獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「下痢治療とその後のケア」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
ペットが下痢を起こした場合、近所の動物病院に連れていきます。そこで獣医師から薬をもらったり、治療時のアドバイスを受けることになります。その時オーナーのみなさんが行う下痢のケアと注意点が今回のテーマです。

絶食の罪

動物病院で下痢のペットを診てもらうと、まずは「絶食」を行うよう指示を受けます。これは下痢でダメージを受けた腸を少し休ませるためです。

絶食の功罪

絶食には功と罪の2つの面があります。功(良い面)は先ほども述べましたが、食べたものの消化吸収を止めて、一時的に腸粘膜を休ませてあげるという事です。では、罪(悪い面)とは何でしょうか?

東京大学動物医療センターの大野耕一は、「絶食の罪」という少々ショッキングな表現で次の4点を紹介しています(2010年)。

①精神的ストレス
  …空腹感というストレスによる悪影響
②胃腸障害
  …腸粘膜・絨毛の萎縮による下痢回復の遅れ
③口腔内障害 
  …唾液の分泌減少による口腔内の不衛生化
④胆汁うっ滞
  …胆汁の分泌ストップ(胆石のリスク)

報告者の大野は「下痢の時に絶食を行う事は間違いである」とは述べていません。慢性の下痢症の対応として、ダラダラと絶食を長引かせると逆効果であり、二次的に下痢の回復を妨げると注意を呼び掛けているのです。

絶食が有効なのは細菌やウイルス感染など急性の下痢症などであり、この場合も絶食は24時間程度の短期間に抑えるのが原則です。絶食は下痢を起こしている動物から体力を奪う処置でもあります。

小腸粘膜の変化

「絶食が下痢回復の遅れを招く」とはどういう意味でしょうか?次のような佐賀大学の柿本隆志らの実験報告があります(2005年)。柿本らは実験動物のラットを72時間(=3日間)絶食させて腸の粘膜の変化を調べました。結果の概要は以下のとおりです。

〇小腸粘膜の厚さ
  …絶食群は対照群のおよそ80%まで減少
〇小腸粘膜の死細胞の割合
  …絶食群は対照群の11倍に増加

絶食を3日間行うことにより、粘膜の細胞は自然に死んでゆき、その結果小腸の粘膜は厚みを失ってしまうことが判ります。

絨毛の変化

小腸大腸は栄養素や水分を吸収するしごとをしています。この時、腸の内容物との接触面積が広い方が効率的にこれらを吸収することができます。そのため腸の粘膜表面には無数のヒダヒダがあり、これを「絨毛(じゅうもう)」と呼んでいます。

絨毛は食事の量によって伸びたり縮んだりします。食事をしっかりと摂っていると長く伸びて、効率よく栄養素や水分を吸収します。これに対して絶食を行うと、粘膜や絨毛の直接のエネルギー源の供給が止まってしまうためにだんだんと短くなってゆきます。

下痢の対応でダラダラと絶食を続けていると、回復して食事ができるようになっても腸粘膜や腸絨毛は萎縮した状態となり、栄養吸収力は弱いままです。長期間の絶食は逆に下痢回復の遅れを招くとはこういうことでした。

腸疾患と腸内細菌

お腹の調子が悪い時、善玉菌は減り悪玉菌が増えているといいます。何となくそのような気はしますが、ここではしっかりとした試験データを確認してみましょう。

腸内細菌のバランス

イヌを腸の健康状態によって3つのグループに分けて、それぞれの腸内細菌叢を測定した報告があります(Kimuraら 日清製粉㈱中央研究所 1983年)。

●供試動物: イヌ
●グループ: 
…健康群(13頭)、急性腸炎群(6頭)、慢性腸炎群(7頭)

お腹の中にはさまざまな腸内細菌がいますが、善玉菌代表:ビフィズス菌を保有する頭数割合を見てみると、健康群では全頭(100%)保有していましたが、慢性腸炎群では0%でした。

これとは逆に、悪玉菌代表:病原性大腸菌の保有頭数割合は、健康群では0%、急性および慢性腸炎群では値が高くなっていました。

善玉菌の減少

先ほどの数値は善玉菌および悪玉菌の保有頭数割合でしたが、今度はお腹の中の菌数の変化です。糞便1gあたりに含まれる善玉菌の菌数を見てみましょう。

善玉菌にもいろいろな種類がありますが、ここでは乳酸桿菌(ラクトバチルス)の菌数を測定しています。乳酸桿菌数は健康群の値に対して急性腸炎群ではおよそ1/10、慢性腸炎群に至ってはおよそ1/300にまで減少していました。

腸炎とは病原菌やウイルスの感染の他に、ストレスが関係するものなど背景は様々ですが、共通して下痢や軟便を伴います。ヒトはもちろん、動物の便の状態と腸内細菌バランスにも深い関係があることが判ります。

下痢や軟便の時に、バランスがくずれた腸内細菌叢をもう一度整えるために善玉菌の補給を行う事は理にかなった処置です。これがすなわちプロバイオティクスです。

治療とその後のケア

動物病院でペットの下痢の診療を受けると、下痢止めの薬といっしょに整腸薬が処方されます。最後にこれら2つの薬の役割分担についてまとめておきましょう。

止瀉剤と整腸剤

止瀉(ししゃ)剤とはいわゆる「下痢止め」のことです。成分としては腸の運動を抑える薬、腸粘膜からの分泌を抑制する薬、さらに鎮痛薬なども含まれています。短時間で下痢の症状をストップさせる即効効果を担当します。

整腸剤にはダウンしている消化機能を応援する消化酵素、腸内細菌叢のバランス回復として乳酸菌などの善玉菌が配合されています。整腸剤はあくまでも下痢症状の緩和や回復サポートを受け持つ薬です。

併用の効果

動物病院で処方される止瀉剤と整腸剤の併用効果に関する報告があります(松鵜 彩ら 鳥取大学 2009年)。試験概要は次のとおりです。

●供試犬: 急性下痢症のイヌ
●グループ 
  :止瀉剤投与群(21頭) …生薬配合
  :整腸剤投与群(29頭) …生菌および消化酵素配合
  :併用群(29頭) …止瀉剤+整腸剤
  :対照群(25頭)

各群の下痢が完治するまでの日数を比較したところ、止瀉剤と整腸剤の併用群が平均2.75日間と最も短く良好な成績でした。

前回、慢性の大腸性下痢において食物繊維がお腹の調子を改善してくれる事例を紹介しました。これに対して今回のように即効性が求められる急性の下痢の場合は、止瀉剤と整腸剤の併用(=相乗作用)によって治療効果は増大することが確認されました。

回復後のケア

最後に下痢から回復したペットのケアについて考えましょう。止瀉剤は下痢止めですので、投薬を中止すると再発する可能性があります。これをサポートするものが整腸剤です。しかし、この整腸剤も「薬」ですので投薬の期間は2週間が目安となっています。

下痢の回復後の目標は、薬を使用せず、フードや生活の工夫によって下痢になりにくいからだを作ることです。フード面では発酵食品やサプリメントを活用して、乳酸菌など善玉菌を補給するプロバイオティクスがその1つでとして有効です。

また生活面ではなかなか気付きにくいことですが、ペットのストレスの軽減も忘れないで下さい。この点では日々のストレスを和らいでくれる触れあい・見つめ合い(=オキシトシンの分泌)も効果が期待できるでしょう。

毎日の便の観察はペットの健康管理の基本です。下痢は日常的な疾病ですが、治療と予防・ケアをしっかり分けて対応する必要があります。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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