獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「マラセチア皮膚炎」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
前回、アトピー性皮膚炎の背景の1つとして、マラセチア感染について少し触れました。今回はこのマラセチアと皮膚バリアの関係について取り上げようと思います。

イヌの皮膚/耳疾患

動物病院において、イヌの最も多い診療科目(病気の種類)は何だと思いますか?正解は皮膚疾患です。

診療科目トップ3

アニコム家庭どうぶつ白書(2018年)によると、イヌの疾病別の診療頭数割合は次のようになっています。(調査頭数 507,375頭)

第1位: 皮膚疾患(24.9%)
第2位: 消化器疾患(23.5%)
第3位: 耳の疾患(16.0%)  

耳の疾患を皮膚と同じジャンルと考えた場合、診療のおよそ40%は皮膚関係ということになります。

なお、ネコの場合は消化器疾患(15.2%)、泌尿器疾患(13.4%)、そして皮膚疾患(9.0%)となっています(調査頭数 85,717頭)。皮膚/耳の疾患はペットたちの大変大きな問題といえます。

皮膚疾患の診療

ここではイヌの皮膚/耳疾患の特徴について確認しておきましょう。全国の動物病院669施設を対象とした皮膚疾患のアンケート調査報告があります(永田雅彦ら ASCどうぶつ皮膚病センター 1999年)。

これによると季節別の診療割合としては、春(17.7%)、夏(64.5%)、秋(8.0%)、冬(0.1%)、通年(9.2%)という結果でした。やはり春~夏といった高温多湿な時期において皮膚疾患は目立ってくるようです。

また、対象534頭においての皮膚疾患の治療後の転帰では、軽快(19.5%)、継続治療(52.2%)、無処置観察や死亡など(28.3%)という結果でした。

このように、イヌの皮膚/耳疾患は夏場を中心として発症し、完治しにくいという特徴があります。

イヌの外耳炎

耳は外耳・中耳・内耳の3つの部分に分かれていますが、耳の疾患といえばほとんどは外耳炎になります。

外耳炎とは耳穴から鼓膜までの部分である外耳道の炎症をいいます。ヒトと違って、イヌやネコではこの外耳道がL字に曲がっているため、どうしても不潔になりやすいという欠点があります。

イヌの耳の疾患では、原因未定の外耳炎(57.0%)、細菌性外耳炎(15.9%)、そしてマラセチア性外耳炎(11.1%)という内訳になっています。

マラセチア感染

いよいよ今回のテーマであるマラセチアが登場しました。ここではマラセチア感染について解説します。

マラセチアとは?

マラセチアとはちょうどボウリングのピンの様な形をした真菌(=カビ)の1種で、ヒトや動物の皮膚に常在しています。いくつもの仲間がありますが、M.pachydermatis(マラセチア・パチデルマティス)という種類がイヌやネコの皮膚炎・外耳炎の原因菌として知られています。

この皮膚/外耳疾患の原因菌であるマラセチアは次のような性状をもっています。

①弱アルカリ性の環境下で増殖する
②皮脂や脂質を分解する酵素をもつ
③皮膚のバリア機構を壊す

これら3つがどのようにアトピー性皮膚炎に関係してくるのかは、後ほど説明します。

マラセチア皮膚炎

ペットの皮膚や外耳道にマラセチアが感染増殖することによっておこる皮膚疾患がマラセチア皮膚炎やマラセチア性外耳炎です。

病変の好発部位は外耳(耳介と外耳道)、口唇、鼻、肢、指間、腋窩(わきの下)、内股になります。また症状は、紅斑、かゆみ、脱毛、脂漏、落屑、肥厚などです。

この皮膚炎は診断基準が確立されていません。マラセチアは健康なペットの皮膚にも常在していますので、かゆみや脱毛を示しているだけでは、マラセチア皮膚炎とはいいきれません。

動物病院では、患部にマラセチアを確認して、抗体測定や免疫反応などの検査結果から総合的に判断します。

マラセチア保有率

マラセチアはペットの皮膚に常在し、イヌの外耳炎原因菌でもあります。では日本のイヌはどれくらいこの菌をもっているのでしょうか?

大阪府立大学の寺本英司がイヌの外耳道におけるマラセチアの保有状況を調査していますので紹介しましょう(2016年)。

外耳炎との関係

動物病院とトリミングショップに来たイヌを対象にマラセチアの保有率を確認した結果、次のような成績でした。

○動物病院においての調査
  外耳炎罹患犬(55.0%)、非罹患犬(26.9%)
○トリミングショップにおいての調査
  外耳炎罹患犬(27.3%)、非罹患犬(16.3%)

このように、外耳炎にかかっているイヌは高率にマラセチアを保有していることが判ります。

耳の形状との関係

外耳炎は垂れ耳の犬種に多いイメージがあります。寺本はイヌの耳の形とマラセチアの保有率についても報告しています。結果は以下のとおりです。

○垂耳犬種
外耳炎罹患犬(55.7%)、非罹患犬(42.3%)
○立耳犬種
外耳炎罹患犬(52.5%)、非罹患犬(22.7)

耳の中のマラセチアの有無は、イヌの耳の形状とは直接関係がありませんでした。垂耳犬種は耳の中が湿りがちであり、立耳犬種では比較的風通しが良いことは確かです。どうやら、マラセチアは乾燥をさほど苦手としていない菌のようです。

これはマラセチアが真菌というカビの仲間であり、細菌と比べて生きてゆくのにあまり水分を必要とせず、加えて皮脂をエサにして皮膚表面に繁殖する微生物であるためです。

皮膚炎の発生と対応策

では最後にマラセチア皮膚炎の発生のしくみと対応策を見てみましょう。

皮膚バリアと皮脂

アトピーなどアレルギー性皮膚炎は、原因物質アレルゲンが皮膚に付着し、内部に侵入することから始まります。しかし、からだにはこのアレルゲンをブロックするしくみがあります。これが皮膚バリアです。

皮膚バリアの最前線は皮脂です。皮脂とは皮膚表面に分泌される脂(あぶら)のことで、脂肪の膜を作って皮膚や被毛の表面をコーティングしています。この皮脂には大きな2つのはたらきがあります。

①皮膚と毛に光沢をあたえる
②皮膚に付着した細菌や真菌を殺す(殺菌作用)

脂肪分解酵素

このように皮脂は皮膚表面にとって大切なバリアですが、マラセチアはこの皮脂・脂肪を分解する酵素リパーゼをもっています。マラセチアは殺菌作用がある皮脂を逆にエサにして生きているのです。

脂肪は皮脂の他にもう1つ、皮膚細胞の膜成分でもあります。マラセチアはその酵素を使って、皮脂だけでなくその下の皮膚もジワジワと分解してゆきます。これにより皮膚バリアはもろくなり、アレルゲンが侵入しやすくなってしまうわけです。

皮膚内部に侵入した各種アレルゲンや皮脂・脂肪の分解産物は、炎症やかゆみの原因となりアレルギーのスイッチが入ります。このようにして、マラセチア感染はアトピー性皮膚炎の誘因、そして悪化因子となります。

皮膚炎の対応策

動物病院の診察を受けマラセチア皮膚炎と診断された場合、治療方法として①シャンプー ②抗真菌薬の塗布 ③内服薬(重症な場合)の3つが実施されます。

この中でシャンプーはミコナゾールなどの抗菌剤が配合されたものが有効です。また、シャンプー時はすぐに洗い流さずに、15~20分程度時間をかけて行うと除菌作用がアップしてより効果的です。
 
加えて、塗り薬や飲み薬も有効ですが、長期間の投与は耐性化のリスクがあるため要注意です。やはりマラセチア皮膚炎の対応はシャンプーによる皮膚・被毛の洗浄と殺菌が基本といえます。

今回はアトピー性皮膚炎の大きな背景の1つであるマラセチア皮膚炎について話をしました。次回は皮膚バリアのしくみについてもう少し詳しく説明しようと思います。

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(以上)

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