獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編: テーマ「リビングでの暮らし」

「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
日頃、みなさんのペットは家のどこで生活していますか?居間・リビング、和室、キッチン、寝室などいろいろでしょう。今回はリビングに暮らすペットの安全対策について考えます。

リビングで起きるケガ

不動産会社のチラシを見ていると「ペット飼育可(規約の定め有)」などとよく書いてあります。近頃は賃貸でも分譲でもペットが飼えるマンションが増えています。

ペット飼育OKマンション

マンションでのペット飼育の可否は「管理規約」に定められています。少し古いのですが、分譲マンションの動物飼育規約に関する調査報告があります(久保勝己 大阪市天王寺区保健福祉センター 2007年)。

調査を行った2006年時点では、大阪市内の分譲マンション(合計94)の築年数とペット飼育OKマンションの割合は次のようになっていました。

・築年数21年以上(12.0%)
・ 〃  6~20年(13.3%)
・ 〃  5年以内(80.6%)

今から10年少し前ですが、分譲マンションのおよそ80%においてペットの飼育が認められています。この背景には独身者や夫婦のみの家族の増加、戸建てと同じようにマンションでもペットと暮らしたいという要望が増えてきたことがあると考えられています。

自宅でのケガ発生場所

ペットを飼育できるマンションが増えてきたということは、ペットのケガも増えるということになります。ここでマンション・戸建てを含めた自宅内でのペットの事故・ケガの項目と発生場所を確認しておきましょう(アニコム家庭どうぶつ白書 2012年)。

〇事故・ケガの項目トップ3
  第1位 …異物誤飲(15.1%)
  第2位 …脱臼(6.9%)、外傷(6.9%)
  第3位 …骨折(5.4%)

〇事故・ケガの発生場所トップ3
  第1位 …リビング(39.1%)
  第2位 …ケージの中、周辺(7.5%)
  第3位 …イス・ソファー、その周辺(6.4%)

飛び抜けてリビングでの事故・ケガが多いのは、1日におけるペットの生活時間が長いことがベースにあります。加えてケガの項目として脱臼・骨折が多いことから、リビングでの「転倒」が関係していると思われます。

リビングで発生するケガ

脱臼や骨折は激しい運動時に起こりやすいというイメージがあります。しかし、脱臼は全体のおよそ40%、骨折ではおよそ25%がリビングで発生しています。実際は、散歩中や公園・ドッグランよりも自宅での発生率が高かったということです。

マンションのリビングはフローリングになっています。また、戸建て住宅でもペットと生活する居間・リビングは畳敷きの和室からフローリング洋室に代わってきています。

高い発生率を示している脱臼や骨折の直接の原因は転倒ですが、これにはフローリングが滑りやすいということが背景にあります。フローリングはそうじがしやすく衛生的ですが、ペットにとっては転倒のリスクが高い床材でもあります。

床の滑りやすさ

前回のハウスダストのところでも述べましたが、フローリングに潜んでいるダニの量は少なく、畳やカーペットの1/5~1/10程度です。フローリングはペットがいる住宅には特に適した床材です。

ペットに対応した住宅建材

ペットと一緒に生活をしてゆくと、自宅内にいろいろと改良したい箇所が見えてきます。近年は自宅をリフォームする際に、ペットの生活に合った住宅建材を求めるオーナーが増えてきています。

北海道旭川市内の愛犬オーナー40名に対するアンケート結果では、全体の77%の方々が「家の新築やリフォーム時にペットを考慮した床材を選びたい」と回答しています。そして、床材に対するオーナーの要望は次の3点に集中しています。(松本久美子 林産試験場 2014年)。

①傷・汚れが付きにくい、目立たない
②そうじがしやすい
③滑りにくい

これらの結果に対して報告者の松本は、ペットオーナーの意識が「愛玩動物の所有」から「家族としての共生」に変化してきているとまとめています。このように、オーナーにとってリビングの床材の滑りやすさは、何とか解決したい問題点の1つです。

すべり抵抗係数

建物の床に限らず道路などヒトが歩く箇所では、滑りやすいと転んでしまい、逆に滑りにくくてもつまずいて危険です。そこで床面や地面の「滑りにくさの度合い」を数値化したものがあります。これを「すべり抵抗係数」といいます。

すべり抵抗係数は小さい値=滑りやすい、大きい値=滑りにくいというふうになっています。ここでは床面を例にとって考えてみましょう。同じ床材でも滑りにくさは、履物の種類と床の状態の組み合わせで異なります。

具体的に履物では、靴下を履いた状態は小さい値(=滑りやすい)、素足では大きい値(=滑りにくい)となります。また床面の状態では凍っていたり、油で汚れていると小さい値、乾燥していてそうじがされていると大きい値といった具合になります。

滑りやすい床材は?

では、リビングに使われる各種床材のすべり抵抗係数を見てみましょう。東京工業大学の横山 裕らは、イヌにおける各種床材のすべり抵抗係数を測定しています(2013年)。すなわち、自宅で生活している愛犬にとってどの床材がすべりやすいのか?という調査です。

すべり抵抗係数
  …ゴム系シート(0.783)
  …コルク材(0.529)
  …塩化ビニル樹脂シート(0.400)
  …フローリング(複数平均0.288)

愛犬にとって最も滑りにくいのはゴム系シート、最も滑りやすいのはシートなしのフローリングでした。この結果だけではゴム系シートが一番滑りにくく安全感がありますが、実際は床面に大きな抵抗があると逆につまずきリスクが高く危険です。

愛犬の動作と床材

食事の時間になったり、オーナーが帰宅すると愛犬が駆け寄ってきます。この時、イヌの足底と床面の間にはある程度の摩擦・抵抗がないと滑ってしまいます。

先ほどのデータ報告をした横山は小型犬12頭(1~9歳)を使って、イヌが日常の動作を支障なく行うために、床面にはどの程度のすべり抵抗係数が必要かを調べています。詳しく見てみましょう。

歩き出し

普通にイヌが歩き出す時のすべり抵抗係数は0.311でした。フローリングのすべり抵抗係数はおよそ0.3ですので、イヌは特に支障なくフローリングの上を歩き出すことができるということになります。

回り込み・小走り

次は私たちの足元に回り込んだり、また小走りで寄ってきたりする場合です。この時、床面との間にはおよそ0.4のすべり抵抗係数が必要になります。これらの動作を行うには、フローリングの床では少し摩擦・抵抗が足りません。

回り込みや小走りといった動作を始める時には、足底に滑りが発生していることになります。

飛び出し

最後はイヌが飛び出してくる場合です。この時、床面との間には0.575ものすべり抵抗係数が必要です。愛犬がみなさんオーナーの顔を見て、一気に駆け寄って来るには足底で床面を踏み込まなければなりませんが、ほとんどにおいて滑っていることが判ります。

イヌの足底は肉球と爪からなります。動作を開始する時には爪で床面を蹴り出します。この時爪が床面に食い込まなければ、空滑りが起きてしまいます。リビングの転倒事故はこのようにして起こっていたわけです。

今回はペットが1日の大部分を過ごすリビングでの生活について考えてみました。マンション、戸建て共にリビングの床材はフローリングになっている住宅が多いと思います。

フローリングはそうじがしやすくオーナーにはうれしい床材です。その反面、ペットにとっては日常の動作において転倒(脱臼・骨折)のリスクが潜んでいました。

床材のリフォームはそう簡単なことではありません。このような場合は、手軽に設置ができてそうじも楽な床材シートを活用するのが一案です。ペット用の床材シートは表面に爪が適度に食い込み、愛犬の歩行動作に安心感を与えてくれます。

オーナーのみなさんはいろいろな工夫により、リビングで起こりやすい転倒事故を少しでも減らして、ペットとの安全で楽しい毎日を過ごして下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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