獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「薬剤耐性菌」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
私たちヒトが風邪をひくと病院で薬をもらい、ケガをしたらドラッグストアで塗り薬を購入します。しかし、これらの薬が効かなかったらどうしますか?今回のテーマは「薬剤耐性菌」です。

抗生物質

抗生物質とは細菌を殺したり増殖を抑える薬をいいます。ペニシリンやテトラサイクリンなどに馴染みがあると思います

抗生物質のしごと

抗生物質のことを「化膿止め」とも呼んでいます。そのしごとは雑菌や病原菌が体内で増殖するのを抑えることです。

細菌の増殖を抑えるには2つの方法があります。1つは積極的に菌を殺す方法(=殺菌作用)、もう1つは菌の活動をジャマする方法(=静菌作用)です。

抗生物質の作用

では少し抗生物質が細菌に効くしくみを見てみましょう。共通しているのは、菌が生きていくためのいろいろな活動を阻害するということです。

○タンパク質の合成を阻害する
○核酸(DNA、RNA)の合成を阻害する
○菌体を保護している細胞膜や細胞壁の合成を阻害する

みなさんがご存知のペニシリンは細胞壁の合成を阻害し(殺菌作用)、テトラサイクリンはタンパク質の合成を阻害することにより(静菌作用)、菌の増殖を抑えます。

なお、以上のしくみは細菌にあてはまるものであり、抗生物質はインフルエンザなどのウイルスに対して効果はありません。

薬剤耐性菌

薬剤耐性菌とは薬剤すなわち抗生物質が効かない細菌のことをいいます。

MRSA

日本はもちろん世界中で重大な問題となっている薬剤耐性菌にMRSAがあります。MRSAとは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の頭文字をとったものです。

当初MRSAはメチシリンという抗生物質が効かない菌とされていましたが、その後の研究により他の薬剤に対しても広く耐性を持っていることが判りました。

MRSAに感染してしまった患者は治療に用いる有効な抗生物質がないため、入院期間の延長や死亡率の上昇が問題となっています。

耐性菌の出現

では、薬剤耐性菌はなぜ生まれてきたのでしょうか?一言でいいますと「抗生物質の使い過ぎ」です。

抗生物質にはそれぞれ「使用量と使用期間」が決められています。これを守っていれば目的とする病原菌の増殖を抑えることができます。しかし、病原菌も生物ですのでなんとか生き残るための工夫をとります。

その工夫の1つに「突然変異」があります。何億、何十億という細菌の中にわずかですが、その抗生物質に対して抵抗性をもつものが生まれます。これは生物の進化というものです。

この突然変異を起こした細菌に対して私たち人間は「何だか少し効き目が弱くなったような気がする…」と感じ、その結果「前より少し多めに、少し長めに使おう」と対応してしまいます。

これによりまた生き残りに成功した細菌が増殖します。するとまたまた人間は「前よりも、もう少し…」とイタチゴッコの末に薬剤耐性菌だけがどんどん増えてしまうというわけです。

抗生物質の利用現状

抗生物質は私たちの生活においてなくてはならないものになっています。では、そもそもなぜ使い過ぎてしまうのでしょうか?

厚生労働省

厚生労働省では薬剤耐性菌の広がりを防ぐために、日本国内の抗生物質や薬剤耐性菌の発生現状について調査を行っています。

その中で次のような意識調査報告がありますので紹介します(薬剤耐性ワンヘルス動向調査2017年報告書)。

国民の意識

私たちは抗生物質についてちょっとチグハグな意識を持っているようです。(対象3,390人複数回答可)

アンケート①
「抗生物質を服用することになった理由は?」
…風邪(45.5%)、インフルエンザ(11.6%)、発熱(10.7%)その他(32.2%)

アンケート②
「不必要に抗生物質を使用すると効かなくなる?」
…正しい(67.5%)、間違い(3.1%)、わからない(29.4%)

アンケート③
「抗生物質はウイルスをやっつける?」
…正しい(46.8%)、間違い(21.9%)、わからない(31.3%)

どうやら私たちは抗生物質の使い過ぎがよくないことは知っていますが、風邪やインフルエンザなどのウイルスに対しても効果があると勘違いしているようです。(一般的な風邪の原因の80~90%はウイルスといわれています。)

医師の立場

次のアンケートでは大変興味深い結果が出ています。今度は患者に薬を処方している医師への調査です。(対象612人回答)

アンケート④
「(ウイルスによる風邪のように)適応外の患者が抗生物質を希望する場合、どのように対応していますか?」
…希望通り処方する(8.2%)
…説明しても患者が納得しない場合は処方する(56.4%)
…説明して処方しない(33.0%)

私たち患者の半数以上は、その認識不足から医師の立場を否定しても抗生物質を要望しているということです。これが抗生物質の不必要な使用の大きな背景になっています。

以上のアンケート結果は、ペットにおいても同じことが言えるのではないでしょうか?

動物の抗生物質

ここからはペットなど動物たちの抗生物質について見てみましょう。

動物用の抗生物質

動物用の抗生物質には治療に使用するものの他に、家畜用として成長促進を目的とする飼料添加物というものも含まれます。

近年の動物用抗生物質全体の販売量(原末換算量)は、2009年(854.50トン)、2011年(793.75トン)、2013年(780.88トン)と減少傾向を示しています。

ペット用の抗生物質

ではペット用としてはどれくらい使用されているのでしょう。推定販売量(原末換算量)は、2009年(3.86トン)、2011年(8.10トン)、2013年(10.74トン)という報告があります。

ペット用の抗生物質は動物用全体のおよそ1.4%ですが、先ほどのデータとは逆に近年は増加しています。

ペットの飼育頭数増加に伴って、治療に用いられる抗生物質の使用量は年々増えてきているのです。

ペットとヒトと耐性菌

最後にペットにおける薬剤耐性菌の拡大防止策について考えてみましょう。

ペット診療と耐性菌

鳥取大学の原田和記の報告(2017年)では、動物病院でのペットの診療において、約80%の獣医師が薬剤耐性菌を確認しているとのことです。

さらに耐性菌を確認する分野としては、皮膚科(約70%)、耳鼻科(約50%)、泌尿器生殖器科(約50%)であるとも報告しています。

確かにペットにおいて皮膚病、外耳炎・中耳炎、膀胱炎は大変ポピュラーな疾病であり、ともに細菌感染が主体となっています。抗生物質の使用の増加による耐性菌の出現が危惧されます。

ペットとMRSA

世界ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染によって、多くのヒトが死亡していることを述べました。この辺でMRSAとペットとの関係が気になってきました。

海外の研究者が動物病院のスタッフと治療を受けているペットを対象にMRSAの保有状況を調査しています(Loefflerら 2005年)。その結果、MRSAの分離成績はスタッフ(17.9%)、イヌ(9%)、病院施設(10%)であり、ヒトとペットの相互感染が指摘されています。

日本でも酪農学園大学の臼井優は、動物病院のスタッフ、ペットオーナー、動物がMRSAのレゼルボア(病原巣)となっている可能性があると報告しており、ペットを介する院内感染対策の意識が重要であると述べています(2017年)。

三者の健康的な関係

私たちのペットにおいてMRSAの保有率はまだ低いものの、その他の薬剤耐性菌は確実に増えてきていると言っても良いでしょう。ではその拡大防止策はどのようにすればいいのでしょうか。

残念なことですが今回紹介した調査結果から、動物病院、ペット、そしてオーナーの三者は何かしらの耐性菌を保有していることは確かです。注意すべき点はこの三者の関係を健康的に維持することです。

動物病院は院内感染の防止に努め、診療したペットへ不必要な抗生物質を投薬しない。オーナーは正しい知識を身に付け、獣医師に不要な抗生物質を求めない。さらにペットへの過度の接触を避けて、ヒトとペットの間で耐性菌の相互感染を防止するといったことです。

抗生物質はその素晴らしい効果により医療現場で過度なまでに使用され、これが耐性菌の出現を招く結果になりました。

これを受けて抗生物質の使用量を必要最小限に抑え、その代り生体が持つ免疫力自体をアップさせるという考え方が注目されています。

私たちペットオーナーは、抗生物質はお守りや万能薬ではないことを理解し、その正しい使い方を常に意識する必要があると考えます。

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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