「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
今回はフード添加物の1つである「酸化防止剤」について解説しようと思います。
目次
フードの劣化
ペットフードに添加物が加えられる理由には、栄養の補強、品質の保持(保存性)、見栄え・食感の向上の3つがありました。酸化防止剤は保存料やpH調整剤と同様にこの中の「保存性」を応援するものです。
劣化の要因
フードが劣化する背景には原料に由来するもの(内部要因)と、保管条件に由来するもの(外部要因)の2つがあります。
内部要因としては、原料の酸化や原料がもっている酸化酵素が主体になります。フード原料において酸化を受けやすいものには、肉類のあぶらである油脂や魚粉・魚油があります。
外部要因とは製造工場での加工プロセス、輸送および家庭での保管条件をいいます。具体的には温度や日光の影響のことです。
劣化の場面
フードの劣化は製造工場、輸送、家庭の3つの場面で起きます。工場では解凍された肉や魚が細かくカットされミキシングされるたびに空気(酸素)に触れて酸化されます。
完成品は輸送時や倉庫に保管されている間に外装(紙、ビニールなど)を通して、酸素や熱・光との反応が進みます。したがって、輸送や保管の時間は短いほど劣化のリスクは低くなります。
最後はみなさんがフードを購入された後の家庭での保管状態です。賞味期間とは、あくまでも未開封が条件になっています。開封することにより空気に触れて酸化がスタートしますので早めの消費が大切です。
このように、フードはメーカーの工場で製造が開始されたときから劣化が始まるため、いろいろな酸化防止剤が添加されているわけです。
油脂の酸化
フードが劣化する1番の原因は油脂の酸化によるものです。では酸化はどのようなしくみで起こるのでしょうか?
酸敗
油脂が酸化されることを酸敗といいます。ここで油脂(あぶら)のかたちを少しおさらいしましょう。油脂は1つのグリセリンと3つの脂肪酸からできています。酸化されるのはこの脂肪酸です。
脂肪酸はいくつもの炭素(C)が手をつないだ形態をしています。炭素は4本の手をもっていて、片手でつないだり両手でつないだりします。この両手でつないでいる箇所を「二重結合」と呼びます。
実はこの二重結合の部分は不安定なため、空気中の酸素はここをターゲットとして入り込んできます。その結果、「過酸化物」というものができてしまいます。これが油脂の酸化、すなわち酸敗です。
過酸化物の影響
過酸化物はその後、ケトンやアルデヒドといった毒物に変化します。これにより、古いフードでは独特の酸敗臭がしたり、pHの低下が起こります。
酸敗したフードを食べたペットは腹痛、下痢、肝臓障害などを発症する場合があります。また実験動物のマウスでは、からだの免疫細胞が障害を受けるという報告もあります(大荒田素子 千葉大学 2002年)。
保管条件とフードの酸化
私たちはフードをまとめ買いすることがあります。ここでは家庭での保管条件(外的要因)とフードの酸化について考えてみましょう。
保管温度と酸化の関係
日本大学の宮原晃義らが市販のドッグフードを用いて、開封後の保管温度と酸化の進行度合いの関係について報告しています(2004年)。試験概要は次のとおりです。
○供試フード
…市販のドッグフード9種類(ドライ7種類、ウエット2種類)
○開封後の保管温度を3パターン設定し4週間観察
…室温(20℃)、冷蔵(4℃)、窒素充填(20℃)
○結果
…酸化を最も防いだのは窒素充填(20℃)保管の条件であった
ドライフードを冷蔵保存すると夏場では逆に結露してしまうことがあります。また、冷蔵庫内にペットフードを袋のまま保管することは、食品の衛生管理の点からもお薦めはできません。
この試験結果から、私たちの家庭では窒素充填の代わりに開封後は袋からしっかりと空気を追い出し、ビニール袋などに入れて涼しい所に保管するのが実際的と考えられます。
なお、最も酸化が進行した室温保管4週後の数値(酸価)でも、イヌの健康に影響はない程度とのことです。
日光と酸化の関係
フードの酸化は開封後、空気に触れることで進みます。では酸素以外で何か酸化を進めるものはないのでしょうか?
日本大学の吉田みず穂らはドッグフードにおける日光と酸化との関係について試験を行っています(2005年)。
市販のジャーキータイプのドッグフード3種類を用いて、開封後もう一度密封します。それぞれに15日間直射日光をあてて保管し、酸化の程度を測定しました。
結果として、空気に触れないように密封していても、直射日光があたると3品とも酸化が進んでいくことが確認されました。(なお、最も酸化が進行したものの数値でもイヌの健康に影響はない程度とのことです。)
以上2つの試験結果から、フードは私たちの家庭においても酸化が進むことが判りました。
近頃のフードは包装素材が改良されて、空気(酸素)や光が中のフードに触れない様な工夫がされています。しかし、購入後の保管期間中にも酸化のリスクがあることは理解しておいて下さい。
フード酸化防止剤
ではこのへんでペットフードによく使用されている酸化防止剤について見てみましょう。酸化防止剤はその由来によって化学合成系と天然系の大きく2つに分けられます。
合成酸化防止剤
化学合成系にはエトキシキン、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)といったものがあります。
何だか舌を噛みそうな名前ですが、元々はプラスチックや化粧品などの工業製品の酸化を防ぐためのもので、これらがフードにも活用されています。
エトキシキンは農薬や家畜の飼料に使用されることが多く、ペットフードではあまり見かけません。BHTとBHAは輸入品のフードによく使用されていて、この2つは相乗効果があるため、しばしば一緒に添加されています。
エトキシキン、BHT、BHAはもちろんペットフードの酸化防止剤として使用が許可されていますが、発がん性の有無などの点から食品関係への利用に対して疑問視する意見があります。
これを受けてペットフード安全法では、上記3種類の酸化防止剤には使用基準(添加濃度の上限値)が設定されています。
天然酸化防止剤
天然物に由来する酸化防止剤としては、トコフェロール(=ビタミンE)や近頃広く使用されているローズマリー抽出物などがあります。
フードの表示をみるとトコフェロールは「ミックストコフェロール」と記載されています。これはトコフェロールには4つの仲間(α、β、γ、σ)あり、それぞれ安定性や抗酸化活性に違いがあるため、バランスよくミックスしたものということです。
これら2つの天然酸化防止剤は使用基準がなく食品添加物でもあるため、ペットオーナーのみなさんの安心感を得ているようです。
ローズマリー抽出物
最後に天然物由来の酸化防止剤であり、食品添加物でもあるローズマリー抽出物を少し紹介しておきましょう。
ローズマリーとはシソ科のハーブの一種で、ロスマリン酸、カルノソール、カルノシン酸といった複数の有効な抗酸化物質を含んでいます(松藤 寛ら 日本大学 2010年)。
三菱化学(株)の城戸浩胤の報告によりますと、ローズマリー抽出物はビタミンCやビタミンE(=トコフェロール)よりも高い酸化抑制効果をもっているとのことです(2004年)。
さらに、食品酸化の2つの背景である内部要因(油脂、酵素)と外部要因(光、熱)の両方に対しても劣化を抑制する効果があるとも述べています。
このようにローズマリー抽出物は、安全性および有効性が高い酸化防止剤の1つであるといえます。
ペットフードは作ったその時から劣化が始まります。その点では手作りフードが理想的ですが、なかなかそういう訳にもいきません。
酸化防止剤はフードの酸敗を抑えることによりペットの健康維持をサポートするものです。この機会にフード購入時にどのような酸化防止剤が使用されているか確認してみましょう。
関連アイテム
ホリスティッククッキング
生食を食べるのと同じくらい新鮮な国産ドッグフード
無添加おやつ
人間も愛犬も一緒に食べられる安心の手作り感触の無添加おやつ
生肉
生きた酵素や多くの有用菌(乳酸菌など)、有機ビタミンなどが豊富
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。