師に相談することが必要です。
膝蓋骨脱臼の対応
膝蓋骨脱臼の対策・対応は発見、治療、ケアの3つからなります。このうち治療(手術、疼痛管理など)は獣医師の担当ですので、わたしたちオーナーが行うべきことは発見とその後のケアになります。
跛行の早期発見
先ほど、膝蓋骨脱臼により動物病院で治療を受けるイヌの半分はグレード4に入っていることを紹介しました。しかしこの時点での来院では、処置後も少なからず何らかの後遺症が残り、愛犬のQOL(生活の質)の低下を招きます。
このためにも私たちは毎日の生活において、愛犬の歩行異常・跛行を確認する観察力をもつ必要があります。
家庭内のケア
動物病院での治療後、私たちは何に注意してケアを行っていけば良いのでしょうか。最後に身近なところで対応できる3点をお伝えしましょう。
①体重管理
体重の増加(肥満)はイヌの脚に負担をかけてしまいます。余分な脂肪は落として、筋肉を維持することが体重管理の基本方針です。高タンパク質で低脂肪である良質な肉を給与することは良策でしょう。
②室内環境
部屋の中では、床の滑り止めや段差の解消を行います。特にフローリングの床にはマット等を敷いて、愛犬の膝に余計な負荷がかからないようにして下さい。
③適切な運動
運動はストレスの解消だけでなく、筋肉の維持にも必要です。ただし無理は禁物ですので、愛犬が痛みを感じていないか注意深く確認してあげて下さい。
今回は跛行の発見と脱臼について考えました。中でも膝蓋骨脱臼(パテラ)は5頭に1頭の割合で、3歳未満の小型犬に好発していることが判りました。
成長期の小型犬は遊び盛りで走るのが大好きです。オーナーのみなさんは膝蓋骨脱臼の早期発見のためにも、跛行の有無をはじめとして、この時期の愛犬の歩様に対する観察眼をぜひ養って下さい。
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。