「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。
現在、シリーズで玄米や米ぬかの健康作用についてお知らせをしています。
中でもコレステロールの値を下げてくれるといううれしい働きがありましたが、この作用に大きく関わっているのがγ(ガンマ)-オリザノールという物質です。
目次
こめ油
今回のテーマであるγ-オリザノールはこめ油に含まれる成分です。
まずは、こめ油について見てみましょう。
米ぬかとこめ油
米ぬかにはおよそ20%の油分が含まれています。
こめ油とは米ぬかを絞って得られる油で米ぬか油とも呼ばれます。
こめ油といっても、お米自体から採れるものではありませんのでご注意下さい。
スーパーの食用油コーナーをよく見るとこめ油が並んでいます。
しかし、みなさんの家庭で使われている割合はそう高くないと思われます。
こめ油の原料として使用されている米ぬかは全体の40%以下です。
こめ油の抗酸化力
家庭においての普及程度はまだ低いこめ油ですが、私たちの健康にとって大きな魅力を持っています。
それは抗酸化物質であるトコフェロールの含有量が多いという点です。
トコフェロールとは脂溶性ビタミンの1つである、いわゆるビタミンEのことです。
みなさんの家庭で使われている植物油には大豆油やゴマ油、コーン油、オリーブオイルなどがあります。
では各種油のビタミンE(α-トコフェロール)量を確認してみましょう(日本食品標準成分表 2015年版 七訂)。
〇ビタミンE含有量(㎎/100g)
・ゴマ油(0.4) ・オリーブオイル(7.4)
・大豆油(10.4) ・コーン油(17.1)
・なたね油(15.2) ・こめ油(25.2)
このようにこめ油は大変高い抗酸化力をもつ植物油であることが判ります。
γ-オリザノールとは?
γ-オリザノールとはこめ油中に1~3%ほど含まれている物質です。
今から65年前に日本の研究者(金子良平、土屋知太郎)によって発見されました。
熱に強い抗酸化力
先ほどこめ油にはビタミンE(=α-トコフェロール)が豊富に含まれおり、抗酸化力が強いことを確認しました。
さらにこめ油にはもう1つ強力な抗酸化物質が含まれています。
それがγ-オリザノールです。
サラダ油やゴマ油などの植物油は、炒め物や揚げ物・天ぷらなどに使用される場合が多いと思います。
この時加熱によって、油に含まれているビタミンEは抗酸化力を失ってしまいます。
ビタミンEとγ-オリザノールの抗酸化力と加熱との関係を調べた研究報告があります(福士敏雄 1966年)。
これによると160℃、8時間加熱処理をした結果、ビタミンEの抗酸化力は90%近く失われたのに対し、γ-オリザノールでは80%以上も維持されていました。
〇加熱による抗酸化力の残存率
・ビタミンE(12.4%)
・γ-トコフェロール(83.8%)
このようにγ-オリザノールは耐熱性が強い抗酸化物質であり、こめ油は加熱調理においても大変使い勝手が良い植物油といえます。
手作りフード派オーナーの方は一度試されてみてはいかがでしょうか。
さまざまな作用
γ-オリザノールは食品の他にも医薬品や化粧品など、さまざまな分野で活用されています。
現在までに報告されている作用として、次のようなものがあります(オリザ油化株式会社 2017年 他)
①抗ストレス作用
…脳内の神経伝達物質の代謝に作用する
②抗酸化作用
…油脂の酸化抑制として利用、耐熱性もあり
③高脂血症改善作用
…血中のコレステロール値を抑える
④抗炎症作用
…炎症に関与する細胞に働きその作用を軽減する
⑤抗アレルギー作用
…アレルギー反応に関与する肥満細胞の活動を抑える
⑥2型糖尿病予防作用
…インスリンの感受性を高めて血糖値の上昇を抑える
⑦その他
…美白作用、アトピー性皮膚炎改善作用 など
このように私たちヒトに限らずペットにとっても、γ-オリザノールには期待したい作用がたくさん確認されています。
γ-オリザノールの健康作用
γ-オリザノールには多岐にわたる健康作用がありますが、ここでは高脂血症の改善作用と抗アレルギー作用について少し詳しく解説しましょう。
高脂血症の改善
血中の悪玉コレステロール値を下げる作用は玄米、米ぬかのコーナーにおいて紹介しました。
この時のしくみはこれらに含まれている食物繊維のはたらきによるものでした。
今から50年ほど前に、北海道大学の中村治雄はマウスにγ-オリザノールを注射して、血中のコレステロール値がどのように変化するかを調査しています(1966年)。
試験概要は以下のとおりです。
●供試動物 マウス
●グループ
:対照群(10匹) …無投与
:投与群(10匹)
…γ-オリザノールを1mg/kg/日×30日間投与
●血中の総コレステロール値
:対照群 233mg/dl
:投与群 198 mg/dl
γ-オリザノールの投与により、総コレステロールの値が約15%低下するという結果が確認されました。
もちろんγ-オリザノールには食物繊維は含まれていませんので、この時の作用は何か他のしくみによるものです。
報告者の中村は次の3つの作用によるものと述べています。
γ-オリザノールがコレステロール値を下げる理由
①糞便中への排泄量を増やす
②胆汁中への排泄量を増やす
③肝臓におけるコレステロール合成を減らす
コレステロールは脂(あぶら)の仲間ですが、脂肪のように燃えてエネルギーにはならないため、体内で消費されることはありません。
γ-オリザノールはコレステロールの体外排泄を促進することによりその値を下げています。
柔らかく広い血管
ヒトやペットにおいて高脂血症に注意しましょうといわれる理由には、すい臓や腎臓疾患予防と並んで動脈硬化対策があります。
体中にまき散らされた悪玉コレステロール(LDL)はジワジワと血管の内側に付着してゆきます。
動脈の内側にコレステロールがたまってくると血管は狭く硬くなり、その結果血圧が高い状態になります。
これが動脈硬化のしくみです。
コレステロール値を下げるということは、内側がきれいで広い血管を維持するということです。
大塚製薬㈱の井上佳宏らは、γ-オリザノールと血管内膜の厚さとの関係を以下のように報告しています(1989年)。
●供試動物 ラット
●各グループと血管内膜の肥厚度
:対照群(通常のエサ:10匹) …4.43
:試験群(γ-オリザノール0.5%添加:10匹) …3.86
:試験群(γ-オリザノール1.0%添加:10匹) …3.36
このように、γ-オリザノールはコレステロールの排泄を促すことにより、柔らかく広い血管を維持し動脈硬化の予防に貢献するといえます。
抗アレルギー作用
アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギーは、ヒトやペットにおいて大きな問題です。
最後にγ-オリザノールがアレルギー反応を軽減するしくみを紹介します。
アレルギーはその原因となる物質(=アレルゲン)が体内に入り込むことでスタートします。
体の中ではパトロール役のリンパ球がやってきて、まずはこのアレルゲンを捕まえて身元調査を行います。
次にリンパ球はIgEという抗体を使って、アレルゲンの身元情報を肥満細胞に提供します。
肥満細胞は受け取った情報を元にアレルゲンを攻撃します。
この時の攻撃程度が派手な場合、私たち自身がとばっちりを受けてくしゃみ・鼻水・目の充血といった症状が出ます。
これがアレルギー反応です。
ここでγ-オリザノールの作用ですが、一連のアレルギー反応においてIgEを途中で捕まえます。これによりアレルゲンの情報が手に入らなくなり、肥満細胞は攻撃ができずアレルギーは不発に終わるというしくみです。
体の中に病原体などの異物が入ってきた場合、これを攻撃排除するのが免疫システムです。アレルギーはこの免疫反応が過度に働いてしまった結果です。γ-オリザノールは大切な免疫システムを完全に停止させるわけではなく、ほどほどに抑えるという機序でアレルギー症状を緩和させるというわけです。
日本の食料自給率は40%を割り込み、現在はカロリーベースとして38%です(2016年)。
その内コメの自給率は97%を維持していますので、こめ油に含まれるγ-オリザノールは「唯一の国産油脂資源」などといわれています。
この米ぬかは日本では年間100万トン、全世界では5,000万トンが廃棄されていると言われます。
現在の米ぬかの有効利用はまったく不十分な状態です。
今回紹介したγ-オリザノールは玄米やこめ油に含まれています。
私たちヒトや家畜、そしてペットの健康維持のためにもこれからもっともっと活用されるべき有用成分であると思われます。
(以上)
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執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。